初詣

丸井ブン太

時は一月一日。元旦。毎年恒例になった俺と彼女のデート。神社でお参り。今年も俺は彼女の家の前で待っていると、ガチャと音を立てて扉が開く。と、同時に現れるのは、着物姿の彼女の姿。淡いピンク色が良く似合う。不慣れな足取りでゆっくりと階段を下りてくる。そんな姿にカッコ悪いけども見惚れちまってる自分。
「ブンちゃん!あけまして、おめでとうございますっ」
そんで、俺の前に立つと、コイツは勢い良く頭を下げた。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「お、おう。今年もよろしくな」
言いたいことはいっぱいあったはずなのに、なんだか照れくさくて。それしか言うことが出来なかった。そして、ぶっきらぼうに手を差し出す。
「ホラ、手」
そうすれば、触れる手のひら。気恥ずかしさを堪えて、俺らは歩き出す。きっと、今年もいい年になるはずだ。

切原赤也

「あけおめ〜」
カランカランと音を当てて小走りで近寄ってくるのは俺の彼女。嬉しそうな声とともに俺の視界に映るのは綺麗な着物を着ているそいつ。その覚束無い足がなんとも危なっかしくて俺は足早に彼女に近づいた。
「バカ!走んなよ、こけるだろっ」
目の前でこけられちゃたまらない。新年から縁起が悪いにもほどがある。そんな心配をして言ったんだけど、どうやらコイツには伝わらなかったらしい。むう、と頬を膨らませて怒ってますオーラ。
「そんなドジじゃないもんっ」
その顔が本当に可愛くて。思わず反撃する気力も失せる。此処までコイツに惚れ込んでるんだなと思うと情けないようななんというか。
「はいはい、わかりました。ホレ」
「?」
「手を繋いどけば、お前がこけることないだろ?」
それでもコイツが笑うなら情けなくてもかっこ悪くてもいいかなと思ってしまう。
添えられた左手を握り締めて、さあ、新年の運試しと行こうか。

真田弦一郎

「真田先輩!」
私は待ち合わせ場所で見覚えのある人物を見つけると、その人の名前を呼んだ。そうすれば、はかま姿の真田先輩の姿。…さすが、和が似合う人だ、と思う。振り返った先輩に急ぎ足で駆け寄ると、真田先輩が少し驚いたような表情を浮かべた。
「お、お待たせしました、か?」
着物だから動きづらい。ようやっとのことで私は真田先輩の元に行く。
「い、いや、俺も今来たところだ。あ、慌てなくて良いのだぞっ」
すると優しい言葉。
「だって、先輩の姿見えたので…待たせちゃ駄目だって思ったら…つい」
「転んだらどうするんだ!少しは気をつけろ」
「う、ごめんなさい…」
新年初怒られ。初日からやってしまったと、私の気持ちが少し沈む。それから、真田先輩が新年の挨拶をくれた。私も慌てて挨拶を返すと、先輩は背を向けて歩き出した。ほら行くぞ、といいながら。…素っ気無く言い放たれる。
「せ、先輩…ごめんなさい。怒らせちゃいました…?」
「怒ってなどおらん」
私は少し不安に思い、また急いで先輩の隣まで歩いた。それから言いながら先輩の顔を覗き込む。先輩がまた素っ気無く返事を返すけど。
あ…
するとそこには、顔をちょっと赤くした先輩の顔。
「…先輩、顔真っ赤です」
茶化すように言ったら、更に先輩の顔が赤くなったような気がした。そんな、2006年、1月1日。