プロポーズ珍作戦!?※某月9パロ 2007

切原赤也

好きなアノ子が今日…結婚する。いくらでも告白するチャンスはあったはずなのに結局俺はアイツに告白できずに終わってしまった。中学校・高校・大学…とアイツはいつでも俺の隣に居たというのに、俺はアイツの”恋人”にはなれなかった。多分絶好の告白チャンスを狙っていたんだと思う。
でもその所為で俺はアイツに気持ちを伝えることは出来ず、今日アイツは結婚する事となった。
「あーかーや!どう?似合うっ?」
「…馬子にも衣装」
「もう!そうやって意地悪ばっかり言うんだから」
ツクンと疼く胸の痛みに気づかないフリをして、俺はから目を離した。そうすれば全く〜との軽口が聞こえてくる。…本当は、とても綺麗だと思ったし、それを見てやっぱり好きだとも思う。でもの今日のこの姿は俺のために用意されたものではなく。
「…わ、綺麗だね」
聞こえてきたのは、アノ人の声。男にしては柔らかい声色は俺の耳にすんなりと届く。目の前にいるはその声を聴いて途端笑顔になった。そう今日のコイツの姿は、この人のためのものだ。
「あ、不二さん」
言いながら嬉しそうに笑うにやっぱり胸が痛む。ズキズキズキ。ふざけんなよ。今まで言えなかった気持ちがこんなツケで返ってくるなんて思わなかった。苦しい。不二さんは出会った頃よりも更に大人びた笑顔を向けるとの隣にやってきてのおでこを小突いて言った。
「くす、もう今日からも不二さんになるんだよ?」
「あわわ、そうでした。し…周助、さん…?」
ズキ、ズキ、ズキ。とてつもなく胸が痛くなって俺は眉根を寄せた。
「照れますね」
言いながらほんのりと赤く染まるの顔。…こんな顔俺に向くことは無いんだと思うとやっぱり切ない。どうして俺はに何も言えなかったんだろう。『好きだ』とか『付き合おう』とか言う期間はいくらでも用意されていたと言うのに。
「ったく、人前でいちゃつくなよなー」
軽口を叩いてしまうのは、に出会ってから染み付いた習性みたいなもんだ。コツ、と髪の毛のセットが乱れない程度に叩けばが俺のほうを向いて、頬を膨らませた。
「煩いなー」
なんて言いながらも未だに上気している頬を見ると、どうして俺じゃなかったんだろう、と強く思う。


式は予定通り行われた。15時ごろに行われた挙式では神父の拙い日本語が俺の耳をつんざいていた。ブーケを手にして、不二さんと腕を組んで教会を出てきたに俺は心から祝福できずにいた。幸せそうな笑みも綺麗なドレスも本当は…本当はこんな風に見たいわけじゃなかったのだ。俺は…俺はこの手でを幸せにしてやりたかった。純白のドレスなんかも不二さんが選んだんじゃなくて俺が選んでやりたかったのに。ああどうして隣にいるのが俺じゃないんだろう。何度も何度も後悔する。…ブーケを持って微笑むウエディングドレス姿のは今までで一番綺麗で輝いているように見えた。
それから場所は披露宴へと突入していた。今度の衣装は淡いピンク色のドレス。と不二さんは当たり前のように隣同士に座っている。ぼんやりとを見ればは不二さんと何か話しているらしく耳打ちしあっている。…この距離が遠かった。進行係の男の声が遠くのほうで聞こえるように、俺との距離は果てしなく遠いもののように感じられる。…ふっと、目があった。でもそれはまたすぐに不二さんのこそこそ話で反らされてしまう。
あーあ、本当に切ない。何度後悔すれば良いのか。
「実は俺中学ン時のこと好きだったんだよなぁ」
そう言ったのはブン太先輩だった。ブン太先輩は
「まあもうすんげー昔の事だけどな!」
と茶化すように言った後、ビールをグビッと飲み干した。でもさ…と続く言葉。
「…俺、あん時告白しなかったのは、赤也…お前がいたから何だぜぃ?」
「え、なんスかそれ」
「…お前とがくっつけば良いなーって思ってたって事!」
ケラケラ笑いながらの台詞は本気なのかそうでないのかわからなかった。…というかそろそろ酔っ払ったんじゃないか?一丁前にブン太先輩の心配をすれば、先輩は酔ってない!と断固として首を縦には振らなかった。俺は注がれたビールのグラスを飲むわけでもなく弄ぶ。
…もし、アノ頃に戻れていたなら。
何度も何度も強く思う。俺がもっと大人だったなら。果てしなく続く後悔。はあ。出るのは後悔をいっぱいにつめたため息だけだ。あわ立ちの少なくなったビールを一口飲む。…飲み始めた頃はこれが凄く苦くて、こんなのの何処が旨いんだよとか思っていたけれど、4年も飲み続けていれば、慣れてくるもので、今では平然と飲めてしまう。時が経ってしまったのだと、否応ナシに認識させられて、それを振り払うかのように残っていたビールを一気に飲み干した。
「えーでは二人の成長の証をご覧下さい」
スピーチ係りはさも楽しそうに大きなスクリーンを指差した。そうすれば、真っ暗だったそこにパッと明かりがついて、スクリーンの姿を強調し出す。皆が皆それに釘付けになるように俺もそれに釘付けになった。
初めは新郎、新婦共に赤ちゃん、幼少時代の写真が流れ。場が和む。でも、俺はそんな気分になれなくて、ただひたすらにビールを飲んでいた。
カシャ。
次に聞こえたその音と共に顔を出したのは、中学の頃の。ブン太先輩と仁王先輩がを囲んでいた。俺はと言えばとはすっごく離れた位置に一人ポツン。…これは、中学2年の全国大会後の写真だ。確かあの時3連続優勝できずに俺たち中2の夏は終わった。
「絶対勝つっつーの!」
なんて言ったくせに勝てなくて…沈んでいる所にが来た。それで八つ当たりをしてしまって結局喧嘩。不機嫌なの顔と俺のふて腐れた顔がそっぽを向き合っている。
ああ素直になっていれば良かった。本当は隣で笑っていたかったのに。どうして俺はそれが出来なかったのだろう。
あーあ。やりなおしてぇな。人生、もう一回やりなおしてみてぇな。
そう強く思った時だった。ピカ!と凄い眩しい光が俺を包み込んで、俺は眩しさに目を瞑った。そして聞こえてくる馴染みのある声。
「では、やり直してみるか?」
恐る恐る瞳を開けたときに見えたのは。………………………スーツ姿をしていた筈なのに、何かのお笑いなのか良くわからないが、真っ白な衣装に身を包んだ、真田副部長だった。
「は?え、てゆうか、真田、ふくぶちょ?え?!なんスかその恰好!」
どうしちゃったんスか!酔っ払って頭いかれちゃったんじゃないだろうか?本気で心配になり、真田副部長に駆け寄ると、ゴツ!と俺の頭にゲンコツが降り注いだ。ってぇ。この痛みは紛れもなく本当だ。
「俺は、真田ではあるが、副部長ではない!」
「え、じゃあ誰なんスか…。副部長に双子なんて居なかったと思うんスけど」
しかも、ちょっと変な趣味の。そういいたい言葉は飲み込んで、俺は殴られた頭を抱えながら真田(副部長)を見つめた。そうすれば
「俺は弦一郎の曽祖父だ」
と何か偉そうに言ってのけた。…なるほど。って納得できるわけない。でも見る限り、副部長そのものの顔。…血縁者っつーのは想像はついた。てゆうか本当に副部長じゃないのかよ!そうすれば俺の隣で固まっている副部長の姿が映って。
「え?副部長?」
「だから、さっきから言っておろうに。俺は弦一郎ではなく、源次郎だ…!」
…………………うそ、だろ?
そういいたかったけど、この空間俺と源次郎、さん?しか動いてない状況を見ると納得せざる得ない。ゆっくりと源次郎さんの名前を呼べば、源次郎さんはフッと得意げに笑って言った。
「そなたの願いを叶えに来てやったのだ!」
………俺の将来は前途多難である。…大丈夫なのかよ…オイ。

幸村精市がヘアバンドをつけたワケ2007

幸村精市

「なあ、幸村少年」
時は放課後の部室。部誌を書いている先輩の言葉に俺は顔を上げた。
「何ですか?」
と部誌から目を離そうとしない先輩の机を挟んだ椅子に腰掛けると先輩は小難しそうな顔をして部誌からようやく顔を上げた。スパっと全てを見据えるような眼差しに、たかが二学年しか変わらないと言うのにその妖艶な瞳に、ドキリとした。長い睫毛が綺麗に縁取る瞳は、綺麗なのにどこか怖さを感じる。いや綺麗だから怖いのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら俺は
「何です?」
とまた先輩の言葉を促すように言いやった。すると先輩はんー、と器用にペンを回す。数度回した後、シャーペンの芯が出たままのそれを俺の顔に向けた。
「一つ、聞きたい」
「…なんですか?」
真剣な先輩の瞳にゴクリと息を呑んだ。すると聞こえてくるのは俺の名前を呼ぶ先輩の心地良い声だ。こんな先輩の真剣な表情きっと滅多に拝めない。いつも天真爛漫、暢気って言葉が良く似合う彼女だからこそ、ドキドキするんだろう。ぼんやりと考えていると、シャーペンの頭をカチカチと先輩が鳴らすのが解った。二ミリくらいしか出ていなかった芯がここぞとばかりに伸びて俺を差す。俺は今か今かと先輩の言葉を待った。すると、先輩の唇がすうっと円を描き…。
「その髪型は地毛か?」
「……は?」
…重い空気が、流れた。先輩の顔を見れば、凄い真面目な表情のままだ。俺はと言えば、言われると思ってもいなかった予期せぬ言葉に呆けるのみだった。向かい側に座りながら脱力しそうになる自分に気づく。先輩は俺の言葉を待っているようだった。
「どうなんだ?」
と言った風な表情が先輩の顔からは見て取れたからだ。先輩の目はまるで子どものような好奇の眼差し。
先輩は、ちょっと抜けてると思う。いや抜けていると言うか…変わっている。俺よりも二つ年上だし仕事は凄くしっかりやっていると思うけれども、まず思考が他の人とはちょっと違うように思う。ぼうと先輩の視線を感じながらそんなことを思った。きっと、黙っていれば凄く綺麗な人だと思う。自分も初めて先輩に会った時は不覚にも顔を赤らめるくらいだった。けれども喋るとやっぱり…一癖ある人だったわけだ。
「…幸村?」
ぼんやりと過去の話を思い返していると、俺を呼ぶ声が聞こえて、はっと我に返ると、机を挟んでいたにも関わらず先輩が俺のほうに身を乗り出しているのに気づいた。
「人の話、聞いてるか?」
と呆れた声色のそれにお得意の笑顔で
「聞いてますよ」
と返せば、先輩が眉根を寄せた。言いたいことはわかる。
「だったら早く答えろ」
とかそんな感じの台詞が言いたいんだろう。俺は自分の髪を何気なしに触った後、ようやく先輩の質問に答えて見せた。地毛であることを、だ。
「ほう、やはりそうか」
そうすれば、先輩はアゴに手をやり、納得納得と言った風な顔をした。
「その髪型、止めた方がいいぞ」
それから、忠告。でもそんなの余計なお世話だ。大きな瞳が俺を捉える。また、ドキとする。
「…何故ですか?」
名前を呼べば先輩は綺麗な髪の毛を靡かせると、不敵に笑いちょいちょいと手招きをした。…厭な予感を十分に感じながらそれでも俺に選択権は無いのだと悟る。早く来い。と無言の圧力が先輩からひしひしと伝わってきて、俺ははあとため息をついた。勿論先輩に聞こえるようにわざと大きく、だ。けれどもそんな攻撃先輩にとっては取るに足らないことのようだ。全く効いてない。俺は先輩に近づく。
「何です?」
途端、先輩の細い指が俺の腕を掴んで引っ張った。突然の事態に体がついていかず、先輩に倒れこむように前かがみになった。そして額に触れる、唇。
「…!」
ガタ、と勢い良く先輩から離れれば、先輩はやっぱり不敵な笑顔のままだ。それから至極当たり前のように言って退けた言葉は。
「キスしたくなる。だから止めた方がいいぞ?」
くすっと笑みを落す先輩は妙に挑発的だった。受け流せる大人だったら良かったけれど、十二歳の俺にはそれが出来なかった。それが無性に腹立たしくて、年下扱いされているのがやるせなくて。でも何も言えなくて俺は部室を後にした。ただ、からかわれたということだけはわかる。結局俺は先輩にとって弟のようなおもちゃのような存在なのだと気づかされて、無性に悔しかった。。
ヘアバンドをつけるようになったのはその次の日だ。
「……もうキスなんてさせませんから」
いつかこの人の余裕を崩してやりたい。そう心に誓った十二の夏。…俺の初恋はこうして始まった。
絶対絶対、振り向かせて見せると、誓ったのだ。