私、少しでも変われるかな?そう思いながらずっと見つめた白い紙。数分考えた末、自身の携帯を手に取った。
初めは無難に今日は有り難う御座いました、から。自分の名前もちゃんと打ったことを確認して送信。そうすれば数分後に返って来た言葉は「気にしないでね、私こそ急に帰っちゃって」と。あわあわしながら、気にしないで下さいと打ち込んだ。それから暫くして…多分十数分程経ってから、アド変とメールが来た。
「改めて宜しくね」と書かれたメール文を見て、凄く嬉しさがこみ上げる。はい、と打つだけだったのに、緊張で打てなかったくらいだ。
それから由美子さんとのメールは0時ほどまで続けた。本当に他愛も無いことだ。いつから不二君のことが好きだったとか、でも彼はモテるから私なんて眼中ないとか、そんな取り留めの無い話。でも私にとっては凄く凄く嬉しいひと時だった。今まで、秘めてきた不二君への想い。一生誰にも言うこと無いって思ってた。だから、凄く凄く嬉しくて。由美子さんにならって。…そして由美子さんが私を救ってくれるんじゃないかって、迷惑なことかもしれないけど、思った。
片道切符の終着点
「おはよ〜」と、色々なところで朝の挨拶が交わされる。私に向けられた挨拶には私もきちんと返して、自分の席に座った。…今日は、早めに学校に来てしまった。こんなに、気持ちがわくわくしてるのなんて久しぶりだ。多分…由美子さんのお陰だ。彼女が私にパワーをくれている気がする。今日も出掛けに気づいたけれど「いってらっしゃい」と短いメールが来ていた。私も同じく仕事頑張ってくださいと簡単にメールを打って、いつもより早くに家を出た。
昨日出会ったばかりなのに、遠い人には思えない。私にとっては何でも話せる存在になってしまった。…ずっと、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。自分でも気づかないSOSに由美子さんは気づいてくれたのだ。…あの時、由美子さんに会えてよかったと思う。
教室についた私はいつもならしないメールチェックをした。時刻は8時10分。…すると、メールが来ている。「わ、」と思わず声に出してしまって、私は震える手でメールをチェックする。…由美子さんだ。そう確信があった。そして、その確信は正解で、表示された受信先は由美子さんと書かれていて、思わず笑みが零れそうだった。…メールを見てにやにや笑っているなんて凄く不気味だと思うから頑張って普通の顔を作ろうと思うけれど、やっぱりどうしても嬉しい。ボタンを押すと、件名に「おはよう」と書かれていて、その後に続くのは「ちゃんも学校頑張ってね」と。…嬉しかった。私はハイと簡潔に打つとそのまま送信した。それから次にメールが来たのは、夜になってからだ。
今日は何かあった?と単調なメールに、私は今日あった出来事を話した。今日は体育の時、男女ともバスケだったのだけど、そこで華麗なシュートを決めた、とか、本来はテニス部所属してるけどバスケも上手なんだってわかったってこととか、移動教室の際、ちら、と目が合った気がするとか。ただ、一つ心残りなのは、昨日何も言わずに帰ってしまったことだ。どう思ってるのか気になる。と相談を持ちかける。きっと、彼は優しいから怒ったりはしてないと思うけど、でも確実に傷つけたか、不快感を与えてしまったんじゃないか。そう送ったら、暫く由美子さんからの返事が途絶えた。
『ちゃんは本当に彼のことが好きなのね。でも、きっと彼は不快にも思ってないと思うわ。笑いかけてくれたんでしょう?』
数分の後、返って来た返事はそれ。…好きと言う言葉に、改めて考える。…うん、凄く好きだ。彼の一挙一動に一々過剰なまでに反応してしまう。何気ない一言に一喜一憂してしまう。凄く、凄くすきなのだ。凄く凄く大切な恋なのだ。だから、その後に続く言葉が例え私を励ます為のものだったとしても由美子さんが彼のことを知らなくて言った言葉だったとしても、嬉しかった。
「凄く、凄く好きなんです。…でも、彼は優しいから嫌だと思ってても気を利かせてくれたんですよ」
そう打ち終えて、はあ、とため息をつく。そう不二君は優しいのだ。こんな私を、優しいから構ってくれるだけだ。特別な感情は無い。そう思ったら切なくなった。…解っていることなのに、いつもいつもそれを考えてへこむ。…馬鹿みたいだ。
『ダメよ、そんな風に自分を卑下したら。…そんなマイナスにばっかり考えてちゃダメよ。…もっと自信を持って。彼の優しさは本物だと思うわ。話を聞いている上で、そう思う』
“だから、下ばかりみないで。”最後の言葉に、ツクンと胸がつかれるような感覚がした。ああやっぱり由美子さんは私の救世主なのかもしれない。こんな温かい言葉、貰ったこと無いもの。醜いってわかってるけど、涙が止められなかった。
「私、変わりたい…変われるかな?」
ぼやけた目をぐしぐしと拭ってそう一文だけ打つと、返事がすぐに返って来た。「それはちゃん次第だよ」と簡潔なそれに、不二君の笑顔を思い出す。あんな風に綺麗に笑えるかわからない。きっと私には無理なんだろう。だけど、変われたらって…ううん、変わりたいって今は強く思うんだよ。この気持ちは言わないとしても、自分の心の中で胸張って「不二君が好きだ」って思っていたいんだよ。
「頑張ります」
ペコペコ打った後、私はちょっと早いけれどベッドにもぐった。その後チカチカと受信を知らせる携帯を開くと「まずは、“私なんか”って言葉は使わないようにしようね」ときていて、布団を被ったまま、ハイと打つと私はそのまま眠りについた。
…夢の中には、不二君が笑いかけてきてくれていて。いつもの私ならおどおどして不二君の顔も見れなくて、何も言えなくなるのに、そのときの私は、初めて不二君をちゃんと見て、笑ってたんだよ。
「さん」
夢の中の不二君は私の名前を呼んでいて、あの帰り道のときと同じように私の隣を歩いてくれてる。
…そんな、幸せな夢。
「―――だよ」
そう言った不二君の言葉は良く聞き取れなかった。ただ、目に映るのは今まで以上に柔らかい笑みをくれる不二君。私は「なんていったの?」って何度も何度も問いかけるけど、不二君は笑ったまま教えてくれなかった。それでも凄く幸せで出来ることなら醒めないで。そう願ったけれど、ピピピと言う目覚ましの音で、私は起きた。毎朝6時半のアラームをポチっと押してベッドから這い出る。
名残惜しい夢。いつも不二君の出てくる夢は私は遠くのほうで見ているか、何もいえないままなのに、今日の夢は違った。…そう慣れたら良いと思う。…今日から、少しずつ変わっていこう。今はまだ、不二君の前に出るとあたふたしてしまう自分がいるけれど、いつか必ず、胸張って不二君と話せるように、…ちゃんと、目を見て話せるように。
そう思いながら、私はカーテンを開けて大きく伸びをした。
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2007/02/09