*AOI BENCH03

 
 
 
菊丸の思いついた作戦は、同窓会を開く事だった。
丁度、中学から十数年も経っている。ぼちぼち逢いませんか?と言うには不自然ではないし、二人きりで突然会うよりは自然で、ぎこちなさも半減されるだろう。断られる事や警戒されるリスクも少ない。まっかせて!と自信満々に言いやると、まだ夜も早い時間(9:30すぎ)に、ぽちぽち携帯を弄り始める親友。
 
『同窓会しようと思うんだけど』
 
自分の知っている限りの元同級生へと一斉送信した。その間一分もかかっていない。思い立ったが即行動。随分遅い時間であったにも関わらず、殆どの者から「良いねえ!」と賛同の声が返ってきた。すぐに返事の返ってきた同級生から「俺幹事するからさっ、で、アドレス知らない子にも確認取りたいから、連絡先教えてほしいんだ」と尋ねると数分のうちに何人かのアドレスを入手する事に成功した。さすが、元三年六組のムードメーカーである。あっという間にの友人であったのメールアドレスをゲットすると、慣れた手つきで自分の電話番号を添えたメールを打つ。数分後、電話が鳴り響き、未登録者からの着信である事が表示されたが、誰か等、解っていた。もしもし?の声が電話越しに聞こえて来て、軽い挨拶のやり取りをして、本題。
 
って、今東京に帰ってきてるんだよね?」
 
とりあえず、確認。そうだけど。すぐ肯定が返ってきて、「じゃあ同窓会も来れるかにゃあ?」新しく注文したカクテルを弄りながら言葉を重ねると、また肯定の台詞が返ってきた。そしてすぐに『そんなのあたしじゃなくてに直接聞けば良いじゃない』正論が返ってきた。うーんそうなんだけど…言い淀むと、何か碌でもない事たくらんでるんじゃないでしょうねと訝しむ声が聞こえて来て、菊丸は焦った。
そんなんじゃないよ!
じゃあどんなのよ?
まったくもって信用されていない。二人の会話を隣で黙って聞いていた不二だったが雲行きが怪しくなってきた事に耐えきれなくなり、菊丸から携帯を変わった。もしもし?と不二の声が聞こえると十余年ぶりに会話するの親友の驚きを含んだ声が不二の耳に届いた。
 
「本当、悪い事をたくらんでるわけじゃないんだ。僕が英二に頼んだんだよ」
『不二君が?』
「そう。話すと、長くなるんだけど」
 
言うと、がしばし黙した。沈黙が流れ『今、二人何処にいるの?』尋ねる声に、バーの名前を口にすると、電話代高くなるから、近いみたいだし行くわと電話が切れた。どうやら彼女は少し前に仕事が終わり、家に帰る途中だったらしい。
 
電話から数十分もかからぬうち、は二人の元に姿を現した。久しぶり。電話ぶり。と挨拶を交わし、菊丸の隣に腰かける。で。と声を出したのはだ。促されている事に気付き、不二と菊丸はお互いの顔を見合わせて、
 
「実は…単刀直入に言うけど、に逢いたいんだ」
 
余計な小細工は無用だと、不二は本音を伝えた。の表情が"驚愕"と呼ぶにふさわしいほど、ポーカーフェイスとは真逆の顔になる。そんな彼女に苦笑すると、破顔した顔を戻した彼女がコホンよ咳払いをして、
 
「一体なんで?今更じゃない?」
 
鋭い双眸が不二を見据える。それに臆する様子もなく「が好きなんだ」と不二は包み隠さず告白した。の顔は変わらない。「には彼氏がいるけど?」「知ってるよ。それでも、諦められないんだ」この気持ちを伝えるだけでも伝えたい。そして、の恋をちゃんと祝福したいのだ。とありのままに答える。
 
三人の間に沈黙が流れた。
が、打ち破ったのは、だった。はあ。大きなため息が、場に漏れる。
 
「本気?」
「うん」
「…本当にの事好きなの?」
「うん」
「……じゃあ、なんで、あの時…と別れたの?」
 
ぐさりと鋭いナイフのような言葉が不二の心をえぐった。数秒、沈黙した後、不二は当初の時の気持ちをぽつりぽつりと話し始めた。それに対しは野次を飛ばすだとか話を遮るだとか一切せず、ただただ不二の言葉に耳を傾ける。その顔は真剣。まるで自分の事のように、聞くから、不二は嘘偽りなく答えた。
話終えた後、話し始めたのは
 
「で、一度諦めた癖に、また逢いたいと」
「…が幸せなら良いと思った。僕じゃを幸せに出来ないから仕方ないって思ってた。でも、それは逃げだって、親友に言われてようやく気付いたんだ」
 
ふわっと笑い、その親友の肩をぽんぽんと叩く。それから、真剣な表情に戻ると
 
「…の事、今度こそちゃんと僕が幸せにしたい。笑顔にしたい。この気持ちは諦められないって、思ったんだ。…に彼氏がいるのは知っているけど…それでも、言わずにはいられないんだ」
「それがの迷惑になるかもしれないって思っても?」
「それでも、自分の気持ちから逃げたくない」
 
淡いブルーの瞳がを真っ直ぐ見詰めた。
……………はあ。また、大きなため息が彼女の口から洩れ
 
「傲慢な考えだよ、不二君」
「………………うん、」
「でも……」
 
そう言うの、嫌いじゃない。の顔から、ようやく笑顔が現れる。空気が、変わったのが二人に伝わった。「嘘よ」そして、続く言葉。何が?と菊丸と不二はの台詞の嘘の意味が解らず小首を傾げると、苦笑気味に「」と彼女の名前を出し

「彼氏がいるって言ったの。アレ、嘘」

もう何年になるかなあ。とりあえずフリーだよ。と笑った。噂の彼とは随分前に破局しているのだと、そこでようやく真実に辿りついた二人。
 
「それにしても、不二君がねえ」
「吃驚だよねん」
「うん。まあ別れた理由はから聞いてたから、予想外すぎる、とは言わないけど。…あたし、不二君ってもっと余裕ある人だと思ってた」
 
昔っから、人が一生懸命一段一段努力してるって言うのに、自分はそんなそぶり一切見せず、三段跳びくらいでひょいひょいひょい〜って軽やかに人の上を行っちゃってるイメージあったもの。
あ、わかるかも。人がぜいぜいはあはあ言いながらマラソンしてんのに、不二はがんばれ〜って後ろ向きで息一つ乱さず他人の応援してるような感じっしょ?
どんな感じなのそれ。
あー…なんかわけわかんない例えだけど、なんとなく感覚的にわかった。うん、そんな感じ。
 
菊丸との会話を聞きながら、不二はそうだったかなあと昔に想いを馳せる。が、確かに此処まで真剣になったのは、テニスとくらいかもしれない。そうかも、ね。・小さく呟いた言葉に、がくすりと笑って、グラスを手に持つと
 
「ま、とにかく。不二君の本気度もわかったことだし。…あたしで良ければ協力するわ」
「有難う」
「んじゃ、話もまとまったとこでー」
 
「「「かんぱい!」」」
 
ちりん、と契約完了の合図のように、グラスがなった。
同窓会が行われる、一か月前の話。そんな秘め事が行われていた事実をが知る事になるのは、再度二人の恋が成就した後の事だった。
 
 
 
 
 
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