02.29
との出会いは、不二の友人である菊丸英二の紹介からだった。なんでも菊丸とは幼馴染らしく、中学も一緒に受験したのだとか。兄妹のように仲が良く、いつも菊丸の練習を見学していた。ミーハーな女の子とは違い、ただただ笑顔で静かに試合を観戦する。菊丸が勝つと、二人は合図したように見つめVピースを飛ばす。周りからみたら、付き合っているのではないかと錯覚するほど、二人はいつも一緒に居た。かく言う不二も、菊丸にを紹介されるまで付き合っているものだと思っていた。
「幼馴染?恋人じゃなく?」
幼馴染だと紹介を受けた時、思わず不二はぽろりとこぼした。瞬間、噴き出す二つの声。あり得ないってー。と菊丸。幼馴染が一緒にいるとそんなに変なのかなー?と。その笑顔がヒマワリのように暖かなものだと、不二は思った。くつくつ笑いながら、「英二君は、あたしのとってもとっても大事な人。もしかしたらこれから出来る恋人よりも、かもしれないくらい」と、そう強く想ってもらえる菊丸が、羨ましかったものだ。
「良いね、そういう関係も」それから縁あって、高等部へ上がった不二はと同じクラスになり、じょじょに仲良くなっていった。
菊丸に向けられていた笑顔、少し拗ねた顔、子どもっぽく頬を膨らますあどけい表情。色々な仕草を見る度に、の色々な側面に触れる度に、不二の心の中で彼女の存在が少しずつ、けれども着実に大きくなっていった。
そして、気づいた頃にはこれが恋なのだと、知った。
……付き合ってほしいんだけど。
どこに?
そこでそのボケ?の事、好きになっちゃったから、付き合ってほしいんだ。僕の恋人になってほしい。
高校一年の夏、一緒の週番をした、夕日に染まる教室で、二人は恋人になった。
の頬が赤く染まったのは、夕日のせいではないだろう。そして、初めて見せる表情に、不二の心は暖かな気持ちになったのだ。
そんなこともあったねと、思い出を振り返るのは少し大人びた顔が、頬笑み合った。
付き合い始めた夏から、秋冬春、そしてまた夏がやってきて―――気がつけば二人の付き合いも四年が経っていた。二人とも学部は違うものの同じ大学に通っている。
「そう言えばあの頃は僕と付き合ってるって言うのに英二の事ばっかり気にかけるから、良く嫉妬したものだよ」
「ええ?そうだったの?英二君の前で普通だから全然気にならなかったよ」
ごめん、と過去の出来事に四年越しの謝罪を述べると、不二はくすりと笑っての身体を抱きしめた。後ろから抱え込むようにすると、が軽く体重を預け、二人の身体が密着する。聞こえる吐息が落ち着ける材料になったのは、もう随分も昔の事だ。の下腹部辺りに不二の両手が置かれ、その上に重ねるようにが手を乗せると、二人はまるで合図したかのように見つめ合い、微笑む。
「ね、今だから聞きたい事があるんだけど、」
良い?と不二が重ねると、はきょとんと不二を見つめ、勿論、と頷く。
「付き合う前、英二の事大事な人だって言ったよね?」
「うん」
「その時、もしかしたら、これから出来る恋人よりも大事かもしれないって言ってたよね?」
思い出されるのは、中学三年のアノ出来事。ああ。と思い出したように言えば、不二は「で、出来た恋人が僕なわけだけど、やっぱり英二の方が大事なのかな?」その声は意地悪さを含んでいた。じっと見つめると、笑顔。そんな恋人に軽く口を尖らすと「意地悪」ぽつりと呟いて、その首に自身の両腕をを絡ませた。
「そんなの比べらんない」
「あ、傷ついた」
「だって、大事の種類が違うもん」
「僕の事、好き?」
「……ほんと意地悪。……嫌いなら付き合ってないもん」
そっと身体を離すと、の両頬を不二の手が優しく包んだ。ちゃんと言葉にしてほしい、と目が語っており、きっとこのまま言わない等選択肢にはないだろう。きっと不二は許してくれない。四年も付き合っていればそれくらい、易々と解ってしまい、はふう、と息をつくと、白旗を上げた。
「好きよ」
「本当?英二より?」
「しつこいなあ……英二君の事は勿論今でも大事で大好きだけど。ちゃんと周助の事好きよ」
「英二は大好きなのに…」
まるで子供のよう。もしかして今でも菊丸に対し嫉妬をしているのだろうか?そう思わざるを得ない言葉の応酬に、は一瞬考え込んだ。それから、ちゅ、と彼の頬に唇を落とす。一瞬だったのは彼女がそういう行為をするのに未だ慣れないからだ。
「……愛してるから」
「ふふ」
聞こえた笑い声にこの一言を言ってもらいたいが為に、此処まで引き下がらなかったのだろうか。ようやく相手の真意に気付いて少し悔しく思う。それでも、やっぱり今の言葉にウソ偽りはなく。
「僕も愛してるよ」
囁かれた甘い台詞に、不二の顔が近づき、静かには瞳を閉じた。触れあった唇は温かく、ほんの少しの甘さを感じさせた。
― Fin
後書>>KinKi Kidsの「もう君以外愛せない」自分の中では甘すぎて「イーーーー」ってなりました(笑)
2012.02.10