03
 
 
 
 
 
「私のどこが好き?」と聞くと、破局しやすくなるらしい。友人のからがそう聞いたのは、昼休憩のときだった。突然の彼女の言葉に、は口に入れかけたご飯を、思わずこぼしてしまった。え、と口から零れ出た台詞は、弱々しくも友人の耳に届く。携帯を弄りながら、ご飯を食べていた友人が、ほれ、と自身のメタリックブルーの携帯を、の前へと突き出した。並べられた文章を左から右、下へさがって、また左から右、を繰り返す。そして、絶望に打ちひしがれた。
 
「ヤバイ」
 
呟いた言葉は空気に溶けて、消えた。心なしか、先ほどよりも肌の血色が悪くなった風に見える。
は所謂【恋愛依存】な女子だった。ただ今の場合"恋愛依存"と言うよりは"彼氏依存"と言った方が正しいのかもしれない。そうには彼氏がいた。同じクラスの、不二周助。付き合いは二カ月程となる。まだまだ恋愛絶頂期、真っ只中だ。
 
「なーに、ってば、また彼氏に聞いてるの?」
「だって、不安になるんだもん」
 
恋愛に不安はつきものだろうに、とは言うけれど、不安だから少しでもその不安の種をぬぐい去りたいと言うのが、心情。そう聞くことで、不二への不安な気持ちも軽減させてきたのだ。 気持ちを伝えあう行為であるそれが、まさか
BAD台詞だったとは。まるで谷底に突き落とされた気分だった。
もしかしたら、不二は今自分との付き合い方を、考え直しているかもしれない。別の不安がを襲う。
こんなに好きなのに。
ううん。こんなに好きだからこそ、この恋を終わらせたくはない。
沈みそうになる気持ちを、何とか持ち前のポジティブ脳で復活させると、途中になってしまっていたご飯に手をつけた。落としてしまったご飯も勿論、拾ってゴミ箱へ捨てた。
 
 
 
放課後、終礼を終えると極当たり前のように、不二の席へと向かった。「不二君、帰ろ?」の声に不二がふわりと微笑む。コートを羽織り、学生カバンを手に取ったあと、肩へと掛ける。不二の一連の動作を目で追いかけながら、しかしの頭の中は昼間の事でいっぱいだった。
おまたせ。
うん。
会話をし、当たり前のように手をつなぐ。いつもの光景。季節は冬。高校一年生の不二とだが、今は中間テスト前の為、部活へ向かう必要もない。
あっという間に廊下を抜け、靴箱から靴を履き替え、校門を出る。ひゅう、と冬の厳しい寒さが、二人を襲い、身震いした。は左の手はコートのポケットの中に、即座に突っ込む。そうすれば、わかったように不二が微笑んで、自身の右ポケットにと自分の手を突っ込んだ。
 
「二月だねえ」
 
わくわくとした嬉しそうな声色が、不二にも届く。にこりと笑みを絶やさぬよう頷けば、はにぱっと笑い、バレンタインのチョコは、手作りにしようと思う。だとか、今年の不二君の誕生日は、ちゃんとしたうるう年だね。だとか会話をつなぐ。二人の間に流れる空気は、とにかく緩やかだった。
 
少しでも二人での時間を作りたくて、の家への帰り道を遠回りするものの、あまりにも家が近すぎる為、
30分弱でついてしまう。今日も別れはすぐやってきた。別れ際にぽんぽん、と不二がの頭を優しく撫で、繋がれた掌は離れる―――筈だった。
が、そうならなかったのは、が不二の手を掴んで離さなかったからだ。いつもと違う恋人の様子に、不二は小首を傾げてみせる。すると伏せられた長いまつげから、シナモンの瞳が不二を見上げた。あの、ね。不安げに揺れる瞳を見つめ、相手の出方を待つ。
 
「私、不二君大好き!だからバレンタインも、不二君の誕生日も、幸せな日になるよう努力するね!」
 
ドキドキドキ、と不安に高鳴る心臓とは裏腹に、笑顔を作り出せば、不二は一瞬、豆鉄砲を食らったかのように美しいかんばせをきょとんとさせた。が、繋がれた掌が不安で震えているのに気付くと、たおやかに頬笑み、そっとの華奢な身体を抱きしめた。
 
「有難う。僕もが好きだよ。だからバレンタインや僕の誕生日だけじゃなくこれからの沢山のイベントを、日々を幸せな日々にしていこうね」
 
甘い台詞にはコクンと頷くと、不二の背中に自身の両手を回して、きつく抱きしめた。
 
 
 
 
 
― Fin
 
 
 
 
 
後書>>ポルノグラフィティの「Century Lovers」。歌詞ほぼ無意味な感じ(笑)ところで……中間テストって、一月でしたっけ…(汗)
2012.02.07