09
 
 
 
 
 
「周君!」
 
は不二周助の姿を発見すると嬉しそうに頬を緩ませ、不二の背中に勢いよく抱きついた。背部に感じる熱に、不二はくすりと笑みをこぼすと、久々に対面する親戚の名を呼んだ。「」緩んだ腕からすり抜けると、お互い向き合うように顔を突き合わせる「久しぶり!」二人の声がハモった。
と不二周助の関係は、所謂「イトコ」であった。不二の母親との父が姉弟で、地方に住んでいるが不二の家に遊びに行くのは年に一度あるか無いかであるが、同い年の二人は本当に仲が良かった。
 
「それにしても、良く一人で東京まで来たね?」
「もう、周君もお母さんと一緒で心配し過ぎなんだよう。もう
16だもん。旅行くらい一人で出来る。それに止まるところは周君チなんだしね?」
 
むう、と頬を膨らましながら、は言葉を紡ぐ。その姿が
16よりも若干年幼く見える事に彼女は気付いていないだろう。不二自身も指摘する必要等感じず(それが彼女の長所だ)遠出の為のボストンバックをの手からスマート取ると、自身の肩にかけた。わ、良いよ。良いからはキャリーバック持って。二人は会話を続け、結局不二が折れない事は幼少時代から知っているは「じゃあお言葉に甘えて」とはにかんだ。
 
「それにしても、凄い荷物だね…」
「久しぶりの周君達との再会だもん。お母さん達凄い張り切っちゃって、あれも持ってけこれも持ってけってうるさかったの。これでも大分減らしたんだけどね…。もう、後で絶対文句言わなくっちゃ」
「いや、多分母さん達喜ぶよ。おばさんに有難うって伝えてね」
 
そんな会話を弾ませながら、不二家へと向かう。何せ小学生のころは毎年一度は会っていたのに、中学に入ってからは色々あり、――由美子は就職、裕太は寮へ――不二もも受験生。気がつけば三年会わない時間が過ぎていた。
 
「折角の春休みだもん。でも残念。もっとうちんチが近かったら、すぐ会いに来れるのにね」
「そんなに僕に会いたかったの?」
「そりゃーそうだよっ」
 
てっきり、周君は!って照れ顔を見せるかと思いきや、当たり前だと言う風にきっぱり言い放たれた言葉に、不二の方が呆気に取られてしまった。の顔を見れば「ほんとはね」と不貞腐れた表情。ぎゅっとキャリーバックの取っ手を強く握り閉める。ゴロゴロ…と続いてた音が途切れた。の歩が止まったのに気付き、同じように不二の足も速度を落とす。不二よりも少し背の低い彼女の表情は顔を伏せている所為で不二ところどころ見えづらく、不二は少し背を屈めて、顔を覗きこもうとした―――瞬間、アプリコットの瞳と不二のターコイズブルーの瞳がかち合う。
 
「今年、周君の誕生日だったでしょ?本当は、当日、ちゃんとお祝いしたかったのに」
 
こういうとき、学生だと不利だよねえ。結局春休みまで待つしか出来ないんだもん。口を尖らせる仕草のにようやく不貞腐れた表情の意味を知った不二は、くすりと笑みを落とし、ぽんぽん、と彼女の頭を撫でた。「ありがとう」、穏やかな気持ちが心にしみわたっていく。その笑顔に、の頬が朱を帯びた。
 
「…………ただ、会いたかった…って言うのが一番なんだけど…」
「今日はどうしたの?」
 
いつもよりも格段と素直なに不二が訝しんでそう尋ねると、の顔が困惑の色を濃くした。それから、口を幾度か開閉させ―――意を決して、
 
「……だって、次いつ会えるかわからないじゃない?……会えるときに、意地張らずに本音ぶつけとかないと、後悔したくないもん」
 
ぽつり、零した言葉からはしっかりと"本音"が込められていた。……。沈黙が流れる。それを破ったのは、だった。
 
なあんて!なんか折角の再会なのに、初めっから辛気臭くなっちゃったね!久しぶりに会うと緊張しちゃうのかも!さ、周君チ行こう!こっちで良いんだよね?
 
ごろごろとキャリーバックを引きづり、前に進む。この会話を打ち切りたいと言うのが今の台詞でありありと解った。先を進む。けれども、いつまで経っても自分に続いてこない不二に、再度足が止まる。振り返り、「周君?」と名前を呼んで、引き返す。また近くまでやってくると、の顔が俯いた不二の表情を覗きこんで
 
「…僕も、会いたかったよ。に。凄く凄く」
 
一足遅れた返答に、は一瞬言葉を失った。見つめていると、不二が笑みを落として、ぎゅ、との身体を引き寄せた。あっという間に不二の胸にダイブする形になりはそこでようやく事態を察して、狼狽した。周君!と裏返った声がの口から洩れる。
 
「だって、は僕の初恋だからね」
「しゅ、周君!?」
「…なんて、の言葉に感銘を受けて、本音を語ってみました。さ、家行こうか」
 
まるで、一つの挨拶かのようにあっさりと進めてしまうから、はまるで夢なのではないかと思った。けれども、それが嘘では無い事は、昔からの仲だ。解ってしまった。先を行こうとする不二の背中を掴んだのは、ほぼ無意識。くん、とシャツが引っ張られて、不二の動きが止まる。
 
トクトク、といつもよりも早い鼓動を少しでも落ち着かせようと息を大きく吸って吐いた。けれどそんなの気やすめにもならず、それどころか反対に早く、煩く自身の耳裏にダイレクトに伝わる感覚がした。
―――すう。小さく息を吸い込んで。
 
「……あたしの初恋も、周君だよ?」
 
"あたしの場合は、現在進行形だけど。"
 
その声の五秒後、再度は不二の身体に包まれた。
 
 
 
 
 
― Fin
 
 
 
 
 
後書>>
AKBの「会いたかった」なんかわけのわかんないシナリオですんません。かいた自分が多分一番よくわかってません。早すぎる展開に頭がついていかない…orz
2012.02.12