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「ちゃんお願い!後生だから!」
大学について早々、同級生にあまりにも凄い剣幕で頭を下げられたので、OKした。本当軽い気持ちに過ぎなかった。
完璧、アウェーなんですけど。
友人に、今回だけで良いから!どうしても女の子が一人足りないの!人数やっぱ下回ると空気悪くしちゃうんだと声をかけられたのは、今日の朝の事であった。
、短大の二年生。ついこの前二十歳になったばかりの女の子である。彼女が来ているのは、合コン。今回の幹事だろうか、男の子がかんぱーい!と凄く張り切って盛り上げようとしているものの、元来こう言ったお誘いは全く乗らないにとって、やはり苦痛の何物でもなかった。開始五分ですでに帰りたくなっている。しかもあちら側(男性陣)が一人足りないと来た。どうやら一人遅れてくるそうだ。開始初めのころは男の子も色々話かけてくれたりはしたのだが。あまりにもぎこちない対応に、すぐ相手方の興味から外れてしまったらしいは一人隅の方でオレンジジュースを飲んでいた。誘ってきた友達はいかにも軽そうな男と意気投合したらしく、すでにラブラブな雰囲気を出している。
他の女の子も彼女の知り合いなので、生憎ながら顔見知り程度の人から全く知らない子もいて、は完璧に浮いていた。メール打って、帰ると相談しようか。そう思った時だった。「遅れてごめん」と声がかかった。皆の視線がそちらに集まり、男の子からは「おせーよ」とかそう言った声、女の子からは「きゃー!」と黄色い声が上がった。
現れた男の子は、一瞬部屋間違えた?と言った風な顔をしたが、すぐに別の男が近寄り耳打ちをすると、彼は一度小さく息を吐き、ニコリと人の良い笑みを浮かべた。
「不二周助です」
軽い自己紹介を終えた後、不二と名乗った男がの目の前に腰かけた。それからメニュー表から食べ物(ビビンバ)とドリンク(お茶)を注文する。こういっちゃなんだが、合コンに来てがっつりご飯を食べるなんて、なかなか無いだろう。その変わった志向にはじっと相手を見つめてしまった。そうすれば、視線にきづいた不二と目が合った。今更ながら見つめすぎていた事に気付いて、が謝るが、さして気にしていないのか軽く笑われた。
「あたしもなんか食べようかな。お腹すいちゃった」
「あ、じゃあメニューどうぞ」
「ありがとうございます」
そんな会話を軽くして、ショウガ焼き定食にしようと呟くと不二が注文してくれた。注文をする際、誰だよお、ショウガ焼きなんて食う奴ーと野次が飛んだが、しょせん酔っ払いの戯言だ。綺麗にスルーされた。
二人の注文が来たのは同時だった。いただきます。ぴったりとそろった声に、また上がる笑い声。何となく気が合ってしまった。
と言うのも、他の男子とは違い、"彼女作りに来ました!"と言ったがっついた気持ちが見えなかったからかもしれない。気を許すと笑顔も出てくるものである。そんなに好印象を持ったのは不二も同じだった。
「へえ、じゃあ不二君も人数合わせなんだ?」
「と言うか、今日合コンだなんて此処きて初めて知ったよ」
「あはっだから入った時困惑してたんだね」
やっぱり気付いてた?と不二が微笑む。男だけと聞いていたのに、目に映ったのは女の子の集団。部屋間違えたのかと軽く焦ったと不二が笑い話で言うのではそうだよね。と同意した。気がつけば退屈だと思っていた合コンも二時間過ぎていた。帰りたいと思っていた気持ちが嘘のようだ。
「こういった集まり、初めてなんだけど、でもちゃんいてくれて良かった」
「あたしも!周助君居てくれなかったら、完璧アウェーだったよ。帰ろうかと思ってた」
軽口を言い合いながら、ジュースを飲むと、「それお酒?」と聞かれたので、オレンジジュースだよと答えた。そこでお互いの誕生日の話になり、はついこの前二十歳になったのだと告白すると、「おめでとう」と不二が笑った。
「周助君は?」
「僕は、今月末」
「終わり?と言うと…え、まさか2月29日?」
「そ」と肯定する不二に凄いね!おめでとうだね!と自分の事のように嬉しくなり
「あ、じゃあ当日にはおめでとうメール送ったげなきゃね?」
「本当?嬉しいな」
会ってまだ二時間。そしてメールの交換もしていないと言うのに、思わずそう口にした。それに対し人好きのする笑みが返ってきたので、嘘でも喜んでもらえると嬉しいなあ、なんては思ったものだ。そう思うくらい不二周助に対しは軽い恋心のようなものを抱いていたが、
だって周助君こんな格好良けれ彼女いるに決まってるもんね。
すぐ冷静になると、また別の話題を繰り広げた。それから数十分後、合コンはお開きになり、そろって店を出た。バイバイやまたねの挨拶を繰り広げる中、数時間楽しい時間を過ごしてくれた不二に対し、自身もお礼を言おうかと辺りを探す。が、探し人を発見することができなかった。
ちぇ、終わりってなったら呆気ないもんだなあ。
少し残念に思いながら、岐路につこう。とした瞬間。パシ、と右腕を掴まれ、えっと顔を上げると、そこには探し人の姿。「周助くん?」少し驚きながら見上げると、不二の手には携帯が握られており、ひらひら、と目の前をちらつかせた。きょとん、とは小首を傾げると。
「うわあ…酷いなあ。誕生日、お祝いメールくれるんじゃなかったの?」
「え、え、ええ?」
「僕、本気にしてたんだけど」
なんて言うものだから、は驚いた。まさか、本気で言ってくれてたとは!けれども肝心なアドレス聞くタイミング逃しちゃってさ。驚いているを余所に言葉が続く。だから、教えて?ようやく言い終わった不二に未だ混乱したままの頭で
「え、だって…彼女、は?」
「いないけど?」
「え、ええ?」
「むしろちゃんこそ彼氏は?」
「い、いないけど…!」
「だったら、アドレス交換してくれませんか?」
畏まった風に言われて、は慌ててカバンの中から携帯を取り出した。ロックを解除するその仕草さえももどかしい。ちょっと待ってね。えっとえっと。言いながらなんとか赤外線通信を終えると、不二がクスっと微笑んで、
「じゃあ、当日メール楽しみにしてるね」
「う、うん」
「あ、でもメールじゃなくて直接言ってくれる方がもっと嬉しいけどね?」
「え、それって」
「君に、また会いたいって事」
そして彼の誕生日、めでたく二人は恋人同士となった。
― Fin
後書>>またまた広瀬香美さんで「ロマンスの神様」。私も合コン苦手です。でも周助と知り合えるなら絶対行きます…!←
2012.02.17