子どもだと思われてもあたしは絶対に言い張るよ?

サンタクロースはいるんだって!



絶対宣言




「サンタクロース?」
「そっ!周ちゃん信じてた?」

学校の帰り道。唐突に彼女であるからの質問に不二は首を傾げた。季節は冬。そして12月と言えばクリスマスだろう。こうした話題が出るのは至極当たり前のことかもしれない。を見るとわくわくといかにも何かを期待しているような眼差し。不二はそんな可愛い恋人に優しく微笑むとこくりと肯定の意を表した。信じていたと伝えれば、目に見えては喜色を露わにする。その瞳が輝いているように見えるのは不二の気の所為ではないだろう。
周ちゃんも信じてたんだね!やっぱりそうだよねえ。

「でも、急にどうしたの?」
「うん?えっと今日サンタクロースの話したからさ」

不二は上機嫌な彼女、を見やった。しかしは言い終えたあと、不機嫌になる。そしてはぐるんっと勢い良く不二の方を向いた。それから大きく口を開く。

「でね、あたし今もサンタさんはいると思うって言ったの!」

元気に、良く通るの声が不二の耳に届く。不二はの言葉に頷きながら、その声に聞き入っていた。しかし次の瞬間、口を尖らせ、納得いかないと言ったような表情を浮かべる。「そしたら皆一斉に笑いだして、"今時そんなのあり得ない""ネタ"だって散々馬鹿にされてね」不貞腐れたように言の葉を紡ぐ恋人に不二は苦笑する。の友人達の反応は至極当然のものであろう。今では園児でもサンタはいないと言い張るこのご時世。それなのに中学三年にもなったは信じているという。誰だってそう言いたくなるだろう。

「でもね、あたしだって、知ってるんだよ?自分の家にプレゼントを置いてくれてた人が親だってことくらい」

そう言うと膨れっ面のまま、手を絡ませる。それから身近にあった小石を蹴った。コツン、とのスニーカーに当たり、コロコロと転がる。

「だって、ウチには暖炉がないんだもん!」

そして力説し始める。不二は笑いを堪えながらの言葉に頷いて肯定した。こういう発想をするから面白いのだ、と言う少女は。

「確かに暖炉だって言うのが有名だけど……でも窓からも有りなんじゃないかな?」

不二はフォローするようにに言って聞かせた。するとは酷く驚愕した様子で不二を見つめた。何か可笑しな事を言っただろうかと不二が小首を傾げれば、震えた声では「あり得ない、あり得ないよ周ちゃん」と金切り声をあげた。

「サンタが窓から入ったら、ただのドロボーさんじゃない!」


それなら暖炉も変わらないと思うけど!


と不二は心の中で素早く突っ込む。しかし、それを口にすることはしなかった。………いや、できなかった、と言うべきか。何故ならを見れば誇らしげにどうだ!と嬉しそうに微笑んでいるのだ。彼氏として……人間として、こんなにも嬉しそうに顔を綻ばせ、未だにサンタクロースが来ることを夢見ている少女を、地獄に叩き落とすなんて非道なこと、不二には出来なかった。

「周ちゃん?」

色々な気持ちが交錯する中、不二を現実世界に引き戻したのは、その元となる彼女。は少し顔を傾げながら、ひょこっと不二の表情を調べるために覗きこむ。不二はいきなり現れたのドアップに少し驚きながら、それを隠すように微笑むと。ちゅ。隙を見つけ、素早くキスを落とした。次の瞬間は目をくりくりさせたあと、足早に後ろ向きで後退する。それから声にならない声を上げた。

があんまり可愛い顔を近付けて来るから、つい」
「なっ、何いっ……」

不二は自分は悪くない、と言った風な物言いに、は動揺しながら抗議する。しかしやはり声がうまく出ないらしい。顔を林檎のように真っ赤にしながら、不二を見上げる。足は着実に後ろを進みながら。こうやってさりげなく距離を広げていこうと言う戦法だ。

「なんで逃げるの?」

けれども、それはすぐに失敗に終わった。ぐいっと腕を引っ張られ、耳元で囁かれる。それでもは無駄な抵抗を試みようとした。でもやっぱり、すぐさまの腰に不二の腕が回ってしまった。……完全敗北だ。成す術が無くなってしまったは不二の胸でうな垂れる。そして不二は、抵抗をしなくなったを一瞥するとにっこりと笑顔を向けた。

「まあ、いい機会だし……。イヴは一緒に過ごそうね」

勿論夜も。と続ける。するとは驚きに目をぱちくりさせる。しかしすぐに不二を見ながら、困惑しきった表情をする。不二は何かあるの?と少し不安になりながらも冷静に勤め問い掛ける。そうすればは言いにくそうに口を開いた。瞳がゆらゆらと揺らぐ。

「あの、ね?……あたしね、周ちゃんのこと、大好きだよ?でもね……その」
「いいよ、はっきり言って?」

歯切れの悪いをこれ以上困らせてはいけない、と不二は優しく微笑む。するとは安心したように頬を緩め、軽くはにかみ笑いを浮かべた。

「あのね、イヴはサンタさんを待つことにしてるから…その、………むり、です」

そうして嬉しそうなの声が不二の耳に届いた。不二の顔が仄かに引き付く。良く『俺と仕事、一体どっちが大事なんだよ!』と彼女に言う男をドラマで見る度、こんなこと本気でいう奴はいるのか?そんなに彼女を困らせたいのか?と馬鹿にしていた不二。……しかし………

「一 体 僕 と サ ン タ ク ロ ー ス 、 ど っ ち が 大 切 な の ? 」

とあまりにも恰好が悪く、情けない台詞を本気で問いたくなった今日というこの日。けれどもそんなことを聞こうものならば、はきっと嬉々に「サンタさん!」というに違いない。そんなの姿が思い浮かび、不二は小さく溜め息を落とした。今年のクリスマスは本当にサンタクロースにを持って行かれそうで不二はなんとか阻止せねば、と心に誓ったことなど、は知らない。





 ―Fin





あとがき>>……ちょっと甘さ控えめで頑張りました。サンタクロースを信じているのは、他でもない管理人本人です。絶対いると思うのです!ってゆうかいます!必ずいます!真っ赤なお鼻のトナカイさんに乗って、大きな白い袋持って、プレゼントを暖炉の中にぶち込むのです!(なんか違う)まあ、管理人のウチには親というサンタさんしか来ませんでしたが……。
2004/12/12