4年に1回だけ、1日増える日がある。
 それはずっと前から決まってたことだけど。

 でも、殆どの人って、そんなのあんまり気にする日じゃないよね。
 現にあたしもその1人だったわけだし。

 でも、彼に会って、変わった。
 この、4年に1度の1日が、1番楽しみになってたりする。



AM0:00、カレンダーにはない日付






 今日は、あたしの大好きな人の誕生日だ。
 正確に言えば、28日じゃなくて、その次の日なんだけど。4年に1回しか現れることのない日。
 2月28日と3月1日の日の間に出来る、日。でも、生憎今年は閏年じゃなくて。

 「不二くんの誕生日、お祝いしたかったなぁ…」

 自室とは全くもって正反対のこの部屋でポツリと愚痴のようにこぼした。
 本来、一人ならその言葉に返事が返ってくることはないんだけど。生憎、今この部屋にいるのはあたしだけじゃなくて。

 「…え?」

 あたしの大好きな人、不二くんが目の前にいたわけだ。
 聞こえない程度に呟いた言葉はしっかりと静粛な部屋には響いたようで。隣に座って写真を見ていた不二くんが、あたしの言葉を聞いて、素っ頓狂な声をあげた。
 見ればわけがわからないと言ったような顔。ヤバかったなぁ…って思うものの、口に出してしまったものはしょうがなくて。聞こえてしまったものは取り消せないわけだから。あたしは誤解を与えないように慎重に言葉を補足した。

 「じゃなくてね、誤解しないで?今年祝わない気がないわけじゃないから」

 言えば、不二くんはいつもの笑顔に戻った。吃驚した、なんてフフ、と綺麗に微笑む姿は、そこいらの女の子よりも綺麗だと思う。
 付き合って半年も経つけれど、未だにこの笑顔に赤面してしまう。それくらい不二くんの笑顔には不思議な力があるんじゃないかって、思ってしまうくらい(単に惚れた弱みなんだけどね)
 笑顔は素敵で、勉強できてスポーツできて、性格…はちょっと小学生っぽいところがあるにしても基本は優しくて素敵な人だ。
 そんな人の彼女になって、初めて迎える彼氏の誕生日。でも、誕生日を聞いたら閏年。
 今年あったっけ?って急いで新年早々チェックしてみたら見事28日で区切られてる2006年のカレンダー。
 あの日から1週間はショックで落ち込んでたことを思い出す。

 「一緒に、ちゃんとした誕生日を迎えたかったなぁって」

 実際こうして28日にお祝いをするものの、やっぱり物足りない。本当の生まれた日におめでとうって言いたかった。
 なんで今年が閏年じゃないんだろう、って何回思ったことか。思うだけじゃ物足りなくて、あたしの近くにあるカレンダーと言うカレンダーには、29日と言う日にちが付け足されている。
 それくらい、不二くんの誕生日を一緒にお祝いしたいんだ。

 「なんで閏年って4年に1度しかないんだろう」
 「っておかしなこと言うね。4年に1度しかないから閏年なんだよ」

 不満げに言った言葉は、クスって声とともに否定されてしまった。そんなことわかってる。
 なんだっけ?4年に1度、こうして1日プラスしなくっちゃなんか色々やっかいなことになるからだよね。

 「でも、その所為で不二くんの誕生日って4年に1回しかこないんだよ?」
 「そうだね、でもこればっかりはね」

 前に、それって淋しくない?って聞いたときのことを思い出す。


 「うーん、確かに淋しいけどね、でも28日か1日は祝ってもらえるし、閏年だから誕生日をすぐに覚えてもらえるから、その点は嬉しいかもね」


 そう言って、不二くんは笑ってた。でも、やっぱり淋しいと思うんだ。
 実際あたしは閏年が誕生日じゃないけど、好きな人が閏年生まれって、ちょっと淋しく思っちゃうし。お祝いしたかったなあ、ってもう1回ぼやいたら、不二くんが持っていたフォトアルバムを閉じた。

 「…は、閏年じゃなかったらお祝いしたいって思ってくれないんだ?」

 言われて、不二くんの顔をバっと勢い良くみた。
 そうしたら、ちょっとだけ不機嫌そうな不二くんの表情。
 怒らせちゃったんだろうか?不安になって、慌てて口を開く。

 「そ、そんなことはないよ!ただ…っ」

 途中まで言って、言葉に詰まった。そしたら、不二くんが首を傾げる。
 言おうか言うまいか迷って、中途半端に開いたままの唇とぎゅっとかみ締めた。

 「ただ?」

 黙ってるあたしを見て、促すように不二くんが繰り返した。
 ただ…。またあたしはさっきの言葉を呟いて。意を決して口を再度開いた。

 「…次の、閏年まで、不二くんと今日みたいに一緒にいられるか、限らない、し…」

 もしかしたら、来年の今日、あたしは不二くんの隣にいないかもしれない。
 高校は一緒だってわかってるけど、もしかしたら、不二くんに別の彼女が出来たり、冷めたりするんじゃないか、って。
不安が消えない。
 だから、今日閏年なら、良かったのにって思ったりもするんだ。途切れ途切れの台詞を全部言い終わると、流れる沈黙。
 気まずくって不二くんの顔が見れなくて、閉じられたフォトアルバムを見つめる。
 不二くんの男の子にしては随分綺麗な手が視界に映る。この手が、いつか離れていっちゃう事が、怖くてたまらない。
 そんな不安が頭を過ぎる。暫く無言が続いた。そして、何分くらい経ったんだろう?ふう、と息を吐く音が隣から聞こえた。

 「の馬鹿」

 それから続くのは、そんな一言。
 初めて言われた「馬鹿」って言葉に過敏に反応して顔を上げた。

 「…!」

 だけど、抗議する間もないまま、視界を支配したのは黒。
 声を出そうにも唇に当たる感触に声は出ないまま飲み込まれる。

 …キス、された。

 暫く経って今の状況がわかって、あたしの頬がカァと赤くなった。
 そしたら、離れる口。

 「次の閏年も、その次の閏年も、僕はとずっと一緒にいるつもりだけど?」

 突然のキス、突然の言葉に声が出なくて、代わりに涙が出そうになった。妙に感動してしまって、あたしは不二くんに抱きつく。
 名前を呼んで、ぎゅうっと不二くんの首に腕を回したら、不二くんの片方の手があたしの腰に回って、もう片一方があたしの頭をぽんぽんと撫でた。

 「あたしもずっとずっと一緒にいるつもりです…っ」

 不二くんの肩に顔を埋めたままの告白。

 「それってプロポーズ?」
 「ち、違う!」

 クスっと不二くんの笑う声がする。
 気づいて途端否定するけど、顔を見上げれば楽しそうな不二くんの顔。…ほら、こういうところが性格悪い。でも、そんなところも大好きで。

 「じゃあ、晴れて気持ちを再確認したところで」

 くい、っと腰を更に引き寄せられる。
 目の前には不二くんの顔があって。その笑顔に目が離せなくて。顔が紅潮していく自分に気づくけど、視線をはずすことなんて忘れてる。

 「今日は、泊まっていくよね?」

 意地悪く微笑んだ不二くんの顔を見て、完全KO
 白旗をあげる。どんどん近づいてくる不二くんの顔を見て、ゆっくりと瞳を閉じた。
 今年は閏年じゃなかったけど、きっと、いい日になる。

 誕生日おめでとう、あたしの永遠の王子様。





 ― Fin





あとがき>>永遠の恋人、不二様のご生誕祝い

2006/02/28