2007,Congratulations!




今日は1月1日、元旦だ。2007年のスタートとなる今日の日。ただ今、夜の8時。あたし達は新年と言うことで初詣に来ていた。
本当なら、1日の夜中に…って言うのが理想だったのだけれど、何せあたし達は今年高校受験の年なわけで、外泊が許されるはずもなく、しぶしぶ、諦めた。そして今、受験勉強の合間と銘打って、初詣に来たというわけだ。全て神頼みって言うのはアレにしても、やっぱり受験生にとって初詣とかそういうイベントって必要不可欠だと思うのよね、ウン。
本当は着物着て初詣デートってものをしてみたかったけど、夜にそんなの着るのもなぁって言うので、泣く泣く断念。それでも今年初のデートにテンションは高ぶって、普段以上にオシャレをしてみた。クリスマスプレゼントとして周助に貰った、甘い匂いのコロンをつけて、今度のデートに!とおろしたてのワンピースを着て、淡いメークなんてものをして。

ピンポーンって音に促されるように、扉を開ければ、「あけましておめでとう」と笑顔で言ってくれる周助がいた。とりあえず新年のご挨拶を程ほどに、二人そろって家を出る。あたしと周助が付き合ってることはもう両方の親、公認の仲だ。周助と受験祈願を祈ってくる!って言ったら、嬉々して喜んで送り出してくれた。信用されているのだ、ウチの親に周助は。
当たり前のようにぎゅっと手を繋いで、一緒な歩幅で夜道を歩く。寒いね、と軽く話しながら白い息を見て笑う。そんな小さなことでも幸福(しあわせ)に思う。
本当は、有名な神社で…と思ったりもしたけど、そんな遠出が中学生で許されるはずもない。近くにある、それでも巷で有名な神社へとあたしと周助は向かった。

「…わあ、夜って言っても結構いるんだね」

そうすれば、人、人、人。見渡す限り人だらけだ。1日の夜中が混むのは予想していたけれど、まさか夜になってもそれが退かないとは思わなかった。予想外のことに呆けてしまったけれど、周助はそうでもないようで。さ、行こう?と促されるまま手を引かれついてゆく。
うん、と言いながら人ごみを掻き分け、周助と離れないようにぎゅうっと手を握り締める。すると、周助もぎゅうっとキツク握り締めてくれた。



何とか、お賽銭のところまでたどり着いたのはそれから数十分も後のことだ。
周助と顔を見合ったあと、せーのって言いながら同時にお金を投げ込んだ。ちら、と周助を見れば、目を閉じて必死にお願いしてる顔。そんな顔でさえさまになってるから本当素敵だと思う。暫く周助に見惚れてしまって、はたっと気づいてあたしも慌てて目を瞑る。今年も周助と一緒にいられますように!と何度も何度もお願いした。
毎年、ケチって5円しか出さなかったのに、今年は奮発して100円だ。これで叶わなかったらここの神様を恨んでやる。手を合わせて何十回と繰り返した後、視線を感じて上を見上げれば、周助の笑顔とかち合った。
妙に照れくさくて、何?とどもりながら言葉を紡げば「必死な願い事だったね」と可笑しそうに笑われた。まさかその願い事はあなたのことですなんて言えなくて、まあね。と素っ気無く返すと、「まあ、受験頑張らないといけないもんね」と返って来た。そこで、思い出す。

「わわ!受験のことお願いするの忘れてた!」
「え?」
「ちょっと待って!またお願いするから!」

言って、次に取り出したのは1円。周助との願い事とは月とすっぽん。でも様は気持ちなわけですよ。ウン。と自分に言い聞かせて賽銭箱に1円玉を投げ入れた。見事入ったのを確認して、受かりますように!と強く願う。
二、三度それを繰り返して、よし!と瞳を開けば、周助がついに噴き出した。真剣な願い事だったね。と言われて、ちょっとだけ恥ずかしくなる。

「これじゃあ神様大忙しだね、フフ」
「う、もう!周助は一言多いんだよっ」
「はいはい」

言いながら、今度は来た道を引き返す。ところどころに屋台があって、楽しそうだ。どこも列を作っていて、何か買うのも一苦労だと思う。あたし達はとりあえず受験祈願の願掛けのひとつに、絵馬を買った。

「じゃあが先に書いて」
「りょーかい!」

一つの絵馬に二人で書くことは勿論、現役合格!
エスカレータ式の青学だけど、勿論あまりにも成績が悪かったら落ちてしまうもので(そりゃあ私立ですからね!)結構頑張らなくっちゃなのだ。
隣にいる周助は成績が良いからこれから猛勉強!なんてことはないだろうけど。あたしの場合は普段やっていなかったからか、結構四苦八苦だ。英二と一緒に教科書を睨めっこする日々。早く解放されたいけど、受験日はまだ来て欲しくない。そんな微妙な乙女心だ。
出来るだけ綺麗な字で、左側に「高校合格!」と書いて、ペンとともに周助に渡した。それに続いて周助が右側に書いていく。男にしては綺麗な字に、ああ、もうちょっと可愛らしく書けばよかったな、と早くも後悔したけれど、もう済んでしまったから仕方ない。それを二人で良く見えるところに吊るして、終了。

「じゃあ、何か食べようか」
「やった!あたしイカ焼き食べたい!」
っていつもこういう行事のときイカ焼き初めに食べるよね」

だってそれが醍醐味じゃん!言いながらイカ焼き屋に並ぶ。あたしの背後で、まあ良いけどね。と笑いを含んだ声が聞こえた。
もう笑いたきゃ笑えば良いさ。今のあたしはイカ焼きのほうが大事だ。鞄から財布を取り出して、うきうきと待つ。美味しそうな匂いがこっちまで漂ってきてあたしの空腹を上手いこと誘い出す。うずうずしながら何度か足踏みをしていると、ぽん、と肩に手が置かれた。周助?と思って横を見る。

「あ!英二!」
「あけおめ!お二人さんデートかにゃ?」
「あけましておめでとう、英二」

そこにいたのは英二だった。ぱちっとウインクして、笑う彼を見る。周助が、ほらも新年の挨拶。と言ったのを聞いて、慌てて思い出したようにあけおめ!と返すと、英二がくつくつと笑った。隣にいるのは大石くんだ。大石くんにもあけおめ!と言うと、丁寧に挨拶を返してくれる。心なしか大石くんも笑っているように見える。なんで笑うんだろう?と思って聞いてみた。

「どうして笑うの?」
「いや、なんか…新年明けても相変わらずだにゃーって思って」
「どういうこと?」

上から順に、あたし、英二、周助と続いて、あたしと周助は互いに顔を見合わせたあと英二の方を向いた。そうすれば、大石くんは英二の言いたいことがわかっているらしく、二人でアイコンタクトしてぷっと笑う(さすが黄金ペア)大石くんのほうは控えめな笑いだった。どうしたの、ともう一度聞くと、英二が可笑しそうにだってさーって言いながらにやにや笑う。「何か、今年も不二、保護者っぽいにゃーって」言われた言葉にカチンと来て「どういう意味よ!」と言い返せば、英二が少しだけ怯んだ気がする。

「お、おおいしぃ」

言いながら、大石くんにしがみつく自分のほうが保護者と子どもっぽい。大石くんを見ればハハっとちょっと困ったような笑みを浮かべている。保護者決定。心の中で任命して、フンっとそっぽを向いた。

「ほら、も英二も。折角の新年なんだから」

すると、隣のほうからくつくつと笑い声が降ってきて見上げれば、周助が可笑しそうに笑っていた。周助の言葉にむぅと口を尖らせるけど、まあ、周助の言うことも一利あるわけだ。というか、やっぱり新年くらいは平和にと言うかね?(別に喧嘩ってわけじゃないけど!)「ね?」と合図されて、あたしは黙ったまま、コクンと首を縦に振った。そうすれば良しと言いたげな周助の満足そうな顔。

…英二を怒っておきながら、自分でもなんだかなぁと思ってしまう。
結局、アレだ。あたしは周助には弱いのだ。周助の笑顔と言葉にはノーとは言えない。
英二!と名前を呼ぶと、英二があたしのほうを見てくる。あたしはそんな英二を見つめて。

「あけまして、おめでとう!今年も宜しくお願いしまっす!」

勢い良く頭をさげた。英二からの返事が返って来たのは数秒後だ。呆気にとられてたに違いない(と言うのも頭を下げてた所為で英二の表情がわからなかったのだ)俺のほうこそ…と頭上から聞こえてきて、あたしはようやく頭を上げた。
にこっと笑うと、同じようににこっと笑ってる英二の姿。うん、新年って感じだ。
一人満足していると、右肩に感触がして、ん?と思ったときには引き寄せられる。わわ!と声を出してしまった時には、周助の胸に寄りかかる体勢になっていて、え?と顔を上げれば、周助の笑みが見える。

「て、ことで、今年も僕とをよろしくね?」

2007年、1月1日。好調な一年のスタートだ。
きっと今年もいい一年になる!……よね?






― fin




後書>>2007年のフリー夢でした。現在はフリーではありません。
2007/01/03