「賛成の意見と反対の意見が共にあること」
「賛否両論」
「死んだつもりで頑張ること」
「大死一番」
「十把一からげのくだらない連中のこと」
「有象無象」
「物事が跡形も無く消えてしまうこと」
「雲散霧消」
ずっと動いていた口が、その場でピタリと止まるのがわかった。それから暫くしてカリカリ、と言う定期的な音もやむ。それから、伏せていた瞳がすうっと上がるのを不二は見ると、その瞳がパァっと輝くのが解った。
「凄い!周助凄い!なんでそんなにポロポロ出てくるの?」
「え、もしかして今のそのまま書いた?」
読書をしていた不二はの言葉にクス、と笑みを漏らすとのノートを見やった。すると、先ほど不二が言った言葉がそのまま書き写されている。こら、と冗談めかしで不二はの頭を小突くと言葉を続けた。
「そのまま書いちゃったらのためにならないでしょ?」
「…だってぇ」
「だってじゃないよ。のクラスで出された宿題でしょ?僕がやったってダメに決まってるじゃない」
言えばは案の定むぅ、と納得の行かない顔をした。それから紡がれる言葉はさっきと同様の「だって」だ。それから器用にペンを回すと、数度回したペンをポトン、とノートの上に落した。それから苦虫を噛んだような表情を作ると、そのままの表情で不二を見やる。
「わざわざ四字熟語にする意味がわからない。そのまま言えば良くない?わざわざ難しくしなくってもさー…4つに漢字にするよりもそのままの意味を言ったほうがわかりやすいと思わない?」
どうどう?と言った風に机をはさんだ向かいにいる幼馴染に問いかけると、不二ははあ、と呆れたようなため息をついた。それから諭すように「あのね?」と言葉を続ける。だけれどもそんな小言をはさらさら無いようだ。「ストーーーップ!」と次に始まるであろう長い説教を先回りして食い止めると、不二がまた呆れたため息を吐き出した。
「周助の言いたいことはわかるよ。…屁理屈だって言いたいんでしょ?」
「だったら」
「でも!…ほんと、何のために勉強してるのかわかんないもん。四文字熟語なんてさ、使うことなんてないじゃん。例えばさ此処の言葉『紆余曲折』とか、…はっきり言って使わなくない?あたしだったらそのまま、うわーこの道ぐにゃぐにゃだねえ!って言うもん」または物事が順調に運ばないで、こみいった経過をたどること。
言いながらは手をぐにゃぐにゃっと動かしながら説明をした。そうすれば不二が苦笑するのがわかる。「らしいけどね」と、その後不二が言ったのが解った。そんな不二に「だって周助だって言わないでしょう?」ピシィとまた持ったシャープペンシルで不二を指差すと、不二が緩やかな笑みを浮かべる。それから紡がれるのは「まあね」と言う同意だ。
「右顧左眄(うこさべん)とか?」右を見たり左を見たりして考え迷うこと。
「優柔不断と変わらないよね。わざわざ別にすることないのに」
「右往左往とかは使うんじゃない?」あわてふためいて右へ左へ行ったり来たりすること。
「いや、あたしはめちゃめちゃ混乱するー!って言う」
べえーと舌を出すと、不二がくすくすと笑う。「強情っぱり」と含んだ笑顔を浮かべると、がどうせね、とふて腐れたように返事を返す。不二はそんなから教科書を取るとまた新たな四文字熟語を読んでいく。
「因循姑息(いんじゅんこそく)とか」古い習慣にとらわれ改めようとしないこと。
「校長とか、今の担任とかそんなだよねぇ時代は変わってるって言うのに」
「因果応報」幸不幸は過去における善悪の結果ということ。
「あたしは使わない。漫画でしか読んだことない」
「意味深長」言葉などの内容が奥深いこと。
「…周助みたいな人に使う言葉だよね」
そこまで言い終えると、ふふ、と可笑しそうな声が不二から聞こえてきて、は嫌そうな顔をあらわにした。「なによう」…と言いながら不二から自分の教科書をひったくると「もう、」と教科書をパタンと閉じた。
「でも、それだけ意味を理解してるなら、明日の小テストは大丈夫みたいだね」
「え?小テスト?」
ひったくった後聞こえた台詞に、は素っ頓狂な声を上げると、不二がまたから教科書を取ると、パラパラとページを捲り、先ほどまで開いていたページを開いた。それから、教科書に書いてある四文字熟語のうち、数個を指で指し示す。
「―――と、此処。明日抜き打ちで小テストあるから気をつけてね?」
最後まで言った後、にっこりと楽しそうに言い放つ不二に、はマジで?と言った風に顔を歪めさせると、先ほど不二が言った場所を丸印で急いで囲んでやった。その様子を黙って見ていた不二だったが、そんなを見てポツリと呟いた。
「一心不乱。今のにぴったりの四文字熟語だね」わき目も振らぬこと
「あーもう邪魔しないで!教えてくれた場所忘れちゃう!」
「はいはい」
答えを不二に教えてもらっても、結局明日のテストの所為で勉強をしなければいけないようである。その後、の四文字熟語との戦いは長い間続く。気がつけば日が暮れていて、最終的に楽しようとしていたのにも関わらず、宿題の殆どの漢字に詳しくなってしまったのは言うまでも無い。そして翌日の小テストでは不二の教えてくれた問題の半分しか出なかったそうだ。
緩急自在な人
物事を自由自在に操ること。
「…周助、謀ったでしょう!」
「まあまあ、良いじゃない。たまには頭も使ったほうが老化防止になるでしょう?ね?」
「…く!むかつく!」
あとがき>>結局何が書きたかったのか。やっぱりまだスランプのようです。ついでに言えば、四文字熟語、あたしも苦手です(笑)どうでもいい裏話。意味がわからない人はドラッグすれば意味を簡潔に書いてあります。
2007/04/15