今日周助が、別の女の子とデートをする。



ただ君をアイシテル




周助が、小学生の女の子とデートをする、と言う噂を聞いたのは、数日前の話だった。詳しくは知らない。ただ、小学生の女の子に「デートして!」と頼まれたらしい。何でもその子はテニスプレーヤーで、今凄く悩んでいるそうだ。―――らしいとか、そうだとかと言う話口調なのは、やっぱり詳しく聞いてはならない内容だからなのだろう。周助の部活仲間である菊丸くんや桃城くんが教えてくれた話を、「周助も大変ね」と冗談交じりに笑って済ましたけれども、その日の夕方、本人からそれが噂ではなく本当だということを聞いた。

『ごめん、さん』

第一声。電話口から聞こえてきたのは周助の本当にすまなそうに言う謝罪だった。
本当はショックだった。小学生でも、周助から見たら子どもでも、私から見たら立派なライバルになりえるのだ。でも、周助の電話越しに聞こえる謝罪の所為で、文句なんて出てくるわけもなく。

『仕方ないわよ、・・・だから謝らないで』

・・・結局出てきたのは、割り切りのいい大人風だった。・・・本当はその日、周助の久々のオフで久しぶり(多分1ヶ月ぶり)のデートだったのだ。本当はその日、私とのデートでしょ?と言いたかったけど、言えるわけもない。我が侭なんて言えないのは自分が周助よりも3つも年上だからなんだろう。『その日、終わったらさんのうちに行くから」を最後の台詞に、電話を終えた。吐き出されるため息。周助は全然悪くない。・・・自信を失った相手を、元気付けようとしているだけだ。相手の子が、デートだと言おうと周助がそれをデートだと想わなければデートじゃないことくらいわかってる。

『僕が好きなのはさんだけだからね』

囁きにも似た台詞を、嘘だとは思っていない。周助の言葉を偽りだと思ったりしていない。だけど、不安になるんだ。相手はどんなに子どもだろうと、女の子なのだ。恋する乙女なわけだ。・・・もしかしたら、何年か後には可愛らしい女の子から綺麗な女性へと変わってしまうかもしれない。今は大丈夫かもしれないけどそうなったらわからないじゃない。先のことが見えないから、凄く不安になるの。



一人で過ごす日曜日は、いつもよりも淋しかった。本当は気晴らしに何処かへ行こうかと思ったけれども、一人でウインドーショッピングなんてしてるところで、周助と鉢合わせするのは嫌だったから家に引きこもることを決めた。でも、家で一人いると、どうしても周助達のことばかり気になってしまう。今、何処で何をしてるんだろう。どんな話をしてるんだろう。・・・心が狭いと思う。たかが、小学生相手じゃないか。そう思うのに、不安で仕方がないんだ。

終わったらさんの家に行くから。・・・その言葉が唯一の安定剤だ。早く来て欲しい。強く思う。じゃないと不安で押しつぶされそうだ。・・・20にもなった女が、17の男の子に此処まで溺れるなんて・・・自嘲するけど、真実だ。周助が、好きで好きでたまらない。もう、きっと私は周助がいなくなったら生きていけなくなるくらい、周助に依存してしまっている。



時刻は6時になった。もうすぐ・・・?もうすぐ?と今か今かと待ち構えていた所為か、既に夕食は出来上がってしまっていた。早く来ないと冷めちゃうのに・・・。自分なりに綺麗に盛り付けたお皿をテーブルに並べて、周助が来るのを待つ。カチカチと定期的な時計の針の音が、私の耳を劈くように響いて、心が騒ぎ出しそうになる。・・・もし、来なかったらどうすればいい?・・・その子が、周助のこと本気の本気になっちゃった場合、私はどうすれば良いんだろう。「別れられるの?」不意に出てきた答えに、涙が出そうになった。周助が別れたいというならそれも仕方ない。そう大人ぶる反面、すがり付いてでも離れたくないと思う。どんなに醜いと思われたって、恰好悪くたって、周助の前じゃこんなプライドいらない。周助を失うくらいなら、強がりを捨てたほうが良い。別れることになったとしても、忘れられる筈が無いのだ。

そこまで考えて、吐き気にも似た気持ち悪さが私を襲った。マイナス思考に考えるのは私の悪い癖である。社会人になったってそれは治らない。ああ、今、凄く・・・気持ち悪い。くら、と眩暈がしたから、今立つのは自殺行為だ。椅子に腰掛けたまま、額に手をやって俯く。どんよりと暗い気持ちになって、このままどん底まで沈んじゃうんだろうか―――シャレにもならないことを思ったときだった。

「・・・さん、また具合悪いの?」

優しい、声色。ずっとずっと待ち望んでいたそれが耳に届いて、私はバっと顔を上げた。そうすれば、心配そうに顔をゆがめている―――愛しい人。「しゅ、すけ・・・」私の声はかすれていた。恐る恐る伸ばした手。それは拒絶されることなく、周助の両手にすっぽりと収まった。引き金になったように私は椅子から立ち上がると、縋り付くように周助に抱きつく。そうすれば繋いだ手は放されて、周助の手が私の背中に回るのが解った。周助の首に巻きつくように抱きつく。そうすれば、さっきの気持ち悪さが幾分かマシになるのがわかった。

「お帰り、なさい・・・っ」
「ただいま。ごめんね、さん・・・心配かけちゃって」





「―――それで、その子頑張るって?」

粗方今日の出来事を聞いた私が質問すると、周助が紅茶を一飲みした後「うん」と肯いた。小30分ほど今日の出来事を聞いたあと、差し出された今日の習得品を手にもって、黙り込む。小学生と撮ったと周助から聞いたプリクラ。確か周助は撮るほうが好きだからプリクラとか苦手って言ってたのに・・・。それでも小学生に頼まれて断れなかったんだな、とすぐに気づいたけど、ちょっとだけ悔しかった。だって、私だって周助とプリクラ撮ったことないのに・・・。もしかして周助今回のデートまんざらでもなかった?思っていると周助がふわりと笑って、私の身体を抱き寄せる。そして、耳元で囁かれた言葉は「さんの心配してたことは何もないから安心して?」―――話しても無いのに、やっぱり私の心理は彼に筒抜けらしい。クスリと意地の悪い笑みを目に捉えて、私ははあ、とため息をついた。

「周助は解ってないよ・・・」

呟くように落すと、周助がキョトンと首を傾げた。「どうゆうこと?」と質問を繰り出した周助を一瞥。そんな彼を見つめた後、コテンと肩にもたれかかるように体重を移して、また言葉を続ける。とても、心が狭い女だと、自分でも思う。

「その子が周助に本気になるかもしれないじゃない?小学生だって、侮れないんだから」
「そうかもね」
「今にすっごく美人になって、すっごくテニスが上手になって、それで周助の前に現れるかも」
「そうかもね」

変わらない周助の言葉数にむっとしながら周助を一睨みする。周助は解ってないのだ。どれだけ、周助は魅力のある人間なのかを。小学生一人、その気になれば大学生だって、社会人だって例外じゃなく周助に惚れちゃうに決まってるんだ。現に惚れてしまった社会人が目の前に居るわけなのに。ぽか、と軽く握りこぶしを作って周助の胸を叩くと、私の言葉を遮って、周助が喋りだした。

「・・・っ、んもう!周助?私本気でしんぱ―――」
「だからって、僕の心は変わらないよ?」
「っ」
「僕はね、デートするにしたって、抱きしめるにしたってその行為そのものにお互いの気持ちが入ってなかったらなにも問題ないものだって思ってるんだ。まあ、それ以上・・・とかはさすがにそんな軽い風に考えちゃ駄目かもしれないけど。だから、僕は今回の事、デートだって思って無いし、勿論この先だって、さん以外本気で好きになる人なんていないって思ってるよ。この子が本気で僕の事を好きだって言ってくれたって、どんなに綺麗になったって、テニスが上手になったって。それで僕の心は動かされない。―――それは、さんが良くわかってると思ってたんだけど」

ふわりと包むように頬を撫でる周助の掌。ちょっとだけ冷たい掌が、上気した頬に中和するように溶けていく。周助の言いたいことはわかってる。わかってるんだ。

「僕は、さんの姿形だけじゃなくて、心に、惚れたんだよ?そのものに、惚れたんだ」
「じゃあ、心にビビビと来ちゃったら?」
「・・・来るわけないのに」
「わからないじゃない」

本当は解ってる。周助はこんな時にまで嘘をつくような人じゃない。だけど、安心させて欲しいのだ。甘えている、この青年に。「本気なのに」ふう、とため息をつく周助を見つめる。呆れてしまっただろうか?20にもなって、大人気ないって思っただろうか?そう不安が過ぎる。不安になるなら、怖くなるなら言わなきゃ良いのに。自分でわかってるのに、困らせてみたいとも思ったりして。でも最終的に捨てられやしないかってビクビクして。本当バカみたいだ。
―――ぐいっと腕を引っ張られたのは思考の最中だ。え、と小さな声を漏らすと同時に、先ほど見えていた景色が反転して。―――トサ、と優しく寝かされた。見えるのは周助の顔と天井。押し倒された?と気づいたときにはもう遅い。

「しゅう、すけ?」

名前を呼べば、たおやかな笑顔だけが返って来たあと、首筋に触れる感触。さら、とした周助の髪の毛と唇が首元を辿るのが解った。

「じゃあ、今日は全身で教えてあげる」
「ちょ」
「待ったはなし。―――信用出来ないっていうなら、一晩かけて信用させて見せるから。どれだけ僕がさんを愛してるかってことをね」

そして見せるのは笑顔。だけど先ほどのたおやかさはなく、どこか艶かしく。瞳は獰猛な獣のような何かを感じさせた。・・・動けなくなる。抗議しようと思っていたはずなのに、何もいえなくなる。ごめんの一言さえも。もう、逃げられないのだと悟るのだ。ちゅ、と降って来た口付けに瞳を閉じたら、白旗の合図。離れた唇と同時に見つめ合って、周助の首に腕を回して強く抱きしめ合う。



ひらひらと、手に持っていたプリクラが静かに私達の横を舞うのを涙を流しながら見つめた。
プリクラに映った周助に心の中で、今は私だけの王子様でいてね。と呟けば、

さんだけを愛してるよ」

と、まるで私の心を読んだかのように眼前に居る周助が囁いた。行為中のときに囁かれる台詞は、どんな言葉よりも嬉しくて。私のくだらない不安要素を全て取り除いてしまう作用があった。
今度の休みは、ちょっと我が侭を言って、プリクラを撮ってみることにしよう。きっと周助のことだから「さんは負けず嫌いだね」と言いながらも快くOKしてくれるんだろう。そんなことを思いながら瞳を閉じた。





― Fin





あとがき>>アニメで周助が小学生とデートをするというのを知って、書きたいと思ってた年上ネタ。未来設定で周助さん高校3年生。・・・これって犯罪じゃね?小学生と高校生って(笑)ちょっと最後のほうエロちっくになるように頑張ってみましたが、やっぱり断念(笑)才能が無いのだと思われます。てゆうかアニメを見て無いのでどんな小学生でどんなデートをしてとか詳しく知らないんですけど・・・。でもあれよね?プリクラ撮ったんだよね?たしかそれが王子様衣装の周助だったのよね?やばい、欲しい(笑)あたしも一緒に撮って欲しいです(痛い)
2007/06/20