好きな人は、いつだって見つめていたいものだと思うのです!



恋する乙女は無敵です




例えば最近のニュース。婦女暴行だとか、元交際男が元彼女を殺したとか、同棲してたら修羅場って刺しちゃっただとか、浮気がバレて逆ギレしてなぐり殺しちゃっただとか、なんか、とってもダークな話が多い。その中でも、一番衝撃的だったのが某県で『同じ学校の同級生が、好きな女生徒を追っかけまわした』というニュース。朝、ご飯を食べながらぼんやりと見ていた今日、学校に登校すると男友達の英二が「今日のニュースみた?」ってニヤけながら言った。

「うん?」
「あの、同じ学校の男子が女子を追っかけまわしてのやつ!」

興奮気味な英二に、あああれね!って同意して頷くと、英二の笑顔が半端なく明るくなる。すげーよな。後頭部に両手を組んで、にかっと笑うと、「おれあれみてさー」って言葉が続く。私はカバンを机の横にかけながらなんとなしに聞いている。

の心配を真っ先にしちゃったね」
「……え?」

おもわず、カバンをかけ違いそうになった。見上げるとやっぱり笑顔の英二。言ってる意味がわからなくて私は呆けてしまった。自慢じゃないが、私は誰もが振り返るような絶世の美女なんかじゃない。最近、小学生でもふっつーに彼氏が出来た、うふ★みたいな世間だが、今のところ生まれてこの方ずーっとフリーだ。そして「好きだ」とか「愛してる」とか「じゅてーむ!」みたいな言葉もささやかれたことなんて、全然ない。一般女子。(本当に自慢じゃない)そんな私のどこを心配するのだろう?え?顔を傾けると、英二はにししって笑う。

「まあ、の場合なら、『女生徒が男子生徒を追っかけまわして―――』になるんだろうけどねん!」

……………………。きっかり、10秒。私の思考は英二の言葉を理解するためにフル活動された。そして、

「な、な、な、なんですってーーーーーーー!?」

こぶしを振り上げる。なんたること!今のは英二、失礼だ!悪いけれども私は犯罪を犯すほど何かをしてるわけでもない。振り上げたこぶしはぱしっと英二の掌にすっぽり収まって、うわーこえー!って茶化す英二。でもその顔ぜんっぜん怖そうじゃないんですけど!もう片方の手もふっつうによけられた。さ、さすがアクロバティック!

「だって、不二のこと追っかけまわしてんじゃーん!」

言われて、言葉につまってしまった。うぐっ。呑み込むと英二が意地悪な笑みを浮かべている。こ、このでかにゃんこめ!
先ほど出た『不二』という名前。そんなの、一人しかいない。同じクラスの不二周助その人だ。私の片想いの相手。って言ってももうみんな知ってる事なんですけども!とにかく私は不二がすっごくすっごくすっごくすっごくすっごーーーーーーーーーーーーーーーーっく大好きなのだ。3年6組では公認の仲だ(片想いの)私が不二に好きーって言って、不二があははーって逃げて。その繰り返し。こう、追いつけそうなのに追いつけない。ちょっと意地悪なところも好き!「それってすんげー性格最悪だと思うんだけど」ぽつりと英二が言ったけど、凡人にはしょせんわからない魅力なのよ!

「でも、だからって、私、性犯罪者にはならないわよ!!!」

そう、その男子生徒は恋い焦がれるあまり彼女の家をひそかに尾行し、一人のところを狙って不法侵入を犯したのだ。まあ、結局未遂で終わって御用となったわけではあるが。ならありえそうだけど。また、ぽつりとつぶやく。アンタ、ほんと刺すよ?ぎろって睨んだらおっきな身体を極限までちっさくする英二の姿。私はこほんと咳払いをして、てゆうかいつまでも私の手触ってないでよ。と英二の手から自分の手を振り払うと、席に着いた。英二も席は違うけれども前の席に座り込む。それを確認して私は語りだした。

まず、私の今回のニュースの意見を言わせてもらうと、ちょっと気の毒だとは思ったよ。だって彼は彼女の事が好きで、でも初めての恋で戸惑ってしまった部分があったのだろう。“内気な少年”と友人たちに言われていたことから、うまく自分をアプローチ出来なかったのだと思われる。でも二人っきりになりたい。誰しも恋をすれば想うことだと思うんだよね。てゆうか二人っきりなんてドキドキして心臓とびでちゃうよね!あたしも不二と二人っきりになっちゃったらきゃーってなってあーってなってぎゃーー!ってなっちゃうと思うのよ!…そんな目で見ないで頂戴。ま、まあそんな感じで二人っきりになれる機会をうかがってたんだと思うんですよね、私は。そしたら彼女は家に入って行った。軽く混乱状態に陥って、いや、興奮状態?そこで彼女に気持ちを伝えようと思いドアをこじ開けると、間の良いことに、ご両親留守。二人っきり。初めての二人っきりだったに違いないわ。それできっともう何も考えられなくなっちゃったのね。口下手な彼は慌てる彼女になんとか気持ちを分かってもらおうと思って、詰め寄った。そして、ゴクリ、生唾を飲み込んで

「あーもう良い。なんか表現がエロくなってるよ。つかどういう妄想」
「いやいやいや。英二君。恋とは時として人を消極的に、そして積極的にしてしまうものなのだよ」

チッチッチ、と人差し指を振り子のように二、三度ふると英二が訝しげな眼を向けた。む、むむう。そしたらぽん、って頭を撫でられて、顔をあげると「おはよう」って、不二の顔。朝から素敵なスマイル!「お、おはよう!!」それだけでテンションが上がってしまう。「今日もは朝から元気だね」元気だけがとりえですからー!えへへ。と笑ったら、それってつまりそれ以外なんも持ってないってことだよねん。って英二が言った。キっと睨むとやっぱりひるむ。だったら初めから言わなきゃ良いのに。また不二を見ると、不二は隣に腰かけた。そう、今の私の隣人は不二なのです。いつもくじ引きで決まる席順。多分今年の運はこれで全部使い果たされたよ。でも、悔いはない!

一人トリップしてたら、また英二の声。

「で、結局、もそんだけ男子生徒の気持ちがわかるんなら、犯罪犯しちゃうってことで良いんかにゃ?」
「は?」

あんた、何聞いてたの。私は確かにさっきニュースを見た自分の意見を言ったけど、でもだからってなんで私と彼を一緒にするのだ。「だってそういうことだしょ?」くりくりの大きな茶色の瞳がこちらを見つめる。全然違う。

「何言ってんのよ!相手は性犯罪者。私はただの恋する乙女!」
「……いや、でもさっき男の気持ちわかるって…ストーカー予備軍じゃん」
「英二君?アンタ、ストーカーは犯罪だと!?」
「いや、犯罪だから捕まったんでしょ!」
「馬鹿だね。私の辞書はストーカーと書いて恋する乙女と読むんですだから犯罪じゃないのです!!!あ、でもこれ女の子限定ね!男のストーカーは気持ち悪い!」
「…それ、完璧差別だけど!?」

どーん!まるで効果音をつけるならばそういった類の言葉が聞こえてくるんだと思う。私はえっへんと胸を張って叫ぶと、36のみんながいつの間にか私を見ていた。そしたら「わー!頑張れー!」とか「ポジティブだ」とかいろいろ聞こえてくる。おうおう、こういう声援はほんと今後の糧になるよ!って!つか今声援に交じってウケるとかいった奴誰だ!

「くぉーーーら!誰じゃい!今ウケるっつったやつ!」
「まあまあ!とにかく頑張って!その意気でさん、不二君の心ゲットしてね!」
「これでもしくっついたら、ストーカーの末付き合った中学生!とかってニュースに出るかもな!」
「おほほ、まかせんしゃい!!」

みんなに祝福されるってうれしいなぁ。ニュースに出た男子生徒はほんと気の毒だと思う。けど、そのおかげでさらに36の絆は深まりました。「おーっし!卒業までにぜーーーーーったい不二の恋人になってみせるからね!!!」私、頑張る!!すごい勢いで、拍手された。



「……ほんと、変な奴に好かれたよにゃー、不二も」
「あはは、まあ楽しいから良いんじゃない?退屈しないのは事実だし」
「……俺、もし不二とが付き合ったら、ほんと最強だと思うよ」

そんな会話が後ろで繰り広げられてたことは、がははと笑っていた私は知る由もない。



今日も恋する乙女は元気に彼を追っかけるのです!





― Fin





あとがき>>なんていうか、末期ですんません(笑)
2009/01/25