書類が整理されない。 それは次々に送り込まれる仕事があるからという理由も一応あるが、 それ以前にこの人間が仕事をしようという気がないからそうなってしまうのだろう。 もうすこし、この人間は部下に気を使ってもいい気がする。いや、使うべきである。 使っても絶対にバチはあたらない。 だって、この人間が仕事を片付けないせいでわたしが一生懸命仕事をしているのだから、 そのぐらいは望んだって正当だと思う。自分の身長ほどの書類が積み重なれていく。 ぐらぐら揺れるとかそんなレベルではない。山が今にも崩れそう。それが適切な表現方法だろう。 ひくり、こめかみが勝手に動く。どうしようもないが、今更だが、この人間を誰か働かせてはくれないだろうか。 そうしないと、いつか我々彼の直属の部下のうち誰かが過労で亡くなってしまったといわれても、 それは冗談に聞こえないだろう。 (ってかあれですよね、その候補の一番最初の倒れる予定か亡くなる予定の人ってわたしですよね) (ほら、欠伸してないで働いてください雲雀さん!)


「面倒だから君らでやったらいいじゃないか」
「何を言っているんですか。それがボンゴレ幹部のお方の台詞ですか。眠くてもサインしてください。 ペンを走らせてください。ってか仕事してください頼みますから後生ですからやってください」
「面倒」
「三途の川を拝ませたいと本気で思ったのは貴方が初めてです」
「ワオ、それじゃあ赤飯炊かないとね」


 殺してぇ。心のそこから思いましたがその言葉を飲み込んで笑顔でペンを握らせました。 過去、この人によって何度も殺されかけたとボスは言っていたけど、そうは見えない。仕事を部下に任せて、 昼寝を何十時間もして、幸せそうに眠っている姿を見るとまるで子供だと思う。 そりゃ、安心できる場所を作るのも我々部下にとっては大切な仕事ではある。 マフィアの人間の安心できる場所を作って置けるのは幸せな事なのだろう。 でも、それは彼がちゃんとした仕事をした上でのことだ。 軽い仕事をを部下に任せてしまうのは本人にとっては軽い事かもしれないが、それは積み重なってストレスとなるのだ。 そして積み重なり後戻りできなくなればその人の全てが信用できなくなる。 人間とはそんな小さなことの積み重ねで、簡単に裏切ってしまう生き物だ。 わたしはそれが、なによりも恐ろしいのである。
 雲雀さんは仕事はしないが仕事は出来る。書類整理云々ではなく、すべてオールマイティにこなせる人である。 それが分かっている分わたしも彼に強制をするのだが、雲雀さんは気にすることもなく昼寝を堪能する。 近づけばその仕込みトンファーで殴られるかもしれないよ! と、最初、ボスに雲雀さんの部下になれと任命された時言われていたがそんな事は全くなく、 逆に起こそうとすれば襲われそうになる始末である。(その時は未遂で終わったけど) どうも、聞いていた人相と違いすぎてわたしは混乱を覚えてしまう。 でも、そんなことはどうでもいいから仕事をして欲しかった。 このままでは、雲雀さんは仕事は出来るのに仕事をしないから、 もしかしたらボンゴレの幹部という立場を解任されてしまうかもしれない。 それだけは、なんとしても阻止したいことだった。


「お願いします雲雀さん。仕事してください。そうじゃないと……」
「そうじゃないと、なに?」
「貴方が幹部を解任されてしまいます」
「いいよ。僕はそんなに立場にこだわってないしね。綱吉だってその程度の事は理解しているよ」
「でも……!もしも、と言うこともあります。 それに、仕事をしなければ部下の立場から非常に申し上げ憎いのですが……」
「『信用しにくい』」
「……分かっているのに、そのような行動を取るのですか」


 歯をかみ締めて睨みつけてしまったのに、雲雀さんは軽く笑い「は真面目な子だね」と、呟いた。真面目なんかじゃない、わたしが嫌なんだ。 雲雀さんの事を悪くいう人がいて、それがとても嫌だった。結局、わたしは雲雀さんの事なんて全く考えていないのだ。 この人が幹部から解任されたらわたしの仕える上司が変わる。それが嫌だったんだ。 雲雀さんの悪口を聞きたくない、この人以外に仕えたくない、みんなに雲雀さんの凄さを理解して欲しい。 そんな考えばかりが浮かんで、彼に仕事を強制しようとしたのである。
 雲雀さんは眠っていた体を起こし、わたしを見て薄く笑みを浮かべた。 しなやかな長い腕がわたしの頭の上にぽんと重ねられ、ゆっくりと撫でる感触が来た。見た目の割には、 がっしりとした体。逞しいと思われる外見ではないのに、その腕の力強さに涙が出そうになる。 欲しい言葉はかけてくれないくせに、こういった態度で人を安心させてくれるのは彼ならではのものだろう。


「可愛いね」
「そんな事言う前に……仕事してください……」
「はいはい」
「……雲雀さん」
「なに」
「………さっきは言い過ぎました。何か処罰があったら」
「真面目な子は好きだよ、


 名前を呼ばれて雲雀さんのほうに顔を向けたら、思いのほか近くにその整った顔があった。 彼のその眼は閉じられ、透き通るように白い肌が普段感じているより近くにあり、驚いて声を出そうとしても、 声を出すことを忘れてしまったようにかすれた音もでなかった。
 それが、キスという行為だと気づいた時には、すでに雲雀さんはわたしから身を離したところで、 イタズラが成功した時の子供のようにその眼を輝かせていて、わたしはとにかく頬を赤く染めるという、 単純なことしかできなかった。


「やっぱり、可愛いね」
「―――っ!雲雀さん!」


 言いたいこととしたい事をして満足したのか、雲雀さんはそのままデスクに向かい、 山のようにあった書類を片付けにいった。仕事に向かうのならわたしはこれ以上声をかけることは出来ない。 色々と今の行動に文句を言いたいのだが、やっと念願の頼みを聞いてくれたのだから文句を言えるはずも無い。 あてつけのように、大きな溜息をついたのだけど、それを聞いても雲雀さんは相変わらず、 どこかわたしをからかうような態度を取っていた。 仕方ない人だ、諦めるようにわたしも書類を片付けるため雲雀さんから離れた。 いきなりされたキスで頭が混乱しているけど、今聞いてもたぶんはぐらかされるだけだ。けど、 (その行動にどんな意図があろうとも、わたしはあなたが好きですから) (書類片付け終わったら覚悟してくださいね)





真相はやがて明かされる





1118/遊夜ちゃんに捧げたいと思うよ!(イメージ違ってたらゴメンヌ)