爽やかな風が吹き通る、そんな朝。私は今日も学校に行くためにこんこん、と軽快に靴の音を鳴らし、「行ってきまーす!」と残して玄関を出る。大抵ばたばたと騒がしく出てくる私にしては、随分と早い方だと思う。お兄ちゃんには「・・・今日はやりでも降ってくるかもな」とまで言われた。・・・失礼な!なんとなく、ゆっくり登校してみたくなったから。なんとなく、良いことが起きる気がしたから。 いつもより(かなり)余裕を持って歩く。こうしてゆっくり歩いてみると、新しい発見が次々と流れ込んでくる気がする。 「あ、こんな所に可愛い花ー・・・!あれ、あっちにも」 そう、例えば、名前も知らない可愛らしい花が咲いていたり、燕の巣を見つけたり、空が、綺麗だったり。ゆっくり歩いて周りを見るだけで、こんなにもたくさんの発見がある。小さな幸せ。まるで、その小さな幸せを―――宝探しでもしているような感覚になってくる。 そろそろ学校に到着、という所でまた一つ、発見する。 「サボ・・・テン?花が咲いてるところだ・・・!珍しー!」 お洒落な外装の家の窓際に、ちょこんと置いてあった。サボテンは環境が悪いと開花しない。だから花が咲いているところは中々見ることができない、とある人から聞いた。可愛い小さな花を見て、さっきから緩みっぱなしだった頬が更に緩む。多分、音にするなら『にへらっ』って感じだと思う。今日は朝早く出てきて本当に良かったなーなんて思いながら、(スキップしたくなるのをなんとか抑えつつ)学校に向けて歩き出す。ふいに、心地よい風がさあっと通り抜ける。 「―――あれ、ちゃん。今日は早いんだね」 通り抜けた風がまるで私の心臓をこちょこちょっとくすぐっているかのような、そんな感覚がした。顔が熱い。その声の主が誰かわからないはずがない・・・けれども、―――そう、落ち着かないと。とにかく、落ち着こう。多分中々振り向かない私を不思議に思ってる、だけどこのまま振り向いたらきっと、まずい。前にこれで失敗した。一、二回程度ゆっくり深呼吸をして、ゆっくり振り向く。 「―――しゅ、周助、先輩!お、はようございます」 失敗。声が思い切り上ずってしまった。うう、何でいつもこうなっちゃうんだろう。声が上ずってしまった恥ずかしさと、上手く言えない自分にほとほと呆れる気持ちが入り混じって、相当微妙な表情をしていたと思う。それでも、周助先輩は「おはよう」と柔らかく微笑んでくれる。一気に安心する、という感覚に包まれた。 周助先輩は、私の、好きな人。入学式の時に、緊張しすぎていた私に「そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ」と優しく声をかけてくれた優しい先輩。それからというものの学校で会うといつも話しかけてくれている。つい最近、名前で呼んで欲しいと言われ、もの凄く嬉しくなったばかりだ。 「今日は随分早いけど、どうしたの?」 「えと、なんとなくゆっくり登校したい気分になったんです」 どうやら周助先輩も、私には毎朝ぎりぎりに登校してくる、というイメージがついているらしい。・・・これからは気をつけよう。私は「それに、」と続ける。 「今日は良いことが起こる気がしたんですよ」 「へえ、それで、良いことはあったのかな?」 「はい!あ、ほら、あそこのサボテンの花、とか・・・燕の巣とかも見つけたんですよ!」 嬉しくなって、思わず興奮しながら話す。そんな私の様子が面白かったのか、周介先輩はクスッと笑った。その瞬間恥ずかしさがまた身体全体に戻ってきて、私の動きがはたと止まった。 「す、すいません!はしゃぎすぎちゃって・・・普通ですよね、こんなの」 「いや、違う違う。ちゃんが凄く嬉しそうに話してて、可愛かったから思わず、ね。それに、自分にとって新しいものを見つけるのは、すごく良いことだと思うよ?」 そう優しく言われて、ほっと胸を撫で下ろし―――周助先輩のさりげない可愛い発言にぼんっと赤くなった(気がする)。前々から薄々、周助先輩はたまに爆弾発言をする、と感じていたけど、か・・・可愛い、だなんて・・・!突っ込むべきか流すべきかで数秒迷った。でも突っ込んでもまた何か返ってくる気がしたから、さらりと流してみることにする。・・・できるかできないかは別として。 「・・・・あっ、ありがとうございます」 案の定できなかった。真っ赤な私を見て、周助先輩はふふ、と笑った。そんな時にふと、朝一番に周助先輩に会えるなんて幸せだなーなんて思う。なんだか、小さな幸せがたくさん集まって、大きな幸せになったみたい。好きな人と一緒にいるという、これ以上ない幸せを感じながら、周助先輩にばれないように『にへらっ』と笑う。そう、 「――・・・周助先輩に会えたことが、今日一番の良いこと――・・・」 その瞬間、隣から「え?」という声が聞こえる。・・・声に出していたらしい。こんなの聞かれたらばれちゃうよー!と心の中で叫びながら、「ああああのえっとその・・・!」と大慌てで何とか誤魔化そうと奮闘する。あわあわしてばかりの私とは逆に、周助先輩は一瞬驚いた顔をしたけれどもすぐに表情は戻り、小さく首を傾けながら言った。 「――・・・僕の今日一番の良いこと、もちゃんに会えたことだよ」 「・・・・え?」 聞き間違い、ではないだろうか。私に会えたことって。それともやっぱり幻聴、なのかもしれない。それはそれで悲しいけど。目を見開き、何か言おうと試みるが失敗に終わっているそのぱくぱくと開け閉めされる口、更に棒立ち状態の私。その私の手を、今の言葉を考える暇も与えず周助先輩はそっと取り、くいっと引っ張った。 「よし、じゃあ学校まで行こうか。もうすぐだけどね」 そう言って、周助先輩はにっこり笑って私の手をぐいぐい引っ張っていく。私は慌てて足を動かす―――が、それよりも。 「しゅしゅ周助先輩、手、手!どうしたんですかっ!そ、それに・・・皆見てます・・・!」 「僕が手を繋ぎたいと思ったから」 「思ったって、そんな・・・皆見てますし、恥ずかしいし・・・!は、放して下さい!」 「だーめ。放せない」 そう言って、クスッと笑う。この先輩は、私の心臓が破裂しそうなのを知っていてやっているんだろうか。私の顔、耳、とにかく全体が真っ赤に違いない。 「思ったからと言って、そんな・・・だめですよ!本当、いきなりどうしちゃったんですか・・・!」 何がよくて何がだめなのか、もう何が何だかわからない。混乱しすぎて、ゆっく闕lえることができない。ばくばくと五月蝿い心臓の音が邪魔をする。何がどうなっているのか、誰か私にゆっくりと丁寧に教えて欲しい。すると、周助先輩の足はぴたっと止まり(勿論、それに合わせて私の足もおたおたしつつも止まる)、口を開いた。 「どうしちゃったって・・・わからないかな?ちゃんが、好きだから。これじゃダメかな?」 ―――それは大きな大きな、幸せを感じた瞬間。 --------------------------------------------------- *ま、間に合わなかった・・・がくり。 初めての不二夢、書いてしまいました。サボテンといえばやはりあの人。でもエセ不二・・・!(震)当初はこんな長くなる予定ではなく、ss程度のはずでした。更には、爽やかで憧れの先輩の設定のはずが何故か最終的に強引というか確信犯的というか・・・!(笑) (いつものように)結局収拾がつかず上手くまとめられなかった感がむんむんですが、こっそり(でもないですが!)心の中で捧げますごにょごにょ・・・! 07.03.01 -------------------------------------------------------------------- *大好きなお友達凛ちゃんから 07,03,16 |