はやる気持ちを落ち着かせながら、
でも足取りは軽く注意しなければスキップでもしてしまいそうな勢いになっている。
向かう先は応接室、朝からそこへ訪れるのは(それも自主的に)めずらしいのだけどその理由が、
「おはよ、恭弥」
彼と付き合い始めて1年という、記念すべき日なのだからそれを言われたら納得せざるを得ないでしょう?
いとしいひと
甘さを控えたクッキーを昨日の夜作りました、もちろん彼に渡すためであり自分も食べるため!(←ちゃっかり) そしてそのクッキーの入ってる箱の中には、
クッキーに紛れてこないだ奮発して買ったペアネックレスの恭弥の分が入ってる。
普通の女の子が買うには高めの値段でペアでネックレス、とか渡されても重たいかなーなんて思ったけど、
1年続いてるんだし、おかしくないよ、ね?
と少しだけ不安な気持ちを抱えながらいつもの定位置(つまりソファー)に座っている恭弥に歩み寄り、
隣に腰を下ろした。
「・・・・・・が朝からここに来るなんてめずらしいね、明日は雨かな」
「え、挨拶もなしに開口一番それ!?」
「もちろん今日はずっとここにいるんだよね?」
「2時間目からはしっかり授業を受けようと思います」
不敵な笑みを浮かべてさも当然のことのように言った恭弥に即答すると、
その顔が不機嫌なものに変わった。
いやいやいや恭弥君そんな顔されてもさ、
私恭弥君と違って紙の上の文章読むだけで内容を理解できる頭持ってないから・・・・・・!
「あ、そうだ恭弥、あのね、今日はとっても"良い日"なんだよ!」
「なんでだい?」
「私と恭弥が付き合い始めて丁度1年を迎える日なの。
思えばあの時、恭弥に脅迫紛いの告白されてさ。
・・・・・・今だから言える話、私最初ビビってOKの返事したんだよね!」
「 へ ぇ 」
「でも今はあれで"正解"だったんだ、って身をもって感じてるよ。
というわけで、せっかくの記念日なんだし女の子らしくクッキー作ってみました」
はい、と恭弥に手渡した。
「・・・・・・今開けても、」
「もちろんいいよ!」
聞かれなくても「開けて開けて!」と言うつもりだった私は少し驚きながら、
でも日頃反射神経を鍛えているおかげか(だって恭弥怒るとトンファー振り回すんだもの)恭弥の言い終わらないうちに応えた。
そして意外にもあっさりと、私の用意したもう1つのプレゼントを発見されてしまう(え、早すぎるよ!)
「――――――・・・!」
凝視する恭弥を見るのは稀だから新鮮で、でも私はそれよりも、その反応を良い方にとっていいものか迷った。
ネックレスを取り出してじっくりと観察するように見る恭弥を、ドキドキしながら私が見る。
「・・・・・・恭弥?」
耐え切れずに名前を呼ぶと、恭弥は私の声には返答せずに立ち上がってデスクの方へと向かった。
戻ってきた彼の手には、小さな箱が。
「――――――それ、は?」
期待せずにはいられないけど、そんな、まさか、
「君へのプレゼント」
「・・・・・・、お店に入って、買ったの?」
「なにその目」
「だ、だってそんな、恭弥が買うところなんて、想像できな、」
「・・・・・・涙流してる暇があるなら開けなよ」
「な・・・!流してなんかないし流してもやらないし!」
ただ少しびっくりして涙腺の制御ができなくて感動するまま涙が目に溜まっただけだ。
そしてそれを目ざとく見つけ私に早く箱を開けるよう催促した恭弥の、
拗ねたようにそっぽを向く姿・・・・・・、あれは絶対に、照れ隠しだ!(いとしい!)
――――――私は渡された箱をゆっくり開けた。中には、
「・・・・・・これって、」
「婚約指輪ではないよ。それはまたちゃんと、近々渡すから」
「え、ちょっと待って、恭弥・・・、ね、1年だってこと覚えてたの?」
「忘れてると思ってたの?」
逆に聞き返されて、返す言葉につまる。
流石に『その通りでした』というのは申し訳ない気がして。
1年だけじゃ恭弥のことを理解することは不可能なんだ、としみじみ思った。
「・・・・・・私からのプレゼントね、それ、ペアネックレスなの」
「奇遇だね、僕からのプレゼントもペアリングだよ」
――――――ああ、本当に、もう、この人は!
私たちは目を合わせると一緒に小さく笑って、どちらからともなく、キスをした。
(と結ばれる日が早くきますように)
(恭弥と結ばれる日が早くきますように!)
1周年記念夢!(Paradox/春幸)
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