あれからココアを全部飲み干したあたしは、寿ちゃんと一緒に自分の部屋に戻った。どんな反応されるのか怖くって、ぎゅって寿ちゃんの手を握ってドアをノックしたら、ガチャってドアを回す音と、委員長の顔がドアの間から覗いて、「心配かけないで!」ってあたしを見つけた委員長の開口一番はそれだった。もちろん委員長に謝ったら、すぐに許してもらえて、「じゃあ僕は行くよ。もう遭難しないように」なんて茶化された。
就寝時間の放送が鳴ったのは数分前の出来事。自動に電気が消えてしまったときはびっくりして停電だよ!って騒いだけど、委員長が就寝時間になったら切れるって言ってたじゃないってクールな切り替えしをされてしまった。あ、そういえば、そんな説明受けたような、受けてないような。ほら、じゃあベッドに入る!ときびきび委員長が言って、友達二人が上で寝たいって言ったのであたしと委員長は下の段で寝ることになった。さ、寝るぞ。って布団にもぐりこんだら、ねえ、って言う声。え、っと目を開けたら、上の階から顔を覗かせてる友達の姿があって、ちょっとびっくりしてしまった。だ、だって顔が逆さ…!(いや当たり前なんだけど!)驚いた声をなんとか我慢して、「ど、どうしたの?」って聞けば、「寝れる?寝れないよね?」って言ってあたしが返事しないうちにゆっくりとしたに降りてきて、ちゃんちょっと失礼ってあたしのベッドに入ってきた。まあ小学生二人くらいなら普通に入れるベッドに友達がもぐりこんできて、小声で「お話しよっ」って顔を近づけてくる。委員長がこら。って言ったけど、でも友達は引き返す気はないみたい。
「それにしてもさ、ほんといい人だよねー」
「ん?」
「…佐藤君だよさとうくんっ」
寿ちゃんの名前が出てきた瞬間に、二段ベッドの上にいた友達が、「えっなになに?」って好奇心旺盛で反応した。また委員長がこら!って言ったけど、そんなのお構いナシだ。静かに騒ぎ立てないように友達が下りてくる。え、ちょ三人はさすがに入れないよ!?って思ったら、友達が二段ベッドの上から布団を持っておりてきて、両サイドのベッドの間(つまり真ん中)に寝転んだ。
「佐藤君がどうしたって?」
「ん、いやー…かっこいいよねって」
「え、ちょ…アンタ佐藤くん狙ってたの?」
「いや、狙ってはないけどさー。あれだけ優しいもん、かっこいいよなーって」
あたしを置いて、話が進んでゆく。口が挟めなくって、今日の登山のときの会話のようだって思った。
「ぽかんってしてるけど、ちゃんに言ってるんだからね?」
「え、あたし?」
「うんうん。良いよね、佐藤君みたいな幼馴染」
「なかなか出来ないよ?肝試し幼馴染が一人でかわいそうだからって代わったり、」
「さっきだってちゃんがいないって委員長が言いに言ったら、僕も探すって率先してだもん」
そういわれたら、ほんと、良い幼馴染持ったなと思う。そのせいであたしのほうが成長しないかもしれないんだけどこの際それは心の隅においといて。「そ…だね」だからモテるんだよ。って隣に寝転んでる友達が言った。
「うんうん、今日の肝試しで更に佐藤くんに惚れちゃったって子いるもん」
「誰にも優しいしねー」
ちくん、また、だ。何故かまた胸が痛くなった。今は別に早紀ちゃんの話してるわけじゃないのに。胸を無意識に押さえると、ちゃん聞いてる?って顔を覗きこまれた。
「えっ?ごめん、えと何?」
「君の寿ちゃんから付き合おうみたいな話でないのって話」
こく、はく?え、ええええ!!気づいて大声で叫びそうになって、突然口を両手で覆われた。「わわ!見回りの先生来ちゃうよ!」慌てて押さえつけられて、叫び声を飲み込んだあたしは、小声でごめんって謝る。でもだって驚かしたのはそっちだ。「な、なんでそんな話になるの」顔が熱いのは自分には無縁だって思ってた恋の話を振られたからだ。ごまかす様に言ったら、友達同士で見詰め合って、二人の目があたしに集中する。
「さっきも言ったけど佐藤くんって誰にでも優しいけど、でもちゃんには特別優しいよねって」
「うん、あれは幼馴染って域を超えてるよ」
「悔しいけど、なんかもう佐藤君のとなりにはちゃんって言うのがしっくりきてるし」
「そ、そんなことないよ」
「そんなことあるよ。隣にちゃんがいるから告白できないって子、いるんだよ?」
また、初耳だ。そ、そうだったんだ…。だからあたしには佐藤君のこと好きなのみたいな話一切入ってこなかったんだとこのとき初めて知った。てことは、じゃあもうずっと前から寿ちゃんってモテてたの?いったいいつから。考えてると、それを中断するように「で」って返答を期待される声。
「え?」
「結婚のご予定は?」
「け、結婚って…っ」
「えーだって良いと思うけど。佐藤。響きも変じゃないし」
これは、からかわれてるんだ、よね。そう思って「やめてよ、そんなのっ」ってテレ隠しで枕で顔を隠した。顔がすっごく熱くなってたから、ひんやりとした枕がちょうどいい。あらあら?って上から友達が面白そうに言ったけど、反応なんて出来ないでいた。ら。
「まだおきてるのは誰ですか!」
って、先生が部屋に入ってきて、(とっさに友達はあたしの布団にもぐりこんだ)慌てて目をつぶってその場をやり過ごした。結局それから友達二人は二階で寝ると上手く話が出来ないとかなんとかで上には上がらなかった。ずっと小声で喋ってた。その内容はもう寿ちゃんとあたしではなくなっててちょっとほっとした。本気で寝ようってなったのは誰ちゃんが誰君を好きだとか、誰さんが今日の夜誰君に告白してたとかそういう情報を聞いた、十二時過ぎ。
シンと静まり返った部屋で、なんだかあたし一人だけドキドキして、眠れなかった。そんなこんなであたしが寝入ったのはそれからずいぶん経ってからのことで、次の日、委員長の甲高い声で目が覚めることになる。
2009/01/08
アプリコットトーク=甘い話=恋バナ!みたいな感じで。修学旅行とかお泊りイベントって『枕投げ』か『ガールズトーク(恋バナ)』か『男の子の部屋に遊びに行く』くらいしか思い出にないです(…)