ノストラダムスの大予言!




その日、事件が起きた。



「寿ちゃん!大変、大変、大変なのーーーー!!」

随分と早い時間に、突然の来訪者。僕の事を『寿ちゃん』なんて呼ぶ子、一人しかいない。バン!!と力強く開け放たれた自室に、何の躊躇もなしに入り込んできたのは―――僕の想像していた通り、幼馴染のだった。修学旅行後のあの事件から何とかと仲直りした日から、また当たり前の日常が返ってくる。僕はとりあえず布団からのそりと身体を起こすと、ひとつ欠伸をしていまだ興奮冷めやらぬ彼女を見つめた。…急いで来たんだろう。思いっきり呼吸も髪も乱れていたけれど、にとってはそんなのどうでも良い事みたいだった。座りこんでるせいでを見上げる形になっている僕の目の前に「大変なんだよっっっ!!」とさっきも散々言った言葉を何度も繰り返す。それから僕の目の前にちょこんと座りこんで、すっごい真面目な顔をして

「もう、あと数日で、この世が無くなっちゃうんだよ!!」

………………。

「ええっと…?」

こういう事を、昔から突然言い始める子だとは思ってはいたけれど、最近はぱったりきかなくなってたから、言葉がとっさに出てこなかった。はそんな僕をどうとらえたのか「寿ちゃんも、やっぱりショックだよね!でもあたし見たの!」って、言いながら、肩にかけていたカバンから一冊の雑誌を取り出して、それから付箋の付いているページを即座に開くと、ココ見て、ココ!ってやっぱり興奮したように僕にそれを見せた。

「…ノストラダムスの予言…?」
「そーだよ!ノストラダムスさんが、1999年の7月!地球は滅亡するって言ったんだって!そして、1999年って言えば、今年!そんでもって7月なんて、あと数日で来ちゃうよ!…世界滅亡までのカウントダウンが始まってるんだよ!」

は早口でまくし立てると(早口、得意じゃない癖に)凄く辛そうに眉根を寄せた。そんな顔、しなくてもいいと思うのに。でも一体何故急にノストラダムスの大予言の事で騒いでるんだろう、結構前からテレビとかで騒がれていたような気がするけど。ぼんやりと考えていると、はしゅん、としてぽつりぽつりと喋り始めた。

「あたし、やだよ。まだ、チキュウメツボウしてほしくない…」

は良くも悪くも純粋だから、この大げさすぎる記事を完璧に信じてしまっているらしかった。だからこそ安易に"こんなの出まかせだよ"なんて言えない。だって、未来の事なんてまだ誰もわからない。もしかしたら本当に予言通りに7月に滅亡してしまうかもしれないんだから。どうやってこの場を励ましてあげれば良いんだろうと考えていると、がまたぽつりと呟く。

「だって、せっかく…寿ちゃんと仲直り出来たのに」

の何気ない一言は、僕の頭をショートさせるには簡単だった。だって、そんな答え予想してなかった。きっとの事だから、もっと遊びたいとか、もっと楽しい事したいとか、そう言う事言うって思っていたから。俯いたままのをじっと見つめる。そこにはうっすらと涙が浮かんでいて、ああ、そんなことで泣かなくて良いのに。とか思うのにそれだけの中の僕は大きい存在なのかなとか自惚れてるってわかっていても、ちょっとだけ嬉しくなってしまう。

……本気では悲しんでるのに、それが嬉しいと思うなんて、僕、さいていだ



泣きそうになっているの頭をそっとなでる。そうすればはゆっくりと僕の顔を見つめた。いつもと違うか細い声が僕の名を呼ぶ。それさえも、ああ好きだななんて思ってしまったりして。でもの僕への"好き"は決して僕のに対する"好き"と余りにも違っているから。僕は何だか見つめられている事に耐えきれなくなって、そっと視線をずらす。「大丈夫、だよ」呟いたセリフは、安易すぎる言葉だった。何の信憑性もない。こんな言葉、言えないとか思ってたくせに結局出てくる言葉はこんな安っぽい言葉なんだ。そう思ったら自分は凄く無力な人間で、余計にの顔が見られなかった。

「…ぷっ」

そしたら、急に、の方から笑い声が聞こえて来て、バっと見つめるとが目にいっぱい涙をためながら「不思議だね」なんて言う。どういう意味なのか、考えていると

「…寿ちゃんに"大丈夫"って言われると、なんか安心する」
「……」
「寿ちゃんの言葉はね、あたしにとって魔法なの」

魔法、なんて。小学校六年にもなって、何言ってるんだよ。とか思うのに、それを臆面もなく言えてしまうから、に僕はきっとずっと敵わない。僕にないものを持っているようで、だからきっと惹かれるんだろう。「だからね、……あのね、寿ちゃんが嫌じゃなかったらね?」ぽつりぽつりと紡がれる言の葉が、僕に少しの期待を持たせる。

「地球最後の日は、あたし寿ちゃんと一緒にいたいなーって」
「っ」
「きっと、寿ちゃんといたら、大丈夫な気がするし。もし、ほんとに最後だとしても、寿ちゃんが隣にいてくれるなら、良いなって、思うから」

「なんてね」とは薄く笑った。ちょっとだけ頬が赤く感じるのは、僕の気の所為じゃないと良い。へへへ、と頬を掻くを見つめて―――

「やっぱ、最後の日まで幼馴染のお守はヤ?」

何も答えない僕を不安に思ったのか、さっきの照れ笑いはどこへやら。一瞬のうちに不安そうな顔が僕を覗きこむ。もう、そのひとつひとつの仕草にドキドキしちゃう僕は、どっかおかしいんじゃないだろうか。それほどまでにもの事好きだと思っているのに、でもどうしても本音が言えなくて。

「しょうがないから、一緒にいてあげるよ」

バカみたいな事しか言えないんだ。それでもは僕のそんな天の邪鬼なセリフに出さえ嬉しそうに笑うから、―――だからきっと、これからも僕はには勝てないんだと思う。くしゃりと笑ったら、もふわりと笑って、「約束ね!」と僕の小指に自分の小指を絡ませた。

地球滅亡の日まで、あと少し。だけど、予感がする。
きっとそれが外れでも当たっていても、隣にがいてくれるなら、僕はずっと笑顔で居られるって事。





 





2010/01/08

ノストラダムスの大予言ーー!って、流行りましたよね!てか最近の小学生は、もしや知らない…?それどころか中学生も知らないのか、しら!うあーーもしそうならマジジェネレーションギャップ!ええっと、ほんとは1999年とか年数がわかるような話を入れたくはなかったんですけど(寿也達の生まれが曖昧だからw)ノストラダムスの話をこの前ちらりと友達と話してたら、なんか無性に書きたくなったのデス!みんな知らなくても良い!どうせ俺ワールド全開のM&Tですからね!