「もしかしてそれ、僕への誕生日プレゼント?」
…ビンゴ、だ。
そう思ったのが顔に出たのか、寿ちゃんがふわりと笑うのがわかった。それから、「頂戴」って言葉も。でも素直にそれを渡せない。だって、寿ちゃんの手には立派なプレゼント。かたやあたしのプレゼントは―――ただの手作りのそれ。ご利益もあったもんじゃない。ただひたすらに黙っていると、寿ちゃんがそっとあたしに近づいて、あたしの肩に頭をうずめた。どきっとして、寿ちゃんを呼ぶ声が裏返る。けれども寿ちゃんは気にしないとでも言うかのように、また「頂戴」なんて言うんだ。
「む、無理、だよ」
「なんで?」
「だ、だって…なんかあまりにも、しょぼすぎて…申し訳ない」
ぽつりぽつりと本音を話せば、寿ちゃんはそれが一体なんなんだろうって顔をしてあたしを見た。あまりの至近距離にドキドキしながら、あたしはそれを悟られないように「だ、だから明日ちゃんとしたの渡すから!もうちょっと待って!」見逃して!と早口で申し立てた。すると、寿ちゃんがそっとあたしから離れて、にこっと笑う。それから「知ってる?僕の誕生日だってこと」って、わざわざ口に出して言う。わかってるから、プレゼントを用意したって言うのに。むしろその話を今リアルに話しているって言うのに、何言ってるんだろうって寿ちゃんを見上げると
「誕生日って、その日自分が一番偉くなる日って、前僕に言ったよね?だから、今日は僕が一番偉い日」
それは数年前、あたしの誕生日に寿ちゃんに言った一言だった。思い当るセリフに黙りこくると、寿ちゃんはやっぱり笑顔で
「わかる?今日のは僕の言う事聞かなくっちゃ。だから、無理ってのお願いは聞けないかな?…それに僕は後日のプレゼントよりも、今君の持ってるそれがほしい」
だから頂戴?と三度目の頂戴。疑問形のくせに全然拒否権がないんだから、あたしは困り果ててしまった。それでもあたしは納得できなくてどうにかこの状況を打破できないかなんて考えていたけれど、悲しきかな、あたしの小さな脳みそでは許容をオーバーしてしまったらしい。結局良い案が出ないまま、あたしは断念して、後ろに回したそれを寿ちゃんの前に手渡した。そしたら、にって笑いながら、それを受け取る。
「…しょ、しょぼいって思ったでしょ!」
「いいや。らしいなって思っただけ」
それって軽くけなされてるんだろうか。あたしだからこんな幼稚なことしか出来ないだろうなって、思ってるってことなんだろうか。そう思うとなんかもう色々みじめ。本当はすっごく美味しいケーキを手渡す予定だった、のに。ほんと、情けない。「ごめん、ね」ついて出てきた言葉は小さな謝罪。すると寿ちゃんは何が?ってほんとうに分かってないって顔をしてあたしを見る。
「だって…あたしの誕生日にはあんなに素敵なプレゼント、くれたのに…あたしからのプレゼントがそんな…手作りのお守り、なんて」
ほんと、全然ご利益のないお守りだ。こんなの幼稚園児でも作れちゃうから、さらに情けない。しゅん、と項垂れてしまうと、寿ちゃんがくすって笑って、それからぽんぽんとあたしの頭を撫でた。
「なんで?は一生懸命作ってくれたんだろ?…夜更かしまでして、こんなクマまで作って。僕への誕生日プレゼント、必死に考えてくれたんだろ?」
寿ちゃんの声に、それは確かにそうだって頷いたけれど、でもやっぱり目の前の可愛らしいラッピングを見ると、どうもかすんでしまう。
「それだけで、ほんと十分だよ。…僕にとっては素敵なプレゼント」
「…そんな、お守りが?」
ご利益ないよ。もしかしたら、あたしの気持ちがから回って、高校滑っちゃったりするかもしれないよ。プロ野球選手とかなれなくなっちゃうかもしれないよ。そう思ったけど、寿ちゃんはやっぱり笑顔のままで、あたしの髪をさらりと撫でながら
「だってこのお守りは、が僕だけの為に、僕だけの事を想って、作ってくれた、世界でたった一つだけのお守りでしょ?」
なんて、こっ恥ずかしいセリフ!とか思ったけど、我が友中プリンスは涼しい顔して言い放つから、あたしは何も言えなかった。ううん、違う。ただ、嬉しくって胸がいっぱいになったんだ。そっと寿ちゃんを見つめると、寿ちゃんはまるで慈しむようにあたしのあげたお守りを見つめている。
「別にお姉ちゃんが器用じゃないことくらい寿也君も長年の経験からわかってるんじゃん?だったらあれを一生懸命作ってくれたんだって、きっと寿也君は喜んでくれると思うよ」
不意に昨日の妹のセリフを思い出した。ああ、ほんとに喜んでくれてる。そこで、ようやくあたしの気持ちが軽くなる。もやもやがすうっと晴れていく想いがした。そうしたら、寿ちゃんがあたしを見て、「ああ、やっと笑ってくれた」ってまるで自分の事のように笑うから、―――ぽかぽかと胸の方があったかくなるのがわかった。
「さ、ほらもう帰ろう。それで、うちでの作ったケーキ食べよう?」
「え!なんで!?」
「だって作ってくれたんでしょう?昨日遅くまでかかって、ちょっと形が悲惨になっちゃったケーキ」
せっかくだからそれも食べたいな。なんて言いながらあたしの眼もとをさするから、ああもう絶対犯人は妹だ!って、あたしの頭の中で確信する(だって、何気に二人は仲が良い!)でも、怒る気になったのは一瞬で、きっとあたしがあまりにも落ち込んでいたから心配してくれたんだろうって、思い直して、あたしは
「しょーがないなぁ。じゃあ、今日寿ちゃん家にもってくね?」
にって笑ったら、寿ちゃんがよろしくってやっぱり嬉しそうに言ってくれるから、ああもうほんと大好きだって気付く。それからあたしの手を引いて、ほら、帰ろうって促す寿ちゃん。そんな寿ちゃんにはっと気付いて、ああもう一番大切な事言ってないじゃんって思って
「寿ちゃん!」
ぎゅって寿ちゃんの手を握ったら、そっとあたしに振り向いてくれる。その顔に、今日一番の笑顔で
「お誕生日、おめでとう!!」
言ったら、やっぱり寿ちゃんは嬉しそうに笑ってありがとうって言ってくれるんだ。
2009/11/09
書いたのに、upするの忘れてたというわな。一体何月だ。(up日12月25日って!)あまりにも遅れてしまったので、更新履歴に書かずにこっそりup(笑))ハピバースデー!