九歳になっても僕はずっと野球が好きだった。吾郎くんに出会ったあの頃よりももっともっと好きになって、練習を惜しみなく続けてたら、母さんが「やるならちゃんとしたところでやりなさい」と、僕にリトル入団を勧めてきた。
そっか、リトルリーグって九歳からだもんね。貰った紙には横浜リトルの練習場の地図。
嬉しくって、その日は眠れなかった。とりあえず今度の日曜にでも行ってみなさいって言われて、まだ二日あるじゃん。って思うと、うずうずした。
次の日は土曜日だったから、お昼までで学校は終わった。そしたら僕の向かう先は決まってる。あの河川敷。
六歳の頃、一人でボール投げをしてたときにに声をかけられて以来、ずっと僕らはここでキャッチボールをするのが日課になってた。今日は僕は日直だったからもしかしたらもうは来てるかもしれない。スポーツバックを担ぎなおして、ランニングがてら走って河川敷に着くと、僕の予想は当たってて、一人で壁投げをしてるの姿があった。僕の作った手作り的めがけて放ったの球がストライクゾーンにあたる。あ、でもあれじゃあ
「ホームラン!」
場外ホームランです。と近づきながら言ったら、がようやく僕に気づいたようだった。大きな瞳を瞬きさせて、「むう」って頬を膨らませて…拗ねてる顔だ。「絶好のホームランボールだったね」って追い討ちをかければ、わかってるもん!ってちょっと怒った声が返ってきて、負けず嫌いは相変わらずだって苦笑した。それから僕はこの機嫌を損ねてしまったお姫様にご機嫌取りをするように、スポーツバックからポカリスエットを取り出して、「はい」って投げた。
「わたた!」
言いながら、ナイスキャッチしたが、一度スポーツ飲料を見てから、にこっと笑った。さっきまで怒ってた(てゆうより拗ねてた?)のに、もう無邪気に笑って「ノドカラカラだったの!」なんてドリンクをおいしそうに飲んでるから、ほんとコロコロ表情の変わる子だなって思う。
「プハー!さ!水分補給も終わったところで、じゃあ寿ちゃんキャッチボールキャッチボール!」
うきうきと言った風に喋りだすにでも今日はちょっと違う提案を持ちかける。「それも良いんだけど、今日はちょっと違うところ行こう。お金持ってきてるでしょ?」って前もって言ってた事を話題に出せばきょとん?と小首をかしげながら「確かに、寿ちゃんに言われたから持ってきたけど」と。それからオウム返しで「違うところ?」と繰り返すに僕はこくりと頷いて、歩き出した。
「ねえ、ねえ、どこ行くの?」
「面白いところ」
「面白いところって?」
慌ててランドセルを持って僕の隣に走ってくるに「内緒」って意地悪く言ったら、寿ちゃんっていっつもそうだってまた拗ねる。そのままにすることは出来ないからとりあえずヒントをひとつ掲げてみた。
「でも、がやりたがってたことが出来るところだよ」
そう言ったら、拗ねた顔からまた不思議そうな表情に変化して。それから後、「つまんなかったらやだからね?」ってちょっと口を尖らせながら、僕の手をぎゅって握ってきた。手を繋ぐ行為って言うありふれた行為がだんだん恥ずかしくなってくる年頃のはずなのに、それなのには今だって普通に繋いでしまうからちょっとびっくりする。…僕だけが、多分ドキドキしてるんだ(それは僕がおかしいのか、が普通と違うからなのか)
★★★
「こ、ここ」
建物の前で立ち止まるが、看板を見てからようやくさっきの言葉を発したのは結構時間が経ってからだった。『バッティングセンター』と記された建物をパチパチと何度も瞬きしながら食い入るように見てるがおかしくって小さく笑ってしまった。普段なら笑ったら怒るのに、今はそんなことにも気づかないみたいで。でもここでぼんやりするためにきたわけじゃないから、ほら行くよ?って未だつながれたままの手を引っ張ると「うんっ」って頷くの声を確認してそのまま自動ドアをくぐった。受付のおじさんはいつものおじさんで「おお、寿也。今日は女の子連れかい」なんて茶化されたから、幼馴染だよって紹介してあげた。ちょっと緊張してるみたいでが僕の手をぎゅっと強く握った。ちらっとを見ると、はにかんだ笑みを浮かべて、ちょっとしおらしく挨拶する。
挨拶もそこそこに僕らは歩き出した。は初めてだから初級者だよな。と一人ごちていると、気後れしたが手を繋いでないほうの手で僕の服をくいくい引っ張った。
「なに?」
「と、寿ちゃんここの常連さんなの?」
「え…うーん、まあ何度かは」
「なんであたし誘ってくれないの!」
むうってぶー垂れるに親につれてきてもらってたりしてたからと言い訳をしたけど、本当のところは違っていたけど。それでもその言い訳では納得したみたいだった。
「ほら、とりあえずここで打ってみなよ」
「あ、うん」
「メットかぶって、バット用意してからじゃないとお金入れちゃダメだからね」
「わ、わかった」
準備万端になって、お金を投入したら、ボールが正面からボンっとこっちに飛んできて、ひや!って声とともにがバットを振った。でもそんなへっぴり腰じゃあ当たるわけもなく、空振りに終わる。ちゃんとボール見て、吸い寄せて振るんだよとアドバイスすれば、素直に頷く。何度目か空振りが続いた後、ヒットを打った。やっぱりは飲み込みが早い。
「寿ちゃん、やった!」
「うん、上手い上手い!」
大はしゃぎするを見て、つれてきて良かったって思った。
2009/01/06
タイトルはお題サイト【ロメア】さまからお借りしました。リンクはM&Tのトップにて貼ってあります。