君に告げなかった秘密




あれから暫く経って、じゃあそろそろ帰ろうかって話になった僕らは、受付のおじさんに挨拶をしてバッティングセンターを後にした。あの後はいい感じでヒットを繰り返して、「じゃあどっちが多くホームラン打つか競争ね!」って勝負が始まって(と言ってもが無理やり言ってきただけなんだけど)
結果は

「…むぅ」
「機嫌直して、

彼女の様子を見る限りでわかりきってるが、僕の勝ち。てゆうかだって、経験の差が違うんだって。を宥めるように言うと、はわかってるけどぉ…ってそれでも腑に落ちてないかんじ。本当に負けず嫌いなんだなーって思って、でもとりあえず機嫌を直してもらわなくちゃ困るわけで。ふう、ってため息をついて、スポーツバックからの好きなチュッパチャップスを差し出した。

「…イチゴ味、すきでしょ?」

目の前でちらつかせると、は苦々しい顔をしてから、ちっちゃな声で「ありがと」って言ってアメを受け取ってくれた。それを静かにあけて、口の中に入れた後、コロコロ転がして、「あーあ」って。

「寿ちゃんって何でも持ってるね」
「そんなことはないよ」
「あるよー。だって今日はポカリも貰ったし、この前だってチュッパチャップス貰った気がする」

指折りで数えながらあのときもこのときもと言い出すを横目に、僕はただ笑うだけしか返さなかった。そしたらへらってがようやく笑って「寿ちゃんのカバンは四次元ポケットだね」なんて言うから、「チュッパチャップスかドリンクしか出てこないけどね」って冗談交じりで答えて見せた。まあ、本気なんだけど。
それから、ようやく機嫌の直ったが僕の手をいつものように握って

「あーあ、でも寿ちゃんほんと上手だったー」
「でもは初めてであれだけ打てたらすごいよ」
「褒められても嬉しくなーいっ。もう、寿ちゃんってばなんでも出来ちゃうから悔しいなー。勝てないもん」

ぶーぶーって一人ブーイングをしながら、「大体一緒に連れてってくれたら良かったのにぃ」繋いだ手をぶんぶん前後に振るから、自然と僕の手も同じように振られた。ちぇって言うを笑ってみてたけど、僕は心の中で違うことを考えていた。

そんなの、ムリに決まってるじゃない。一緒に来てたら今日わざわざ内緒でつれてきた意味がなくなってしまう。に教えるためにわざわざ一人で練習してきてようやくさまになって、これなら普通に教えられるかもって思えたから連れて来たのに。ヘタなところ見せたくなかった。って言うのが本音だけどそれは黙っておくことにする。

「またバッティングセンター行こうね!」

にっこりと笑うにうんって頷いて。でも無駄遣いしないようにしなくっちゃねって忠告も忘れない。



明日の横浜リトル入団テストのことは、には黙っておくことにしよう。だってもし受からなかったらかっこ悪いし。で、受かったらちゃんとに言おう。多分彼女はなんでそんな大事なこと黙ってたの!って怒るだろうけど…その時にはやっぱりの好きなチュッパチャップスを持って、ご機嫌取りも忘れずに。

今日の成果を楽しそうに話すの笑顔とは別に、僕は明日のことを考えるとわくわくして別の意味で笑ってしまった。



そして、後に僕は横浜リトルに見事入団決定して、に報告しに行くと少しふてくされた後、やっぱりあの花のような笑顔で笑って『おめでとう!』って喜んでくれるの姿があった。





 





2009/01/06
タイトルはお題サイト【ロメア】さまからお借りしました。リンクはM&Tのトップにて貼ってあります。