「…もう、吾郎君と仲良くなったの?」
「え?」
寿ちゃんが迎えに来てくれて、あたしと寿ちゃんは自分のうちに帰るために歩いていた。どうやら監督にあたしが三船に行ってるんじゃないかって聞いて、早びけしてくれたみたいで。なんか悪いなーって思ってたけど、寿ちゃんは気にしなくって良いよって笑ってたから、あたしも気にしないで、ごろう君の話をしてたのだ。寿ちゃんの言う通り、ごろう君って素敵な人だったね!って。そしたら、今のセリフ。あれ?ちょっと不機嫌?不思議に思って寿ちゃんの名前を呼ぶと、ちょっとぶすってした顔。「そんな顔したらぶちゃいくになっちゃうよ?」って茶化したけど、表情が変わらなくって…えっと…こうゆう場合どうすれば良いんだろうって寿ちゃんの顔いろをうかがう。
「まあ、別にが誰と仲良くなろうと僕に何か言う義理はないんだけどね」
なんか、つっけんどんっていうか、淋しい事言わないでよ!って不安になったけど、寿ちゃんの顔をみたら、なんかそれって怒ってるっていうよりも…なんていうか、ね?「拗ねてる?」って感じ、で。思わず聞いてしまったら、寿ちゃんの顔がちょっと紅くなるのがわかった。え、ほんとに拗ねてるの!?自分の考えがドンピシャで思わず笑ってしまった。
「寿ちゃん、かわいーっ」
言いながら、寿ちゃんの腕にからみついて、寿ちゃんの顔を見上げる。「ちょ、!?」そしたら、真っ赤な顔の寿ちゃんの顔がばっちり見えて、「安心して!」ってニって笑う。
「心配しなくっても、友達第二号の座は捨てないよっ?」
ニって笑ったら、寿ちゃんはポカンってして、それから…思いだしたみたい。それは、六歳の寿ちゃんと出会った時の出来事。一人で野球をしてる寿ちゃんに、言ったセリフ。『じゃああたしがお友だち第二号になったげる!』そう、言ったのだ。ニカって笑ったままのあたしに、寿ちゃんはさっきまでポカン顔してたけどすぐに元の顔に戻して、それから、「そういう意味じゃなかったんだけど…」って小さな声で呟いた。
「ん?どういうこと?」
「…なんでもないよ」
あれ?拗ねてた理由違った?そう聞いたけど、寿ちゃんはそれ以上答えてくれなかった。絡めてたままの寿ちゃんの腕をぐいぐい引っ張ったけど、それでも完全に「なんでもない」って繰り返す寿ちゃん。こうなった寿ちゃんは頑固だ。絶対教えてくれないってわかってるから、あたしも諦めかけたとき、寿ちゃんがまたちっちゃな声であたしの名前を呼んで、「ところで」って
「…腕、離して」
「え?これ?」
寿ちゃんの視線を追って、寿ちゃんの腕を見つめる。いまだにあたしの両手で抱きしめたままの腕を。小首をかしげると寿ちゃんは困ったように顔をそむけて、「うん」って頷く。「え、嫌?」そう聞いたら寿ちゃんはまた困ったように眉毛を下げてごにょごにょと否定するけど、でも明らかにセリフと表情があってない。
「……いや、あの…ほんとに嫌じゃないけど」
じっと黙って見てたら寿ちゃんが慌てて弁解。ぶーってあたしがふくれっ面なあたしをあやす寿ちゃん。ちょっと面白くって、すぐにプって笑って、更に寿ちゃんの腕をぎゅうって抱きしめた。「ちょ、!?」さっきのセリフ。でもさっきよりも大きな声。ビックリしてる寿ちゃんにまたにって笑って「いーじゃん!」って寿ちゃんの言葉を止める。
「スキンシップだよ、スキンシップ!イヤじゃないって、寿ちゃんさっき言ったよね?」
「い、言ったけど」
「てゆうか寿ちゃんって昔からこうゆうの苦手だよね?愛情表現なのにー」
「………愛情表現って…」
「そうだよ?まあ、こんなことするのは家族と寿ちゃんくらいだけどね!」
カァ、って寿ちゃんの顔が面白いくらいに紅くなる。あ、テレてるって言ったら寿ちゃんが照れてないってあたしが掴んでない右の腕で顔を覆ってしまった。それからあたしの居る方の反対を向いてしまう。それでも耳や首まで真っ赤だから、照れ隠しなんだって良く分かる。あたしにはお兄ちゃんがいるけど、お兄ちゃんはこんな反応しないからちょっと新鮮だ。おんなじ男子でもやっぱり寿ちゃんとお兄ちゃんは違うって気付く。
「とーにーかーく!イヤじゃないって言ったのは寿ちゃんだから、観念しなさいっ」
ぎゅうって離れないように抱きしめると、寿ちゃんは顔に手をあてたまま「全くは…」って諦めたみたいだった。
困った顔しながらも結局最後は許してくれるから、完璧に嫌って言わないから、どうしても甘えてしまうんだ。寿ちゃんの真っ赤な顔を見てまた無意識に笑って歩き出す。
「…でもこうやって歩いてる人達見るけど、歩きにくいよね、これって」
「……だったら離せば良いのに」
「だって、寿ちゃんが拗ねるからー」
「……てゆうか、…こんなにピッタリくっついてる人達はいないと思うよ」
2009/02/22
てことで、ごろー君と絡みのシーンその後の話。ヤキモチとっしー。