MOI et TOI

愛と恋の副作用




最高学年になった。小学校六年生、ついに小学校も後一年。全然実感なんてない。五年生の頃からほとんど変わらない身長、顔つきだって変わらない。年齢だってまだ誕生日が来てないから11歳のまんま。年の話を言ったら四年生から五年生のときも似たようなものだけど。でも、実感わかない。来年には、中学生、とか。とりあえず変わったって言えば、登校時間が早くなったくらい(早く行ったら友達と多くおしゃべりが出来て、結構楽しい)
でもだからってほんとそれくらいで何も変わったことなんてない。まあそう思うのは無理もなくて、だってまだ五月だ。(ん?もう、なのかな)クラスだって変わらないまま上に上がったから、ほとんど実感がないままなのは仕方ないことかなって思った。洋服のボタンを留めながら鏡の前で確認して、うん、変なところは無い。
ただ、ちょっと変わったといえば、周りの子達がおしゃれになったってこと。それで、あたしもなんとなく意識するようになった。前は可愛いフリルのスカートよりも断然動きやすいジーパンやキュロットなんかの方が好きだったけど、でも周りが可愛いかっこしてるから、なんとなくあたしもしてみたくって、今日はおニューのフリフリスカート。くるりとその場を回ったらフワフワってスカートが揺れた。それだけでなんだか嬉しくなる。

ーごはーん!」

体操着とカバンを持って、あたしはママのところに行った。





「え、あ、寿ちゃん?」
「おはよ
「あ、おはよ!あれ?今日は朝のジョギングは?」
「日直だから、やめとくんだ」

家を出ると、丁度寿ちゃんがあたしを待ってた。だから今日は一緒に行こうかと思って、って玄関の前で待っててくれた寿ちゃん。今インターホン鳴らそうかと思ってたところなんだ。って。それならそうと昨日のうちに言ってくれればよかったのに、ってちょっと不機嫌な感じで言ってみた。だってそしたらちょっとでも待たせることなかったし。そしたらごめんごめんって寿ちゃんがふんわり笑った。それから行こうってお互いに歩き出す…前に、そうだっ!って寿ちゃんの前に出て、スカートをちょんってつまんでくるりと回って見せた。「どーお?」って寿ちゃんににこって笑って言うと、寿ちゃんがクスクスって笑ってから、

「うん、に似合う」
「ほんと?」
「本当本当。可愛い可愛い」

何か子ども扱いのような気がしないでもないけど(同い年なのに!)褒められたことが嬉しかったので文句言わずお礼だけにしておいた。こんなことでブーブー言ったらそれこそガキみたいに思われちゃうもんね。それからほんとに歩き出して、昨日出た宿題やってきた?とかそういう話を振られて、何とかってそれに返したりして、あたしからもちょっとした疑問をぶつけてみることにした。

「そういえば、日直って誰と?」

「ん?」寿ちゃんはそう言ったあと、ああ、って頷いて「柏木さんと」って言った。柏木さんその言葉に少なからずあたしは動揺してしまった。だって、柏木さんって、早紀ちゃんの名前だ。「そうなんだ」とっさに切り替えしたけど、あたしの頭の中はもう早紀ちゃんのことでいっぱいだった。

柏木早紀ちゃん、去年の九月に寿ちゃんにラブレターを渡してくれと頼んできた女の子。もちろん頼まれた手紙は寿ちゃんに渡した。でも後日、寿ちゃんは早紀ちゃんをフッちゃったのだ。役に立てなかったことと、明らかに元気のない早紀ちゃんをみて、なんだか気まずくなってしまって(と言ってもあたしが一方的にだけど)そんな中行われた合宿。あの時、色々あって…あれから、あんまり早紀ちゃんと話してない。

肝試しが終わった夜、お風呂から出てきたとき、ちょうど早紀ちゃんがいたから「ごめん!」って謝ったし、早紀ちゃんもちゃんが悪いわけじゃないよ、気にしないでって言ってくれた、けど。でも気にしないわけにはいかなかった。だって笑ってたけど無理してるってわかったから。それ以来、同じクラスだから毎日挨拶はするし、友達の間に早紀ちゃんがいれば一緒にいるけど…でもあたしからも早紀ちゃんからも積極的に話をしたりって言うのは無かった。…ラブレター事件の前もこんな感じだったけど、でも、なんかちょっと気まずい。あれから小学校六年にあがって、もちろんクラス替えなんかなかったから、早紀ちゃんも同じクラスだ。どうにかしなくっちゃって思ってはいるんだけど、あたしに出来ることは何にもないわけで。

!」

考え事をしてる最中、突然寿ちゃんに名前を呼ばれて「え!」って声を出した。見上げると(あれからちょっと寿ちゃん身長伸びたみたい。って言ってもあんまり身長差はないけど)「危ないよ」ってぐいって腕を引っ張られた。ええって思う間なんてなくって、寿ちゃんの方に引き寄せられる。「わわ」って無意識に声が出ちゃったけど、寿ちゃんはお構いなしだ。「電柱と頭突きでもしたかったの?」って意地悪な質問。そこでようやくぶつかりそうになってたのを助けてもらったことに気づいた。でも最近の寿ちゃんは、前より意地悪な質問が増えた気がする。(前もたまーにあった、けど)

「む、…そんなのしたいわけないじゃん」

睨むと、軽く笑われて、だったらもうちょっと集中してあるこうね。ってばっさり切られた。…一枚も二枚も上手だ。口で勝てた試しなんて一度だって無い。納得がいかなかったけど、でもそれが正しい事だってわかってるから「はぁい」って間延びした返事で返した(ちょっとした、抵抗だ)





 





2009/01/08

早紀ちゃんと色々って言うのは詳しくは【『幼馴染』って言う言い訳】を見てください。
補足:ジーンズを『ジーパン』と明記したのは、多分この頃の世代は『ジーンズ』なんて言い方をしてなかったからです。(確か)少なくともあたしはそんなシャレた呼び方してなかった!(笑)長ズボンにしようかと思ったけどでもそれはさすがになーって思って『ジーパン』『ジーンズパンツ』の略語ですよ(念のため)