恋愛Jigsaw Puzzle
それからしばらくしてからもあたしと寿ちゃんは仲直りする事が出来なかった。全然会話をしない日々。そんなあたし達を見て、早紀ちゃんの友達は「二人ほんとに幼馴染だったんだね!信じるよ!疑ってごめん!」って謝ってきた。…ほんとに寿ちゃんとは幼馴染の関係なんだ、ってちゃんと証明できたはずなのに、あたしは全然嬉しくなんてない。だって、もう、幼馴染でもないもん。それが凄く泣きそうなくらい悲しいのに、それでも二人に対して無理やり「わかってくれたら良いよ!」って笑って言った自分はほんとバカ。それでもやっぱり誰かにこれ以上嫌われるのが怖かった。弱虫め。
★★★
それからまた数日経って、あたしは寿ちゃんが引っ越したんだと言う事を知った。と言っても、学校は変わってない。ただ、寿ちゃんとあたしの仲があまり良くいってないと思った担任の先生が、こっそりあたしを職員室に呼んだのだ(それくらい、あたしは寿ちゃんにべったりだったのかな)金八先生のような熱血教師な担任(女だから金八先生って失礼なのかな?とも思うけど、でもほんとそんな感じ)はあたしの心配をしているときに、言うつもりはなかったけれど口が滑ったって感じで、「佐藤君も親がいなくなって大変だから…」って、言ったんだ。
え?
その気持ちはばっちり顔に出てたらしいし。すると先生は幼馴染のあたしにも言ってなかったのかってその時に気付いたみたいで、すぐにヤバって顔したけど、もう遅い。
「ど、どうゆうことですか!?」
「あ、いや…」
「寿ちゃん、親がいなくなったって…!」
「さん落ち着いて?ね?」
あたしはすぐに先生に詰め寄って続きを聞いた。落ち着いて、とあたしの肩をポンポンと先生は叩いてくれたけど、そんなのでもちろん落ち着けるわけないんだ。「はぐらかそうとしないで!」って先生をじっとみつめると、先生は更に困ったような顔をして「守秘義務がね」とぽそりと言った。でもシュヒギムだとか言ってるけど、最初に口を滑らした先生が圧倒的に悪いもん。引かないあたしを見て、先生が折れた。
「他の子達には内緒よ」と念を押して、教えてくれた、内容。
修学旅行から帰った寿ちゃんの家には、もうだれもいなかったんだって。
寿ちゃん家のパパの会社が倒産して、それで寿ちゃんを残して夜逃げしたんだって。
その内容は、あたしの想像をはるかに超える出来事で。
まるで、大人の見るようなドラマの何かのようで…現実味がない。でもそう思ったのはたった一瞬の事で、あたしははっと思い出してしまった。
修学旅行の次の日の事。ああ…だから、何度もインターホン押しても出てこなかったんだね。「今は、おじいさんとおばあさんの家でお世話になってるそうなの」…だから、次の日来れなかったんだね。きっと、引越しの準備してたんだね。そんなことも知らないで、あたしは自分の事ばっかりだった。自分の気持ちを寿ちゃんに押しつけることしか出来なくって、寿ちゃんに拒否されて、自分一人可哀想な気になってた。ほんとーのバカだね。なんで、ちょっとでも寿ちゃんの不自然さに気付かなかったんだろう。なんで、悲しい気持ちに気付いてあげられなかったんだろう。気付いたらあたしは飛び出してて、いつも練習してる横浜リトルのグラウンドまで向かってた。
けど、そこには、寿ちゃんの姿はなくって。キョロキョロ探したけれど、やっぱり見当たらない。だって、寿ちゃんは…キャッチャーのハズで。でも、どこにもそんな姿、見えなくて。…嫌な予感がする。この予感、寿ちゃんに会えなかったときに似てる。そう思ったらどんどん心の中がざわざわし始めて…そうしたら、監督があたしに気付いたみたいで、声をかけてくれた。
「あの!寿ちゃん、は?」
言ったら、監督が渋い顔してあたしを見た。「お前…知らないのか?」って。ああほらやっぱり。嫌な、予感が強くなる。
「…この前寿也が話に来た時に来ていたと清水から聞いたから知っているものだと思っていたが―――寿也なら……辞めたよ」
「…え」
にぎってた手が、汗ばんでる。喉がからからに乾いてる。でもこれは全力疾走したからとかじゃない、って頭のどこかで思った。辞めた?辞めたって…どういう意味?とっさの言葉に、ありえないセリフに理解が出来ない。ううん、理解することを頭が拒んでる、そんな感じだ。この前…があの時の事を指しているんだってすぐにわかる。ああ、あの時…様子がおかしかったのは、監督に辞めることを伝えた後だったからなんだね。それでも、どうしてリトルを辞めるのか、あたしには理解できなくて。
「なんで…?」
あたしの声は震えてた。「…」監督は言うか言わないか迷ってるみたいだった。「…寿ちゃんの、パパとママの所為?」震える声でそう言ったら、監督は驚いたような顔をして「それは知ってたのか」って言うから、あたしはコクンと頷いた。すると監督は大きなため息をひとつついて
「引きとめたんだがな。泣きながらもう野球は出来ないって言われちまったら、どうしようもない。…小六の子どもには辛い現実だろう。精神的ショックが大きいんだ」
「………………―――野球、辞めちゃう?」
監督が何を言ってるのか、わけがわかんない。だって、寿ちゃんはあんなに野球が好きで。こうこうせいになったら、こうしえん連れてってくれるって、いつかは…プロになるって、嬉しそうに言ってたんだよ。なのに、その寿ちゃんが、野球大好きな寿ちゃんが、野球止めるわけない。そんなの、信じれない。
「う、そだ」
「…辛いのはわかるが、本当の事だ」
「うそ、うそだよ!だって、寿ちゃん野球だいすきだもん!将来は野球選手になるんだもんっ、だから、絶対辞めるなんて…」
そう思ってるのに、なんでかな、涙がとまんないんだ。「」監督の大半は怖いハズの声が、すごく優しいのは、なんでだろ。ぽんぽん、って頭をなでる手が、なんでこんなにも優しいの。こんなことされたら、まるでほんとのことみたいじゃんっ
「それでもお前がいるから、佐藤は大丈夫だろうな」
そう言われて、はっとした。ち、がう。今、寿ちゃんは一人だ。信じてた家族に裏切られてそれで、……
「い、今寿ちゃんと話したくないの!だから、話しかけてこないで!」
「話しかけるな、って言われてたのにね。ごめんね」
それは、まだ修学旅行の時のことで、家族の事とか全く知らなかった時の事だとしても…あたしは、自分可愛さに寿ちゃんを拒んだ。…なんて、こと。だから、寿ちゃんは全てを諦めてしまったんだ。“家族”の事も、“野球”の事も、“幼馴染であるあたし”のことも。もうだれも信じられないって、思っちゃったんだ。辛かったはずなのに、まだ11歳の男の子なのに。誰にも相談、出来なかったんだ。全てを捨てるって決断させてしまったのには、あたしにも責任がある。あたしもカガイシャだ。もし、あたしが修学旅行の時、いつも通りにしてたなら、あんな態度とらなかったら、もしかしたら、話してくれてたかもしれないのに。寿ちゃんの力になれたかもしれないのに。
そう思ったけど、でも…例え、変わらなかったとしても、寿ちゃんはあたしに相談してくれただろうか。
だってあたしはいつも寿ちゃんにおんぶにだっこだったから。…いつも頼りになるからわかんなかった。だって寿ちゃんはあたしにとって、お兄ちゃんみたいな、そんな頼りがいのある存在だったから。だから、きっと大丈夫だって、寿ちゃんはきっと強いって。初めて会った時に比べたら全然強くなったって。だから心配ないんだって。あんなこと言ってもまた笑って許してくれるって思ってたんだ。でも、いくら大人っぽいからって、それでもあたしと同い年の…まだ、子どもなのに。…11歳の子が受けるには、とっても重い事だったに違いない、のに。
2009/08/27
こちらを読むより先に、同じ小学校六年生編『恋と愛の副作用』を読むことをお勧めします。