MOI et TOI

君とドルチェ




のりの効いた制服に袖を通した瞬間、ああ、中学生になったんだ。って、実感した。今日から、あたしも中学一年生です。

「寿ちゃんみてみて!制服!似合う?」

でもだからって、別に何が変わったってわけでもないんだけど、ね。
入学式当日。あたしは寿ちゃんと一緒に学校に行くために待ち合わせをしていた。わくわくしていた所為か待ち合わせ時間よりも大幅に早く来てしまったあたしは、一人ベンチに座って待っていると、十分遅れくらいに寿ちゃんが駆けてきた。ごめん、待った?って。時計を確認すれば、まだまだ早い時間だ。「あたしが早く来すぎたんだよ」って時計を指さして言うと、寿ちゃんが柔らかく笑う。それから朝の挨拶を交わして、今の言葉をくるりと回転して見せながら言った。(あ、なんか…去年あたりにもあった、かもしれない)そうすれば寿ちゃんはくすりと笑って、似合う似合うって褒めてくれる。あたしはそれだけで嬉しくなって、にこーってなっちゃう。それから寿ちゃんの姿を見れば、寿ちゃんも新しい制服だ。

「寿ちゃんも学ラン似合うね!」

にぱって笑ったら、寿ちゃんのほっぺたがちょっとだけ赤く染まる。そんなこと言うの、くらいだよ。なんて言うけど、きっとおじいちゃんやおばあちゃんにはそれはもう大絶賛されたに違いない。











それをあたしが聞いたのは夏休みが明けて、数日が経ってからの事だった。時はお昼の休憩時間の事。中学に入ってから新しく出来た友達二人+小学校の時からの親友のとあたしの四人でご飯を食べるのが、最近では当たり前になってきてる。友達二人の名前は依子ちゃんと紗絢ちゃんだ。そして突然のその話を切り出したのは、依子ちゃんだった。「そう言えばさあ」って、ちょっと辺りを気にしながら、小声でつぶやかれたセリフ。え?って依子ちゃん以外のメンバーが一斉に依子ちゃんを見ると、依子ちゃんはあたし達を見合わせた後、更に言葉を進めた。

「アレ、誰に投票した?」

ぽそりと呟かれた質問。アレ?アレってなんだ?そう思ったのはあたしだけのようだった。あーアレね!って紗絢ちゃんは何やら納得した様子。を見れば…わかりにくいけれども、一気に興味をそがれたのか面倒くさそうな表情をしてるから、きっと何かを知っているんだと思う。一人だけ会話の内容がわからなくって、あたしが恐る恐るきくと、「知らないの!?」って吃驚されてしまった。え、そんな常識問題?なのかな。

「う、うん」

迫力に負けてそう頷くと、隣でパンを食べてる(今日はパン注だったようだ)が「くっだらない話だよ」ってやっぱり面倒そうに言った。それに反論したのは依子ちゃんだ。「はそういうかもしれないけど!でもやっぱり乙女の醍醐味でしょう!」目が、キラキラ輝いている。あたしはとにかく蚊帳の外って言うのが嫌で、続きを促した。すると、紗絢ちゃんがふわりと笑ってこっそりとそれを差し出した。出てきたのは一枚の用紙。それに書かれている文章を目で追いかける

「男子人気投票?」

そこにはそう書いてあり、その下には1位、2位、3位と書く欄が用意されている。ぽかんと見ていると、紗絢ちゃんがわかりやすく説明をしてくれた。どうやら、学校全体の人気投票らしい。男子の部・女子の部とあって、毎年恒例行事だそうだ。まあ、いうなればミスコン。ミス友中を選ぶって事らしい。

「その年に選ばれた一位は、キングとクイーンって呼ばれるんだって」
「今回もハイレベルらしいよ!今回の人気で言えば、三年の東響先輩かな!」

東響先輩。その名前を聞いて、思い浮かぶのは、現生徒会長だ。壇上の上で何度かスピーチをしてたような気がするけれど、あんまり顔を覚えていない。だけど、周りから凄く支持のある先輩だと言う事だけは知っていた。「…東先輩、人気ある、よね」おぼろげにしか思い出せない先輩の顔を想い浮かべながら、あたしはそう紗絢ちゃんに向かって言った。紗絢ちゃんから見せてもらった用紙を改めてみると、一位の欄には東響と可愛らしい字で書いてある。なんだかそれが可愛くって、思わず笑ってしまうと紗絢ちゃんが照れたように笑って「憧れだもん」と言った。

「それで、はどうすんの?」

紙は貰ってるはずだよね?と依子ちゃんは言った。その言葉に、最近の記憶を張り巡らせて―――

「あっ」

ごそごそと机の中をまさぐった。そうしたら、ちょっとしおれたそれにぶち当たって、あたしはそれを破れないように引っ張って取り出すと。そこには先ほどみた文字が並んでる用紙が顔をだした。そう言えば、貰って何気なしに机の中に入れたんだった。乾いた笑みを浮かべると依子ちゃんは呆れたようにため息をついて「やる気無いなー!」って。だって、あんまりよくわかんないんだもん。

それに結局これ、順位をつけるものでしょ?あんまり好きじゃない。

ぽそぽそ呟くように言うと、は興味なさげに「同感」とだけ呟いてまたパンをかじった。そんなあたし達二人を見て、ついに大声を出したのは依子ちゃんだった。「もったいない!もったいないよ!!てか、若いのに何その年おいたセリフ!」なんて人生無駄にしてんだ!って言う感じで依子ちゃんは嘆いている。其処まで重要なことでもない、と思うんだけど…。じっとその紙を見つめる。中学入学してから、こういう話題が尽きないって、思う。小学校の時もあったけど、でもそれよりも断然多い。んでもって、夏休み明けの所為か、カップルもちらほらいるみたいだった(あたしからしたら、夢のまた夢、だよ)

「じゃあ、ちゃんも東先輩に一票入れてよ」

ね、お願い。と紗絢ちゃんが可愛らしく小首を傾げてふわりと笑う。とんとん、とあたしの持ってる用紙を指さしてあたしは、ちょっとだけ困る。「無理しなくって良いんじゃない」なんてからの声が聞こえてきた。あたしは紗絢ちゃんとの二人を交互に見つめて―――「ん、わかった」にこって笑って東先輩の名前を書いた。そしたら紗絢ちゃんはすごくうれしそうにお礼を言うから、なんだかちょっとだけ申し訳ない。多分、そんなに人気の人なんだったらあたしの票なんてあってもないようなものなんだろうなーなんて思った。





 






あとがき>>パン注とは、「パンの注文」の略です。(この略し方うちの中学だけかもしれないけど)毎朝、お弁当を用意してない子が、パン注用の用紙(教室に置いてある)に食べたいパンを記入して(メニューが置いてある)それを多分係の人が売店のおばちゃんに渡すと、おばちゃんが昼食になって取りに行くと用意していてくれるのです。人気商品は運なので、外れると同じ金額の適当なもんが入れられてたりして、軽くショックでした(笑)パン注せずに昼休憩中に買いに行く生徒もいましたが、なんせ売り切れの場合があるので殆どの子はパン注をせざる得なかったのです。なんどメロンパンを注文してアンパンになった事か。甘けりゃ良いってもんじゃないんだぜ、おばちゃんと何度も思った(←アンパン嫌い)そんな時には友達がアンパンと違う食べ物を好感してくれたりしてました。凄く良い子でした。今では懐かしい思い出です(笑)
2010.1.8