*milk04
もう、すでに会いたくなってる
あのデートから、二日が経った。二日と言う短い期間の間、あたしと周助は時間を見つけてはメールのやり取りをしていた。また会おうと約束をしたものの、次に予定が合うのは来週の日曜日。たったあと5日で会えると言うのに、もうすでに会いたくなっていて。
でも、この感情が"恋愛"なのか、あたしは答えが出せずにいた。だって、仮にも元恋人だ。懐かしくて恋と錯覚しているだけかもしれない。人生を
28年も過ごし、恋愛もそこそこ経験すると、昔程無謀には突っ込む事など出来にくくなるものである。良く、人生は一度きり。燻ってないで思うがままに突っ走る方がよいだとか、そういうプラス思考な答えを聞くけれど、それでも、いざ恋愛に直面したらそんなプラスばかりにも考えられない。
よくよく考えてみれば、元彼と別れたのは二年も昔の事だ。それっきり恋愛からまるっきり遠ざかり、仕事と家、時々友達の三パターンを繰り返していたあたしにとって、まだ恋愛かもわからないそれを突っ走る度胸など無い。
それに…
考えて、「さん」の声に、思考は中断した。はい!立ち上がると休憩を終え、あたしは仕事を再開した。
「それってもう好きなんじゃないの?」
「………かなあ」
時は、夜。今日の仕事を終え特に予定もないし…と考えてながら携帯を見ると着信のランプが光っていた。ピっと電話に対応すると、の声。「今日暇?」と同じく仕事帰りなのだろう、後ろの方で少しにぎやかな雑踏の音が聞こえた。勿論暇だったのであたし達は近くの駅で待ち合わせをして、適当なお店へ入った。そして、ここ数日悩んでいた件――勿論、周助の事だ――を相談して、先ほどの言葉が返ってきた。
ビールを胃に流し込み、半分空になったグラスをじっと見つめる。
……でも、すぐすぐ結論なんて出せない。
「だけど、…ほら、ただ懐かしいと恋を錯覚してるかもしれないじゃない」
「って、は言うけど、こうして不二君の事ばかり考えて悩んでる時点で、それはもう立派に恋なんじゃないの?」
「……かなあ」
きっぱりした声で言い放つ言葉に、やっぱり曖昧に答える事しか出来ないあたし。こうしたはっきり意見を言える親友は、昔も今も変わらずあたしの憧れだ。の言葉に納得しそうになり…でも、やっぱり残る、不安。多分一番大きなシコリの部分。
「でもさ、ほら、あたし達昔付き合ってたでしょ?」
「…そうね」
「あの頃、多分周助とならずっと一緒にいられるとか、絶対これから先この人以上に好きになる人はいないんだろうな、とか…考えて無かったと言えばうそになるんだ」
当時の気持ちは、今でも鮮明に思い出せる。あたしの初恋で、きっと一番心動かされた、出来事。
「でも、それなのに、あたし…大切だったのに、自分が寂しいからって理由で、遠距離を理由に身勝手に別れちゃったわけじゃない?」
「そうね」
「…それなのに、また地元に帰ってきて、再会してちょっとデートして、やっぱまた好きになっちゃったから付き合って。なんて、あまりにも身勝手な気がして」
ぽそぽそ、とビールグラスを撫でながら呟くと、隣から小さなため息が聞こえた。「」呆れを含んではいるものの、どこか幼い子供をあやすような母親の声で
「はただ、逃げてるだけでしょう?色んなダメな理由を考えて、振られる事から逃げてるだけ。あれから何年経ってるのよ。恋愛なんて身勝手なものよ。だけど、そこから成長していくんじゃないの?…悪かったって反省することが出来たなら変わる事だって出来るはずじゃないの?」
「……」
「怖いって気持ちは良く分かるけど、告白して振られるのと言わずに無い事にするのって、やっぱり心に残る想いは違うよ」
彼女の言葉は、あたしの心を突き刺すのに実に的確だった。けれども、それ以上にあたしの事を案じてくれていると言う気持ちがひしひしと伝わってきて、あたしはぎゅっと口を噛みしめる。ぽん、と右肩にの手が置かれて、「大丈夫、今のならきっとやれるから」その言葉に、不安いっぱいの心が、溶けて行く。思わず泣き出しそうになって(お酒が入ってるから、かな)ぐす、と鼻を鳴らして
「……玉砕したら、慰めてくれる?」
「……どーんとこのちっさな胸に飛び込んできなさいな」
彼女の言う"ちっさな胸"をは拳で叩くと、快活に笑ったので、あたしも小さく笑みを浮かべる。そして、「ありがとう」やっぱり、ちょっと泣いてしまった。だけど、心はどこか晴れやかだった。
「にー」
お風呂場の鏡の前で、笑顔の練習。なんか違うなあ。とか思いながら、また笑顔。けれども鏡の向こうのあたしの笑顔はどこかぎこちない。上手く笑えるかな。また笑顔。やっぱり強張った顔が映った。時は過ぎ、ついに明日は周助と二度目のデートだ。緊張に心臓発作を起こしそうなくらい、胸が高鳴っている。あーもう。とん、と鏡におでこをひっつけると「!あんたいつまで風呂入ってるのーのぼせるわよー」ってお母さんの声。慌てて出ると、いつも以上に長風呂だった事にようやく気付いた。しかも大半が、笑顔の練習とか………。風呂とは別の意味で火照った顔を見た母親は「ほら、のぼせて」とからから笑った。
周助からメールが届いてたのに気付いたのは、その後だった。ピカピカと受信を伝えるランプが点滅した携帯を手にとって、開くメール。それだけで心がうきうきわくわくしちゃう。こんな風に感じるのも、どれくらい振りだろう。思わず顔がにやけてしまうと、四つ下の妹が「何、彼氏?」なんて言うから、「彼氏になってくれたらいいな、って思う人」ってちょっと照れた風に、カミングアウト。
「めっずらしー。お姉ちゃんがそんなこと言うなんて」
「そう、かな」
「そうだよ。……周助君以来じゃない?そんな嬉しそうにしてるの」
「えっ!」
突然周助の名前が出て、驚いた。けれども妹の発言は当たり前のことかもしれない。周助とは随分長い付き合いだったから、当然妹も顔見知りだったのだ。他の彼は地元を離れてた+あまり長く続かなかったから、あまり交流は無いので、一番出やすい名前と言えば、周助なのかもしれない。「そう、かな」言うと、妹はポテトチップスを咀嚼しながら。
だってお姉ちゃん周助君にべたぼれだったじゃん。人生で一番幸せって耳にタコができるくらい聞かされてたし。
「で、そんなお姉の心を見事掴んだ男ってどんな男なのっ?」
「え…ええ…っと」
まさか、昔と同じ周助です。なんて言えなくて、ただただ曖昧に微笑んで、秘密!とだけ伝えた。食い下がってきた妹にどうしようかなあと考えていたら、家事を終えた母親が「あんたはまたおやつ食べて!」と妹を叱ったので、これ幸いとあたしは自室へと逃げ込んだ。
『明日だけど、待ち合わせはどうしようか』
周助のメール内容は明日の件だった。明日…ついに一週間ぶりのデート再来。時間と待ち合わせについてのメールで、あたしは画面をタッチしながら言葉を選んで、返信。数分後すぐに返事は帰ってきて、今回は駅前
10時に待ち合わせる事になった。了解メールを送ると、じゃあ明日ね。おやすみと簡素なメールは終わってしまった。まあ引き留めても今度は明日に支障をきたしてもいけない事はわかっていたので、あたしもおやすみ。とメールを終わらす文字をタッチして、送信。
送信完了の文字を確認の後、ポスン、とベッドへダイブした。ベッドが小さくスプリングしてあたしを包む。たったあれだけのメールなのに、好きだと再度自覚してしまったら、莫迦みたいに心臓が騒ぎ出す。周助とのやり取りは終わったと言うのに、落ち着く気配等感じない。
「やっばいなあ…」
まさか、昔好きだった人にまた恋をする事になるなんて思いもしなかった。確かに周助とは嫌いで別れたわけではなかったけど…。復活愛、なんて続かないと否定派のあたしとしては、本当に予想外の出来事だ。
瞳を閉じれは、思い出すのは周助の事ばかり。
結局あたしが本気で寝なくちゃ!と思ったのは、日付をまたいだ
3時前だった。