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「そんな顔してたらブサイクになっちゃうよ」
は自分に当てられただろう台詞にその人物を見上げた。それから紡がれるのは、ほっといて。と突っぱねた言葉。目の前は素敵な銀世界。座り込んだままでいると、軽やかな身のこなしでの横を通りすぎる子どもに、あんな小さな子でも滑られるのに、なんで。と悔しいやら哀しいやらせつないやらで、は拳を作ったのだった。
時は、冬。中学行事の一環で、只今スキー教室の参加中であった。一泊二日の短い期間、本日は二日目であった。
はスキー初心者で、どうしようかと旅行前から不安がついていた。が、よくよく聞けば自分のクラスの三分の一程が初心者である事が判明し、自分だけではないのだと安堵したのはそう昔の話ではない。そして昨日到着を果たしたらは初心者コース、人並みコース、上級コースへと別れての練習が始まったのであった。
とにかく、は下手くそだった。まず板を履いたまま歩く練習をしたのだが、これがまたスキー板は思いのほか重く、上手く歩けずカニ歩きをしているはずなのに、気を抜けば後ろへスイーっと下がっては良く列を乱した。
けれども、たった一泊二日の行事である。初日(つまり昨日になるわけだが)は初心者に対して優しくこうこうこうするの、と先生も逐一丁寧に教えてくれる。そこで、初心者もある程度滑られるようになるのだ。
自分と同じくらい下手っぴだった生徒はめきめきコツを掴んだのか上達し、ある程度まで滑られるようになってしまった。
そうなると、団体行動であるこの行事。二日目はリフトに乗ると言われ、は至極焦った。けれども二日目になると初心者の中でもそれなりに滑られる人と落ちこぼれとが明らかとなる。そして、取られる行動は決まっている。落ちこぼれなんて数人しかいない。数人の為に先生を割くわけにも行かない。
落ちこぼれを含めた全員が有無を言わさずリフトに乗ることとなった。
駄目元で、「先生わたし滑られないんですけど」と言ったが、そんなに先生は天使のような笑顔で
「大丈夫!さん、コケるの上手になったから!」
悪魔のような台詞を言った。ばかやろう。心の中で毒づいたが、結局行かないと言う選択肢は残されておらず、リフトに乗った。スキー上級者である親友と一緒にリフトに乗り、降りるときから災難は始まった。降りるタイミングを間違えて、思いっきりコケてしまった。鼻を強打して、しかもリフトは止まってしまうし、いらぬ恥をかいた。
そして、いざ、滑るとなり、親友の後ろをついていくも、すぐコケた。そのたびにが大丈夫?と手を貸してくれたので、やさぐれることなく何度もこけては滑りを繰り返したが、それも何十回も続けば、やる気も失せる。
コケるのうまくなったと先生は言ったけど、一体あと何度転べば下界へ辿りつけるんだろう。今や思うのはそんなこと。
もうヤダ。滑りたくない。と子どものように駄々をこねて立ちあがろうともしない。そんな親友にはため息をつくと、そんなこと言わないでと優しく諭す。
「大丈夫、ちゃんとゆっくりだけどは上達してるよ。大分長く滑られるようになったじゃん」
「嘘だよ。わたし生まれてくる時お母さんのおなかの中に運動神経置いてきたもの」
「大丈夫だったら」
「も折角の上級者なんだから、こんな下手っぴと滑ったって楽しくないでしょ?一人で降りちゃって良いよ」
「もうーそんなこと気にしなくていいから。ほら、もうちょっとだから、滑ろう?」
言いながら、右腕を引っ張られ、が渋々立ちあがる。グラリと揺れるのは慣れてないスキー板の所為。アンバランスだが何とか立ちあがるとがにこっと優しく微笑むので、何とか機嫌を持ち直すと、ごめんね。と謝って滑り始めた。
が、やはりそうそう滑られるわけがない。
数メートル進んだところで、またバランスを崩してはコースを外れてしまった。あわわ!と思った時には遅く、親友の声が遠ざかっていく。ぶつかる!と思った時に、「この先危険」のフェンスへとぶつかった。あまりの衝撃にスキー板が吹き飛んで、右足が解放される。見事右側から思いっきり雪へとダイブして
プツン。
本気で、堪忍袋が切れた。少し遅れて、が大丈夫!?と見事な滑りでやってきた。外れてしまった右足を軸に立ちあがり。うん。とへらりと笑って見せる。飛んでしまったスキー板を取ろうと動こうとした時が
本当?怪我してない?先生に診てもらう事も出来るよ・と言った。そこで、悪魔が囁いた。
救護室…!その手があったか。
心配そうに見つめる親友に、慌てて座り込むと、「あ、うん…やっぱりちょっと痛いかも」と左足を抑えた。完璧なる仮病である。普段あまり嘘をつく事がないの言葉をは鵜呑みにして、じゃあ。と紡いだのと、大丈夫?その声は同じだった。
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後書>>一話にしようかと思ったけど他のと同じくらいの長さにしようと思ったので二話構成に。