MOI et TOI

『幼馴染』って言う言い訳




結局あれから横浜リトルは、大人相手に(それでも結構強いってチームらしい)5回コールド勝ちをした。そう言うのを見ちゃうと、やっぱり名門って呼ばれるだけあって横浜リトルって強いんだなーって圧倒。だって、あんなに速い球をバカスカ打っちゃうんだもの。大人顔負けと言うか、なんて言うか。
それからありがとうございまっしたー!って挨拶が済んで、解散となった。また近々試合があるらしいんだけど、まあ骨休め?って言う奴らしい。みんなの帰る用意をしているのをやっぱりベンチで座って待っていると、「じゃあ、お先失礼します!」と聞きなれた声が飛んで、ん?と顔を向けるとこっちに走ってくる寿ちゃんの姿があった。「ごめんごめん」って言いながら小走りで駆け寄ってくる寿ちゃんに、ランドセルしょいながら、ううんーって返す。あたしのよりもさらに重たいんじゃないかって言うバック下げてる寿ちゃんに、なんで疲れないんだろう。と毎回不思議に思うけど、鍛えてるからって返されることはわかってるのでもうあえて聞いたりしない。
あたしがちゃんとランドセルを背負ったのを確認すると、何か合図したように二人で帰り始める。後ろから「仲良いなーお前ら!」「ヒューヒュー」なんて茶化す声が聞こえたけど、なんでヒューヒューなのかさっぱりわからない。とりあえずはじめの仲良いなーにだけ肯定すると、「おーおー妬けるねぇ!」って返ってきて焼けるね?って何が焼けるの?と不思議がってるうちに、寿ちゃんが「そんなんじゃないですってば!」って否定してた。寿ちゃんの顔を見るとちょっとだけ顔が赤くって、なんで赤くなってるんだろう?ってやっぱりわからない事ばかりで、寿ちゃんに素直に聞いたのに、

は知らなくって良いよ」

なんて返されてしまった。むぅ、ケチ。でもそう言った寿ちゃんがまだ後ろの方でぺちゃくちゃ言ってる先輩たちに遊ばれていたんで、聞ける雰囲気ではなくなってしまった(先輩寿ちゃんのことかまいすぎだから!)





「でもさーあのホームランすごかったよー!」

カキーンって打っちゃってさー!と手振りを真似してエアーバッティング。寿ちゃんはそれを見て笑う。「見極めれば結構わかるものだよ」って簡単に言っちゃってるけど、その見極めが大変なのではないかな?と思った。それはあたしがあまりにも実践が下手だからそう思うのであって、リトルに入るような少年少女達にはすっごく簡単な事なんだろうか?考えるとちょっと悲しくなるから中断して。
何か忘れてるなー…と考えて、

「あ!」

思い出した。突然の大声に寿ちゃんがえ?とすっとんきょーな声を上げたけど、そんなの気にしてる場合じゃない。頼まれごとをしていたことをすっかり忘れてこのままおうちの付近でバイバイするところだったと、慌ててランドセルからあの手紙を出した。その一連の動作を黙って見ている寿ちゃんの視線を感じながら、ああ良かった。折れてない。って、無傷の手紙に一安心。ほっと息を吐いて、はい!と寿ちゃんの前に差し出した。

きょとん顔の寿ちゃん。いつまで経ってもあたしの中にある手紙。じれったくって、「もう!」と声を出して、更に寿ちゃんの前に突き出すと、また「え?」って声が返ってきた。パチパチって、驚いてるみたいで、緑色の瞳を何度か瞬きさせてる。それに笑いそうになるのを必死にこらえた。

「えっじゃなくって、はい!これ、寿ちゃんに!」
「え、僕に?」
「そ、と・し・ちゃ・ん・に!名前、書いてあるじゃん」
「別に、手紙なんかにしなくっても直接話せば」
「ちっがーーう!あたしじゃないの!」

きっと頭の中がハテナマークいっぱいの寿ちゃんに、「人に頼まれたの!」と説明を付け足す。てゆうか、こういう事には鈍感だ。きっと寿ちゃんの頭は野球でいっぱいなんだろうなってちょっと呆れて、説明したにも関わらず未だにあたしの手からそれを取ろうとしない寿ちゃんに痺れを切らして、あたしは寿ちゃんの手を掴んで手のひらにピシっと置いた。

「…なんだろう」

やっぱり意味のわかってない寿ちゃんに、さー。あたし見てないから。とだけ伝えておく。本当はそれがラブレターだろうなって予想はあったけど、どんなことが書いてあるの?なんてヤボな事聞けない。そういうのって、プライバシーの侵害だし、茶化すような話では決してないと幼いながらに理解してるからだ(恋の経験はなくってもそれくらいはね)
未だに手紙の意図をわかってない寿ちゃんに、「とりあえず、しまいなよ」と促すと、あ、うん。っておとぼけた声。そんな寿ちゃんがこの手紙を見て、もしほんとにラブレターだった場合、どんな反応するんだろう。想像した寿ちゃんは顔を真っ赤にして慌てふためいてる姿。思わず吹いてしまって、寿ちゃんに「どうしたの?」とちょっと変な顔された。

「ううんっ、なんでもない!」

ほんとはなんでもなくなんて無かったけど、詮索されると困るからそう言った。でも顔はやっぱり笑いがこらえきれなくって笑顔のままだったから、そんな嘘は寿ちゃんにはお見通しなんだろうなって思った。でもだからって言う気ないけど!「ま、ま、いーじゃん!」ねっ?とさっきからずうっと眉間にシワ寄せてる寿ちゃんに笑って言って、ランドセルを背中に担ぎなおして、さ、おうち帰ろー!今日のご飯は何かなーって、さり気なく寿ちゃんの手を引っ張った。

「…全く、もう」

そんな声が聞こえてきたけれど、長い付き合いのせいか、寿ちゃんがそれ以上聞いてくることは無かった。えへへ、と笑うと、しょうがないなって寿ちゃんも笑って。一方的につないだ手が、ぎゅって寿ちゃんからも握り返されて、あたし達はいつものように野球の話をしながら家に帰った。



★★★



次の日のこと。いつものように学校に行くと(寿ちゃんは朝いつもの日課でジョギングしながら登校するから別々だ)早紀ちゃんがあたしの姿をいち早く発見して、ちゃん!って言いながらあたしのところに来た。「おはよ」って挨拶をすると、慌てた様子で挨拶が返ってきたけど、どうやら早紀ちゃんの言ってほしかった言葉は違うみたいで、顔を真っ赤にさせて、なんかちょっと気持ちが高ぶってるみたいだった。それから、あたしの耳元に早紀ちゃんがそっと耳打ち。

「ど、どうだった?佐藤君っ」

ハハーン。なるほどなるほど。耳にダイレクトに伝わる声に、にやけてしまった。不安げな早紀ちゃんが「昨日ほとんど説明なしにちゃんに渡しちゃったでしょ?悪かったなーって後で思って!」緊張しててそれどころじゃなかったの!って真っ赤になって説明するから、ううん、って首を振って否定した後

「大丈夫、ちゃんと寿ちゃんに渡しといたよ」

って、笑っていった。そしたら、ありがとう!って笑顔で返されて。あ、なんか…漫画っぽいって思う。こう、恋する乙女って言うの?そんなクラスメートの仕草に、可愛いなーって和む。恋をするとこんな風になるのかなって思ったら、恋をしたことの無いあたしはなんだかすごく羨ましかった。

それから何度も何度もお礼を言われるから、もうほんと良いよーって何度も何度も言って、ようやくそれが途切れたのは、朝の休憩を終わりを知らせるチャイムだった。キンコーンカーンコーン。その後すぐに先生がやってきて、朝のホームルームが開始した。
ちらりと、右斜め前のほうを見ると、いつの間にか寿ちゃんが席についていて、あ、今日は挨拶してなかった。って寿ちゃんの背中を見て思った。

幼馴染だからかな、朝ちょっとでも会話しないとなんかちょっと変な感じ。





  





2009/01/02