MOI et TOI

『幼馴染』って言う言い訳




バスから降りたあたしは、結局合宿所まで寿ちゃんがあたしの荷物を持ってくれてた。良いって言ったのに、「は自分の体調のことだけ考えて」なんて言われたら、何もいえるわけがない。はぁい、しぶしぶ言ったら、ぽん、って寿ちゃんがあたしの肩を叩いた。拗ねない拗ねない。って、絶対子ども扱いしてるよね。





あれから、合宿所に入ると合宿所の人達からの長いオリエンテーションを受けて、じゃあ男子は三階女子は二階と案内してもらった。部屋のドア横にはちゃんと名前が書いてある。あたしは自分の名前が明記されたところに辿り着くと、仲のいい子に後でねって声をかけて中に入った。そう言えば、他の子誰か確認してなかったけど、誰だったのかな。中に入ると二つの二段ベッドが部屋の左右に置かれている。てことは、四人部屋って事だ。とりあえず自分のカバンをどこに置こうかなって考えて(男子と別れる際に寿ちゃんから返してもらった)、コンコンってノック音。

「はあい」

カチャリとドアが開かれて姿を現したのは委員長。「あ、さん早いんだね」って言いながら、あたしと同じくらいの大きさのカバンもって靴を脱いで部屋に上がってきた。そうか、この部屋のメンバー委員長もだったんだ。へらりと笑う。委員長の登場ならこれで部屋リーダー誰になるかなんて決まったようなものだもん。委員長はカバンを「ちっちゃいけどクローゼットあるみたいだから此処にいれよ」と早速指揮をとってくれた(と言ってもあたしと委員長の二人しか今いないんだけど)「あ、うん」と返事して、カバンを持って入り口すぐのクローゼットに近づくと、委員長が「私が入れてあげる」とカバンを持ってくれた。

「あ、ありがとう!」
「…ううん。……それより、もう大丈夫なの?」

たずねて来た委員長の顔を見れば、どこか怒ってるような感じがして、恐る恐る何が…?って言ってしまった。そしたら、ちら、っと一瞬だけあたしの顔に目をよこして、「…気分」とポツって呟いた。

「えっ、あ、だ、大丈夫だよ!ごめんね、気を遣わして」
「…良いなら、良いの。…それに謝るの、私の方だよ」
「え、なんで?」
「…あのとき、佐藤君が来てくれなかったら私無理やりさん吐かせようとしてた。…わけもわからなかったのに、キツイ口調で怒ったりして…その、ごめんなさいっ!」

そのときに、さっきの怒ってるって言うのは間違いだったと気づく。なんかよそよそしいっていうか、バスでのことを気にしてたんだって。ビックリして「委員長のせいじゃないよ!」って負けず劣らずの声で言ったけど委員長はまだ納得してないみたいで眉間にいっぱいシワを寄せていた。でもほんとうに委員長のせいじゃないんだ。あのときは一瞬だけほっといて!とか思ったけど、でも今になって思えば

「委員長はあたしの体調を心配してくれてたんだよね?」
「う、うん」
「だったら謝る必要ないよ!」

ね、ね?って言って、それでも気にしてるみたいだったから「もう、この話おーわり!」って無理やり片付けた。そしたら丁度ガチャリとドアが開いて「あ、もう来てるー」って声。言いながら二人入ってきて、「これで全員そろったね」と委員長が言った。(その顔と声がちょっと元気になったから良かったって思った)残りの子達もあんまり喋ったことの無い人たちだったけど親しみやすくって仲良くなれそうな予感。最悪な出だしのことを思うと、今はすっごく最高なように思った。



★★★



今日はこれからお昼だ。来てくれた皆さんにって合宿所の人達が用意してくれたのはバイキングで、わーいっぱい色んなものがあるって心が弾む。何食べようっかなー。ってわくわくしてたら、班長に任命された委員長が「はしゃがないようにね!」って声を上げた。やっぱり委員長は人をまとめるのが上手い。あたし以外の二人もわいわい言ってたのに、プスンと止まって「はーい」って声。委員長を先頭に一つずつトレイにお皿とか並べてく。委員長の後ろはあたしだったから、委員長がこっそり「大丈夫?」って耳打ちしてきて、あ。そう言えばあたしバス酔いしたんだったって事を思い出した。心配してくれてる委員長にちょっと申し訳なく思って、でも大丈夫ってニって笑ったら、ふうってため息つかれた後、笑われた。

順番に食べ物を取っていって(と言ってもやっぱりちょっと少食気味に)決められた席に着くと、背中合わせに寿ちゃんがいた。「寿ちゃん!」大きな声で呼んじゃったけど、ちょっと騒がしかったからあまり周りに気づかれることはなかったみたいだ。寿ちゃんは背を向けていた体をこっちに向けると

後ろなんだね」
「奇遇だね!」
「具合はもう大丈夫そうだね」

元気の良いあたしの声と顔を見て、寿ちゃんは満足げに笑うと、わしゃ、っとあたしの頭を撫でた。立つと背格好が同じくらいのあたしたちなので、立ってるときはそういうことしないけど、座ってるとき、または寿ちゃんが立ってるときなんかは、よく頭を撫でられる。でもそれは子ども扱いされたようなそんな感じじゃなくて、純粋に寿ちゃんがあたしのことを心配してくれてたり、褒めてくれてたりしてくれてる為か、嫌な感じにならない。むしろ嬉しいって思って、寿ちゃんが触れた部分を両手でさすってると、ああやっぱり寿ちゃんはあたしのこと良くわかってるって思った。それからあたしは何も言わずにニって笑ったら、それだけで気持ちが伝わったみたいだ。こんなとき、幼馴染ってちょっと良い。下手したら兄妹よりも仲が良い感じ。双子だったらこんな感じなのかな、みたいな。へらって笑ってると、

「ほら、先生の話はじまるよ」

委員長が言ったから慌てて前を見ると、後ろで「また後でね」って声がかかってにんまり。
でも、そこで思い出したのは…早紀ちゃん。あ、そういえばあたし早紀ちゃんにバスの席のことで謝ろうって思ってたのに。きょろきょろとあたりを見渡すと、真ん中くらいにいるあたしたちと違って早紀ちゃんグループは端っこにいて、話しかけるのはむずかしそうだった。





  





2009/01/05