MOI et TOI
『幼馴染』って言う言い訳
ゼーハーゼーハー…息切れし始めて、前を見上げれば、まだまだ頂上には程遠いって事がわかって、ため息が出そうになった。後ろを見れば、ちらほらとつらそうにしている同級生の姿が見えて、みんなやっぱりつらいよね。と心の中で同感して、また前を見て一歩一歩歩き出す。先頭集団はきっともっと上に上っているんだろう。元気だよなぁ…って、同い年なのにどうしてこうも違うんだろうとか色々思う。そしてふっと頭に思い浮かぶのは幼馴染の顔。きっと彼のことだ、前の集団の一味に決まってる。
ただいまあたしたち生徒は、登山の最中です!
「私さぁ、登山なんて考えた人、呪ってやりたいと今すっごく思うよ」
軽い息切れとともに聞こえたせりふに、苦笑はしたものの、あたしも少なからず思った事なので全くだってうなずいてみせる。そうすれば、同じグループの子が「こんなんで楽しいとか思う人はマゾだってお父さん言ってた」って言う。マゾ?まぞって何?ってあたしが聞く前に別の子が問いかけるから、聞かれた友達が得意げに「変態ってことだよ!」って教えてくれた。なるほど、山登りする人は変態さんなのか…。納得して、でもきっと寿ちゃんなら、これくらいの山道足腰が鍛えられて良い運動だよとか言いそうだなーって思ったら本当に寿ちゃんが言ってるときの顔が簡単に想像出来て、思わずプって吹き出しちゃった。あれ?でもそれってつまり、寿ちゃんが変態さんってことになるのかな?えーそれだったらあたしヤダな。変態な寿ちゃんと幼馴染とか…えー…
「…?どうしたのちゃん」
「へっ?」
「何か、変な顔してる」
よっぽど変な顔してたみたいで、両隣にいる友達があたしの顔を覗き込んだ後、忠告されてしまった。わ、なんでもないよ!って慌てて言ったけどえー気になるじゃん!なんて言われちゃったらどうしよう言ったほうが良いのかな…って悩んだ末、さっき思った事を口にした。
「えっと、そのもしかして寿ちゃんもその変態さんなのかなーって」
そう言ったら、友達がポカーンって顔した後、ちゃんそれ絶対あり得ないから!!って説得されてしまった。突然がしって両肩を掴まれて、びっくりして声が出ないあたしに、そのまま順番に「そんなこと言ったら佐藤くんに悪いよ!」とか「佐藤くん好きな子聞いたら怒られるよ!」とか言われちゃって、言葉を挟めないままパクパク口を開け閉めして…そして、え?ってすっとんきょーな声を出しちゃったのは数秒後。だって、今、寿ちゃんを好きな子…って
「えっ!と、寿ちゃん好きな子二人とも知ってるの!?」
思った以上に大きな声を上げてしまって、ばかっ!とか声大きいって注意されてしまった。うぐって慌てて口を閉じてあたりを見渡したけど、奇跡的なことに周りには女の子しかいなかった。…良かった、寿ちゃん運動出来る人で。ほっと一安心して、ごめんねって謝ってから、さあ本題だ。
「そりゃあ、知ってるよ」
「同じクラスの子以外にも佐藤君かっこいいよねって言ってる子いっぱいいるの知ってるもん」
出てくる台詞は耳新しいことばかりで、しかも一人二人じゃないって事。この前早紀ちゃんからラブレターを受け取ったときに寿ちゃんモテるんだ〜って思ってたけど、今回はもっと、もっとモテるんだ!って思ってしまった(だっていっぱいって!…どれくらいなんだろ)止まらない恋の話に耳を傾ける事しか出来ない。小学校五年生で好きな子なんて早すぎる!って思ってたけど、結構普通、なのかもしれない。聞く話は初めて聞くことばかりで、なんていうか、圧倒って言うのかな。口を挟む隙が無くて、ただただ聞き役に回る。さっきまでしんどーっとかもう引き返そうよーとか言ってたのに、今の友だち二人はすっごい元気って感じで生き生きしてる。
「そう言えば、隣のクラスの朝日奈さん佐藤君に告白するー!とか言ってたらしいよ」
ポソポソと聞こえた声に、え!って声を上げたら、「あらあら〜?」ってにやけ顔でこっちを見られた。「気になるの?」言われて、考える。そりゃあ気になるさ。だって、早紀ちゃんも寿ちゃんのこと好きだって言ってたのに、隣のクラスの朝日奈さんまで…ってなったら、どっちかは振られちゃうってことでしょう?でもまさか目の前の二人に早紀ちゃんも佐藤君好きなんだもんとはいえなかったから、「まあ…」って言葉濁したら、もう一人が「ははーん、ちゃんも佐藤君をねー」って言われた。
「え、」
「そう考えるとやっぱり幼馴染っていいよねー佐藤君を寿ちゃんなんて呼べるのちゃんだけだもん」
「これは彼女第一候補はちゃんかなー」
「え、ち、違うよ!あたしが気になるって言ったのはそういう意味じゃなくって!」
「良いって良いって!広めたりなんかしないからさ」
そうそう、って二人して今面白がってるって顔。ち、ちっがーう!ほんとうに違うんだもん。そりゃあ寿ちゃんのことは好きだけど、でもそれはあくまで友達としてというか、幼馴染としてっていうか、兄妹みたいな感じっていうかそんな感じであって、朝日奈さんや早紀ちゃんの言うような好きじゃないんだ。ちがうちがうと否定するのにわかってもらえない。ニヤニヤされるとなんだか顔が赤くなってくるのに気づいて、「ほらー赤くなった!」って茶化される。
「んもー!ほんとちがっ」
「こら!」
ポカっと頭を軽く小突かれて、あたしは途中で言葉を失ってしまった。え、っと前を見れば、委員長の顔。それからあたしの両隣の友達二人もあたしと同じように拳骨くらって。いったい!って声をあげてる。
「あんたたち、おしゃべりしてる暇あったらもっとペースあげる!下手に体力消耗してどうすんの!」
厳しい声がかかって、あたしたち三人は黙りこくる。さすが委員長だ。ほんとリーダーの鏡だよー。なんて今口に出したらおだててもダメ!とかごまかさない!って更に怒られるのわかったから言わない。黙ったあたしたちを委員長は順番に見ると「異論は!?」ってまるで裁判するように言うから、あたしたちの口から出たのは「意義なーし」だった。前を見れば、まだまだ先は、遠かった。
2009/01/06