MOI et TOI
『幼馴染』って言う言い訳
出来上がったカレーは、すっごく美味しくて、失敗しなくて良かったぁって一安心(って言っても皮剥いて、途中ちょこっとルーをかき混ぜてたくらいなんだけど!)美味しいねって笑いながらみんなで食べた料理は、多分お昼に食べた料理より美味しかった気がする。多分自分達で作ったからなんだろうけど。
食べてる最中に、先生が「はーい注目」と手を叩いてそれにみんな(あたしも含めて)先生を見つめた。そしたらご飯食べた後肝試しするよーなんて発言に「たっのしそう!」って声と「いやーー!」って声、半々が周りにこだます。あたしはと言えば、後半の方。肝試し、ってお化け出てきたらどうするのさ。なんて、口に出していえないけど、顔に出てたみたいで委員長にクスって笑われてしまった。委員長は大丈夫派なんだろうか。こっそり聞いてみたら「私そういうの信じないから」とバッサリ。わー大人だー。なんか、寿ちゃんもそんなこと言ってた気がする。
「今から脅かし役と脅かされ役半々に分けるくじを先生がみんなのところに回っていきます」
どうやら説明では前半後半にわけて肝試しをするらしい。つまり、一回は必ず脅かされるし、脅かす役が回ってくるってことだ。あーほんとやだなぁ。すっごく憂鬱になったけど、嫌だなんて言える雰囲気じゃなかった。てゆうか周りの女の子、みんな嬉しそうなんだけど、怖いのみんな好きなの?信じられない、と机に突っ伏すと、「せんせー!もちろん一人じゃないですよね?」誰かが挙手して先生に質問して、「二人一組です」と先生が質問の答えを言った瞬間、周りが「やった」とざわついた。まあ、確かに、一人よりは…気が楽かもしれない。ほ、っと安心すると同じ班の子がそっとあたしの耳元で「これじゃあ佐藤君と一緒は難しそうだね」って囁いた。
「え?」
「だって、多分今喜んだ子達の半分くらいは佐藤君と一緒に回れますようにって思ってるよ」
それを聴いた瞬間「えええええ!!!」思わず叫んでしまって、先生が「さんどうかした?」って名指しで呼ばれていいいいええ!大丈夫です!って返事を返した。みんなの注目が一気に来て、恥ずかしくてちょっと顔が熱くなる。ちらっと寿ちゃんのほうを見たら、やっぱり寿ちゃんも笑ってた。
「そ、そうなの?」
自分に落ち着け落ち着けと心の中で言って、今度はあたしが耳打ちしたら「そうでしょ。小さな声で佐藤君と一緒になれるかな」って声聞こえたし、と平然と言うから、どれだけ耳良いの!って感心してしまった。まあ多分あたしが衝撃を受けてたときのことだと思うんだけど。
顔を上げて、また寿ちゃんのほうをチラリと見た。そしたら隣の男の子と楽しそうに笑ってる寿ちゃん。その前に座ってる女の子を見たら友達の言ってる意味がわかった。…確かに!「こういうとき同じクラスってチャンス多いよね。今から8時までクラス別自由行動だもん」と、ああそういえば着いたばっかりのオリエンテーションのときにそういうスケジュール表を貰ったなって、ポケットに四つ折りになってまだ一度しか見てない(しかも流し読み)スケジュール表を思い出した。
ほんと、モテるんだなぁ。寿ちゃんって。
今までこういう話を聞いてこなかったことが驚きだ。やっぱり合宿ってそういう話がつき物なのかな、とどうでも良いことを思ってるうちに、「はいさん引いて」って先生に呼ばれて、ああ、そう言えば参加しなくっちゃなんだよねえ…と思うとすごくウツだったけど、適当に引いた。
「えいっ!」
「気合入ってるわね」
先生の言葉にちょっと恥ずかしくなって、そんなことないんですけど…とごにょごにょ否定しておいた。開くと、『脅かされ役・7』と書かれていて、七ってなんだ?ちゃんどうだった?聞かれて、ん。これと隣の友達に見せる。
「脅かされ役7かあ。私も『脅かされ役』だよ。4って書いてあるけど」
「この番号ってなんだろう」
きょとん?としてると友達もん〜…なんて考え込む始末。と、とりあえずと反対側に座ってる委員長に「くじなんだった?」って聞けばどうでもよさそうに「ん」って渡された。見てみると「脅かし役・5」となっている。悩んでる間に皆引いたのか、先生がまたパンパンって手を叩いて注目を集めた。
「皆さん引いたようなので、説明します。まず、二人一組って言うのはくじを引く前に言いましたよね。それでうちのクラスは29人います。つまり2で割って14。更にそれを二組ずつで『脅かし役』『脅かされ役』に分けます」
つまりは脅かし役1〜7組と脅かされ役1〜7組の計14組が出来るわけだ。それを前半後半と分けて、前半の脅かし役が終わったら、チェンジして、脅かされ役に回る。と言うことらしい。(一人で脅かし役になるのは危ないからと言う配慮らしいんだけど)
「あれ?せんせー!そしたら一人余るよ?」
そう、うちのクラスは29人。奇数になるので、先生が言ったようにきれいに分かれない。どうするの?って一人の女の子が言ったら、「その子は脅かされ役7に入ってもらいます。つまり7組目だけ三人体制ってことね」と言われて、自分の番号を見て、喜んだ。わ!あ、あたしのところ三人…っ。「良かったね」と委員長に言われて(なんか子供扱いっぽいけど怖さに比べたら!)うん、って返す。
「お、俺と寿おんなじ脅かされ役7じゃん!」
そんな声がかかってきた。声のした方を見ると加護嶋君が嬉しそうに寿ちゃんの肩をバシバシ叩いてる姿があって、今言った言葉を思い出す。『脅かされ役7』って言った、よね。もしかして同じ…?思ってたら隣の子が「佐藤君と同じじゃん」って言うから、あ、やっぱり今のは聞き間違いじゃなかったんだって思った。
「幼馴染パワーってところかしら」
委員長が続いて会話に入ってきて、ふわりとわらうから(大人、っぽい)なんだかちょっとテレてしまって「そうかな」って笑って返した。そっか、寿ちゃん、同じなんだ。
★★★
「じゃあ後片付けをしてー!」
押さないように順番にね!と言う先生の声を聞きながら、さっきの引いた紙をポケットの中に入れ込んだ。…いつ、寿ちゃんに確認しよう。先生はまだチームは作らずに!スタートする前!って言ってたけど…もう周りの仲の良い子達は何番だった?って確認し合ってる。でもあたしはまだ寿ちゃんになかなか聞くに聞けないでいた。班が違うし、座ってた場所も結構遠かったからだと思う。「洗いもの行こっ」って誘われて洗い場にやってきながら、いつ聞こういつ聞こうってそればっかり考えてた。だって、寿ちゃんと一緒は心強い。そう思うとそわそわしちゃって。でもお皿を落とさないようにそれだけはぎゅって手で握って。
2009/01/07