MOI et TOI
『幼馴染』って言う言い訳
ジャージャージャーと流れっぱなしの蛇口の前に立てたのは並んで何分か経ってからだった。こっちこっちと班の子にせかされて、ようやく自分のお皿を流しに置いた。はい、って泡つきのスポンジを渡されてそれにお礼を言って、ゴシゴシって洗う。確かカレーとかって時間が経つとこびりついて取れにくくなっちゃうんだよね、と前にママに言われた事を思い出したけど、まだそんなに時間が経ってないからか、すんなり水だけでも汚れが取れた。それに泡だらけのスポンジでコシコシ洗ってると、さっきの肝試しのくじの話が飛び交ってくる。ときどき何とか君と同じだったのーとか嬉しそうな声が聞こえてきて、あの子、彼のこと好きだったんだ!って思うと変にドキドキしちゃった。
そしたら、「元気出して早紀ちゃん」って声。今日ずっと話をしたかった子の名前を聞いて(だって早紀ちゃんなんて一人しかいない!)ばっと振り返ったら、隣にいた子が言うように元気の無い早紀ちゃん。声、かけづらいかも…って思ってたら、隣の子が、どうしたの?ってあたしの代わりに聞いてくれた(頼んだわけじゃないけど)
「うん、実は早紀ちゃん、脅かし役なんだって」
「でも脅かされ役は後でもやってくるよ」
「うん、そうなんだけど…ほら、佐藤君、脅かされ役7でしょ?一緒になれなかったのが残念みたいで」
佐藤って名前にびくっとしてしまった。そう言えば、早紀ちゃん寿ちゃんのこと好きなんだもん。積極的に話に参加してなかったから、チラって早紀ちゃんのほうを向いたら、隣でお皿を洗ってる委員長によそ見してるとまた怪我するよ、って注意された。そしたら、「あ!それなら!」
「ねえちゃん脅かされ役7だったよね!」
「えっ」
「え、そうなの?ちゃん」
突然話題を振られて、お皿を落としそうになったら委員長がすかさずキャッチしてくれて(ほんと、ママみたいだ!)じろりとにらまれた。ご、ごめんね。って謝ってから振り向いて「な、何が?」って聞くと
「だーかーら、佐藤君と一緒の番号だったじゃん」
「え、あ、うん」
言われて、とっさに声が出てこなかった。変な感じで声を出しちゃったけど、でも他の子たちは気にしてないみたいで「代わってあげなよ!」って声を筆頭に、「変わってあげて、ちゃん!」って両方から言われて、早紀ちゃんをちらってみたら、不安げな顔(うう、でも代わってほしそうにしてるのはわかる…)早紀ちゃんの気持ち、わかってるんだけど。でも、あたしも寿ちゃんと一緒が良い(だって、それでなくても肝試し嫌なのに)だけど早紀ちゃんの恋応援しないと多分友達として、悪い、よね。って考えてたら「ちゃん、代わって、くれる?」って早紀ちゃんがわるそーうな感じであたしを見てた。
「う、うん良いよ!」
これで断ったら絶対悪者だもん。ハンカチで手を拭いてから、ポケットに入れておいた紙を早紀ちゃんに渡した。もちろんさっき引いた『脅かされ役・7』の紙。そしたら早紀ちゃんの隣にいた子が「やったね早紀ちゃん!」ってまるで早紀ちゃん本人みたいに喜ぶ。早紀ちゃんもうんうんって言いながらまるで泣き出しそうな顔して(でも笑ってる)そんな顔見ちゃったら、しょうがないかって思った。
それから反対にあたしは早紀ちゃんの『脅かし役』の紙を受け取る。なんと、6番。最後らへんで時間オーバーで脅かされ役ないとかないかなーってちょっと期待したけど、多分ムリかなぁ…。
次の子に洗い場を譲って、委員長と二人で歩いてたら、「良かったの?」なんて声がかかって、何が?って見つめたら「肝試しのこと」って言われた。譲っちゃったことを言ってるんだってわかって、あたしはうんって頷くと、「まあさんが良いなら良いけど」ってクールな返し。
「だって、早紀ちゃんあんなに喜んでくれてたし」
「さんだって喜んでたじゃん」
「そ、そうだけど!でも、ほらもしかしたらこっちのパートナーも良い人かもしれないし。あたしは、寿ちゃんじゃなくっても平気だよ」
わたわたと手振り身振りで返したら、ふーん。って。委員長はそう言ったっきりなんにも言ってこなかった。
★★★
全員そろったところで(洗い場は何箇所もあったから結構早く終わったみたい)先生が集合をかけてみんなを合宿所の外に座らせた。円になってね、と言われたとおりにみんなが大きな一個の円を作って先生を囲む。そしたら先生はじゃあ出発前に一つ、先生からルールととっておきの話をします。って嬉しそうに喋りだす。
「ルールは簡単」
あたしから先生は良く見えたので、先生がピンっと右手の人差し指を立てたのがわかった。それから地図を持って(合宿所の人にもらったらしい)道順の説明。その地図は後で脅かされ役一組に一枚渡すそうだ。破ったり捨てたりしないようにと忠告された(後半戦でまた使うらしい)
まず脅かし役の人が先生と一緒に脅かすポイントにいきます。それから脅かされ役の人たちは自分が夕食の時に引いた番号の若い順つまり一番の人から二人一組でスタートします。スタートするときに一組に一個ずつ懐中電灯を渡します。決して一人を置いて行くなんてことしないように。それとこの赤いペンも。(赤いペンなんてどうするの?って誰かが質問したら、)それは後で必要なのよ。それで十分後に次の組がスタート。これは時間を短縮させるためね。道は一本道で円を描いて合宿所に戻るようになってます。決して道を外れないように注意してくださいね。で、中間地点のところに、一つの小さな祠があります。その祠の前には先生が君達生徒がカレー作りに熱中してる間に用意した机が置いてありますので、そこにさっき質問のあった赤いペンでフルネームで署名をして一組に一つずつ用意してある石を持ってくること。石には番号が書いてありますのでズルしたらわかっちゃいますからね。
にっこりと先生が言ったけど、まず、名前を書かなくっちゃいけない時点でズル出来ないじゃんって思った。あえて口にはしなかったけど。誰もが黙って話を聞いてるからどんどん説明は続いていく。
「そして、そこで署名と石を手にしたら、またまっすぐ先に進みます。道なりを行くとこの合宿所が見えてきて、」
こちら、と先生がスタート地点とは別の方向を指差す。ばっとみんなそっちを振り向くと、一本の道があるのがわかった。「そのまままっすぐ来るとこのスタート地点に戻ってくるってわけです」簡単でしょ?と嬉しそう。全然簡単じゃないし…っ。始まる前からもう泣きそうだ。となりで体育座りしてる委員長がクスって笑った(顔に、出てたっぽい)
「さて、じゃあ説明もすんだので、ここからは肝試しがもっと楽しくなるお話を一つしちゃうぞー!」
そう言った先生の顔はすっごくきれいなのに、すっごくすっごく殺意が沸いた。ぎゅ、って思わず隣にいた委員長の服の袖を握ったらやっぱり委員長はすまし顔で、あたしのこと笑うんだ。
だ、だから、なんでそんなに余裕なのっ!
2009/01/08
もう小学校の話なんて覚えて無くって、(四年生なら覚えてたけど)どうしようかとオフ友に小学校の林間学校何してた?って聞いたら『肝試しやった』と聞いたので、ネタにさせてもらいました。ありがとう、Fすん!