MOI et TOI
『幼馴染』って言う言い訳
あれから先生の話は最悪だった。これから暗闇の中待たなくっちゃならない人間に聞かせる話じゃない!中には泣き出してしまう子もいて、気持ちが痛いほどわかった。かくいうあたしも泣きそうになってた一人だからだ。
「!」
スタートする直前、行きたくないなーやだなーって体育すわりのままでいたら頭の上から突然名前を呼ばれて「え」って顔を上げるとそこには寿ちゃんの姿があって、「どっち?」って聞かれたから、思わず代わったからって言いそうになって慌てて「脅かし役だよっ」ってだけ言った。
「そっかと一緒じゃなくって残念」
「え、なんで?」
「だって、怖がりだから面白いと思って」
からかわれたことに気づいて、むうってほっぺた膨らませてぽか!っと寿ちゃんを叩いたら「痛い痛い」って全然痛くなさそうに寿ちゃんが笑った。それがまた悔しくって「寿ちゃん!」って怒り口調で寿ちゃんの名前を呼んだらごめんごめんって悪いって思ってない風な感じの声と一緒に、しゃがみこんだ寿ちゃんがぽん、ってあたしの頭に手のひらを乗せた。見上げると笑顔の寿ちゃんの顔があって、そのまま撫で撫でって頭を優しく撫でられる。「頑張ってね」って声に初めて、気を使ってくれたんだってわかった。…結局寿ちゃんは優しいんだ。ときどきそれがわかりにくいだけで。そんな小さな寿ちゃんの優しさに気づいて、あたしはこくりと頷く。嬉しかったのに、なんか素直に喜ぶのは恥ずかしくって、笑顔が変になったかもしれない。
「じゃ。行って来るね!」
先生に集合かけられて、ようやくあたしは重い腰をあげた。脅かされ役の寿ちゃんとはしばしのお別れだ。「思いっきり脅かしてあげるからね!」って言ったら、寿ちゃんが期待してるよって、すっごい余裕そうにいうから、ほんとにいっぱい脅かしてやる!って思った。
★★★
数分前の強気な自分、戻って来い。今一人でそんな事を思う。寿ちゃんと別れてから委員長と一緒に先生について言ったら、初めは14人もいたのに、脅かしポイント一つ一つ通るたびに二人減り、四人減り…と減っていって、結局あたしはパートナーの子と二人で此処を守るようにって祠付近に立たされた。ちょ、こんな一番怖そうなところで!って本気で今日先生を嫌いになりそうだ(もちろん、好きなままなんだけど)それで、二人でも怖いって言うのに、あたしのパートナーときたら、同じ脅かし役に友達がいるからってあっち行っちゃったまま帰ってこない。ほんと、最悪だ。すぐ帰るって言うから、着いていかなかったのに!…まず、仲が良くない男子だから着いていきたいなんてあたしからはいえなかっただろうけど。こんなとき寿ちゃんだったら絶対「も行く?」って聞いてくれるに決まってるのに。ううん、そもそも別のところ行くなんてしないであたしの隣にいてくれるはず。そう思うと、早紀ちゃんに代わったことすごく後悔。
今頃、寿ちゃんと肝試しだわーいなんて思ってるのかな。思ったら、涙が出そうだった。多分、一人ぼっちでさびしくて、だと思う。早く帰ってきてよ!って思うのに、全然帰ってくる気配がない。もう肝試し始まってるんだよ。もう三組もあたしの前を通り過ぎたよっ。まだ怖くて、一組もちゃんと脅かせてないんだから!反対に足音がザザ、ザザなんて不気味な音を立てたからこっちがビビってしまった(情けない…っ)
真っ暗な場所を一人でいると、スタート前の先生の怖い話を思い出す。
ヒタヒタ、とそこには誰もいないはずなのに、確かに足音…しかも、裸足で歩いてくる音が聞こえて。
思い出すな!脳裏に浮かんできた先生の表情と声を必死に頭の中から追い出そうとめいいっぱい頭を振るのに、こういうときに限って離れるわけないんだ。もうほんと最悪。絶対帰ってきたら叩いてやるんだから!喋ったことあんまりなくってもかまうもんか!絶対絶対一発叩いてやんなきゃ気がすまないんだから!心の中で今きっと楽しそうにしてるパートナーを思い出して、涙目を絶対泣いてやるもんかってぎゅってつぶった。そしたら、
タン、タン…って、小さな足音。あ、もしかしたら二組目がきたかもしれない。そう思ったその後すぐに、おかしなことに、気づいてしまった。普通なら、二つ足音が聞こえるはず、なんだ。少なからず一個前のクラスメートはそうだった。不規則に聞こえてくる足音、だった。それなのに、今耳に伝わってくる音は絶対に、一つ、なんだ。
なんで、こんなことに気づいちゃうのあたし!涙がまた出てきて視界がぼやける。やだ、怖くてどうすれば良いのかわかんない。だって、だって、もし脅かされ役の子達なら、そろそろ懐中電灯の明かりが見えたっておかしくないんだもん。それなのに、全然真っ暗なまま。
振り向いた、その瞬間、見知らぬ血まみれの男の子が
「」
「い、いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!」
ぽん、って肩を叩かれたのとあたしの悲鳴はほぼ一緒だった。そのままなりふりかまわずバタバタ手を振ってとにかくその手を取ってやろうって必死に動かす「あ、あたしなんて食べたっておいしくないから!あたしなんて呪ったって全然いいことないしっ、あたし、ととにかく、あ、あたしなんて!」
「落ち着いて、って」
「だ、だからあたしはなんて……え?」
今、幽霊があたしの名前、呼んだ。しかも幽霊って触れるもの、なの?「落ち着いた?」ちょっと冷静になったら、その声が聞き覚えのあるような気がしないでもなくて。恐る恐る振り返ったら、そこには苦笑した
「と、寿ちゃん!?」
幼馴染の姿があった。え、なんで?どうして!?事態がいまいち把握できなくって、え、え?って寿ちゃんを見たら、「やっぱり怖がってると思った」なんていいながらあたしの隣に座り込む。え、だっておかしい。だって寿ちゃんは脅かされ役7番のはずで、で、早紀ちゃんとパートナーのはず、なのに。じっと見たら、「泣いたの?」ってあたしの目の下を優しく寿ちゃんの指が触った。
「な、泣いてないよ!て、てゆうか何で!?」
「ん?ああ…終わった子達がが一人で脅かし役やってたって教えてくれて、きっと怖がりなの事だから泣いてるんじゃないかって思って」
「だ、だって…早紀ちゃ、んと、パートナー、なのに」
「ん?ああ、でもうちは三人だったからね。加護嶋と二人で頑張って。って先生に言って僕が脅かし役になったんだよ」
罰としてのパートナーのアイツは一人で脅かされ役やるってわけ。と意地悪そうに笑う寿ちゃん。やった、あいつ一人か。いい気味だ。なんて思えるほどあたしは余裕じゃなくって。その前に今の状況にまだついてけてなくって。え、だってだって、早紀ちゃん、喜んでる、はず…なのに…
「でも、だって…そんなの寿ちゃんに、悪いよ…っ」
怒られちゃうよってさっき先生から許可取ったって言ってて知ってたのに、それくらいしか良い口実が見つからなくって。だって、早紀ちゃんに悪い、なんて寿ちゃんには言えない。そしたら寿ちゃんが「僕がそうしたいの」って、それ以上嫌だって言わせないって口調で言うんだ。
「、ほら、涙拭いて」
そこで初めてあたしが泣いてたことに気づいた。いつまでも怖がりだもんな、は。って呆れながらでも笑ってる寿ちゃんの涙を拭う手はあったかくって、優しい仕草で。さらにあたしは泣いてしまった。それは、今まで怖かったからなのか安心からなのかはたまた別の何かなのか…そんなこと考える余裕なんてなかったけど、
「ふえっ」
「よく頑張りました」
やっぱり、寿ちゃんの隣が一番安心するんだ。握った手はあったかくって、余計に泣いちゃった。
2009/01/08