MOI et TOI

愛と恋の副作用




ジェットコースターの順番は混んでる園内とは裏腹にすぐ順番がやってきて、あたしは寿ちゃんの隣に座ることが出来た。動き始めて、どんどん坂をあがっていくこの瞬間はとてもドキドキする。そしてちょっとだけの怖さがあるから、あたしはさっきベルトを締めるとき以外繋いでる寿ちゃんの手をぎゅっと握った。ガタ、ガタ、ガタ…ジェットコースターの先端が頂上に達して、くる…!思ったときにはズドーーーン!って落ちて、少しの浮遊感、あのおなかがぞくぞくする感じがやってきて、ぎゅううって寿ちゃんの手を握って思いっきり叫ぶ。それからコースターは何度か上下の激しい坂を凄いスピードで過ぎ去って、さっきとっさに閉じてしまった目を開けると、と早紀ちゃんの姿が小さくだけど確認できた。左手(寿ちゃんと手を繋いでないほうの手だ)を大きく振って、二人の名前を呼ぶと、ちゃんと届いたみたいで二人も手を振り返してくれた。―――すごく楽しかった。やっぱり絶叫は最高だよね!





それからあたし達一同はメリーゴーランド乗ったり、トロッコ乗ったり、観覧車乗ったり。
楽しい時間はあっという間で、じゃあ最後はこれだろう!ってやってきたのは…

「む、無理!」

入り口の看板を見て、あたしはとっさに加護嶋君に抗議した。そしたら加護嶋君が団体行動乱すなよーとか、箕谷木君がこんなの子どもだましだってとかって笑う。わ、悪いけど、小学生はまだ子どもだと思うんですよ!だまされるの当たり前ですから!「やめよう、苦手な子もいるから!」って早紀ちゃんのほうを見たら、そんなに、嫌がってない様子で。五人を見渡すと、反対意見はあたしだけみたいだった。

「だって五人で入ったらお前一人じゃん」
「そ、それでも良いから!」
「じゃあ僕がと残るよ」

は?加護嶋君と声が思わず重なってしまった。お見事、ってが隣で言ったけど実際そんなのどうでも良い。寿ちゃんを見れば、「だって、一人は可哀想でしょ。二人残れば四人で偶数だし良いと思うよ」とか加護嶋君に意見してる。加護嶋君はそうだけど…と一回納得しかけて「だ、ダメ!」それを止めたのは紛れも無くあたしだ。え、って寿ちゃんと加護嶋君の視線がこっちに向かう。だって、そんなのダメだ。

「なんだかんだで寿ちゃんジェットコースターにも付き合ってくれたし、ダメだよ!別に寿ちゃん怖いの苦手なわけじゃないんだからあたしに付き合ってやめるなんてダメ!絶対!」

なんかの広告みたいな台詞を大声で言ったら、寿ちゃんがポカンってして、それからくすって笑った。それからポンってあたしの頭を叩いて、「別にいやいやじゃないから良いよ、僕」って。いや、でもだってそれじゃあせっかくの修学旅行なのに。そ、それなら

「じゃあ、あたしもやっぱり行くっ」
「ええ?」

だってさっきジェットコースター、付き合ってもらったし。それに今回こそあの肝試しのリベンジをしなくっちゃいけないと、思う。驚いてる寿ちゃんをあえて無視して「ど、どうせ子どもだましなんでしょ」って箕谷木君を見たらそーそーってすごいさわやかな笑顔で言われた。だ、だったら今回はその箕谷木君のさわやかスマイルに身をゆだねてみようと思う!

そんなこんなで、入場が決まった



★★★



の、だけど。それがもうほんと最悪だ。入った順番は加護嶋君・箕谷木君が先頭で最後は怖いからという理由であたしと、そして最後に寿ちゃんと早紀ちゃんの列で入っていった。入ってしばらくするともう真っ暗で(いや、明々と電気の通ったお化け屋敷なんて迫力ないけど!)早くも入ったことを後悔していた。寿ちゃんが大丈夫?ってあたしの様子を心配してくれてるけど、それにだいじょ、だいじょうぶ!って答えて、ぎゅって隣のの腕を掴む。嫌がられないことにほっと一安心して、前を一歩一歩進んだ。そしたら「うわあ!」って声が聞こえて、先頭二人が何かに驚かされたことを知る。ちょ、どうしよう。情けないことにもう序盤だってのに泣きそうだ。が大丈夫?って聞いてきて、顔を上げて、気づいてしまった。う、わ!あたしどれだけの力での腕掴んじゃってるの!ご、ごめんね!っての腕を開放すると、「ああ、別に良いよ」って優しい言葉。…、あたし貴方に惚れそうだよ…ぐず、って泣きそうになって、今度はのカバンの端を握らせてもらうことにした(だって、腕怪我させちゃったらやだもんね)





「い、いやーーーーーーーーっっっっっ!!」

もう、声がかれるんじゃないかってくらい、さっきからずっと叫んでます。そのたびにが冷静に「よく見たら可愛い顔してるよ」とか言うけどそういうフォローいらないから!てゆうかその言葉にだまされて改めてみてみたけど普通に怖いばっかりで可愛くないから!むりむりむりむりむりむりむり!!もうほんとなんであたし入っちゃったんだろう!てゆうか箕谷木君、全然こどもだましってレベルじゃないんだけど!(ん?子どもだからだまされちゃってるのかな)涙目で訴えたら「まあ結構怖いの有名らしいよねー」っておちゃらけた声で答えられた。

「さ、いていだ…っ」

もう叫びすぎてノドが痛い所為で小さな声になって出てきた。ぽんぽん、ってがあたしの背中を軽く叩いてくれるのが気休めだけど落ち着く。てゆうかほんと、去年の肝試しみたいに何分おきかとかじゃなくってよかった…。を信じてないわけじゃないけど、二人で行ってたらあたしきっとパニックになって大変なことになってたと思う(それこそ、今の倍以上はに迷惑かけてたに違いない!)何度も色んなところで驚かされながら、頭の隅っこの方では思った。

そんなこんなで、歩いてしばらくしてから。いかにも怪しいですって感じの部屋に入る。そしたら、その部屋には『掟』が書かれてて、【一人ずつ入ること】って。いったい何のこと?って思ったら、その奥の入り口(出口?)のことを指してるんだと教えてくれた。てゆうか一人ずつも何も一人しか入れそうにないんだけど…!あたしの心のツッコミは見事スルーされて、じゃあ一番は俺行くよーって箕谷木君が入っていく。そしたら部屋が、一回転して箕谷木君の姿が消えた。え、ちょ…やっぱりそういう仕掛けなの?続いて、加護嶋君。

「…大丈夫?」
「………じゃないかもしれない」
「た、多分一人ずつって言っても向こうのほうで繋がってるよっ!」

と早紀ちゃんが代わる代わる声をかけてくれる。でも心臓が壊れそうなくらいドキマギしててあんまり声を聞いてる余裕、ない。そしたら、そっと背中に手が添えられて、大丈夫だから。って寿ちゃんの声。なんでかな。やっぱりこういうとき一番頭の中に残るのは、寿ちゃんの声なんだ。





  





2009/01/13

お化け屋敷の回。もうちょっと続きます。