MOI et TOI

愛と恋の副作用




入ったら、結局出た場所みんな一緒、なんてそんな都合の良い話、ない(しかもこれがお化け屋敷なんだから、なおさら)てゆうか、もうどれくらい歩いたのか、わからない。一回転した先に待っていたのは、たくさんの鏡の壁。ミラーハウスって、初めて入った気がする。お化けが出るよりは良いってはじめは思ってたけど、こっちはこっちで困った事態。だって、出口がいくら歩いても、ないんだもん。
そして、あたしはまだ誰とも出会ってない。不安な足取りで、上も下も右も左も前も後ろもあたしの姿を映した鏡の隙間を歩く。はじめは普通に歩いてたけど、しょっちゅう鏡にぶつかってしまうから、むやみに走ったり、できなかった。ほんと、出口なんてあるのかな。てゆうかなんで誰とも出会えないんだろう。そう思ったのは一瞬で、あれだけたくさんの道があったから、きっとみんな別々の方向に行っちゃったんだと思う。(だって、出口で待ってたのに、次に誰も来てくれないんだもん)…ほんと、泣きそう。





「なんだ、意外に早く出れたじゃん」

そう言って出口から出てきたのは、箕谷木だった。けれどもそこには加護嶋だけでなく自分より後に入ったはずのと寿也の姿がすでにあり、「あんた遅いほうだって」とはあきれ口調に言った。どうやら一番にたどり着いたのは彼女だったようで、一番に入って行った加護嶋は寿也と偶然出口付近で一緒になり、同着ゴールだった。
「まじかよー」頭を抱え込んだ箕谷木は不思議でならなかった。なぜそんなに早く出られたのか。加護嶋に問いかけると自分もどっちかといえばミラーハウスの部分で迷ったという。それから出られた後はさくさくと出口一直線だったらしいが。

「え、なんで!なんで委員長と佐藤そんな早いの」
「…あれって、結局トリックでしょ?目くらましなんだから、片手を壁について歩いていれば迷ったりなんてしないと思うけど」

それにうなずいたのは誰でもない寿也だった。同じ方法でやってみたら迷うことなく出られたそうだ。ちなみに寿也は六番目にあの場所を出た。つまり、最後の最後に出たにも関わらず、二番目ゴール。「お前ら…それってすっげーつまんね!」心底信じられないと言った風な表情と声色で言ったのは加護嶋だった。

「子供らしくねーよ!」

同調したのは箕谷木だ。よほど悔しかったのだろう。けれどもそんなのを気にする二人ではない。寿也は苦笑し、まあまあと宥めたけれどは無駄な体力使いたくなかったと、妙に子どもらしさのない返答を返したのち、腕にしている時計を見つめた。あれから、十五分は経っている。出口から出てくるのは知らない大人や、別グループの子達。と早紀の姿は見えてはこなかった。ミラーハウスと言っても大がかりな範囲ではなかったはずだ。けれども迷っている可能性は否定できない。それに、ミラーハウスをクリア出来ても次の段階にが一人で耐えられるのか。秒針が無言でカチカチと動くのを数秒観察していると「あ!出てきた!」と加護嶋が大きく叫んだ。ばっとが顔をあげると、そこから出てきたのは息を切らした早紀の姿であった。心配していた本人(決して早紀のことを心配していなかったわけではない)ではなかったことに心の中でほんの少し肩を落としただったが、すぐに駆け寄り「大丈夫?」と彼女の身体を気遣った。

「ミラーハウス、結構道迷っちゃって、走ってただけだから平気」

息切れの原因はミラーハウスからの疾走だったようだ。運動不足はだめだねと苦笑する早紀に、も苦笑を貼り付ける。それから近くの自動販売機でお茶を買うとそれを手渡した。ありがとうと素直に早紀はそれを受け取ると、きょろりとメンバーを一瞥し、「…ちゃん、まだ…?」各々が様々な表情でうなずいた。



★★★



も、ほんとちょっと疲れてきたんですけどっ!動いても動いても出口につかない苛立ちと、誰にも出会えない寂しさ。だんだん自分ばっかりしか映らない鏡にも飽きてきた。なんでこんなに長いんだろう、そう考えてもしかして迷ってるんじゃ…なんて嫌な考えが浮かんできて、あたしは自分の頭をぽかりと軽くたたいた。「違う、違う、ぜったいちがう!」独り言をつっこんでくれる人もいない。淋しいなぁ…。でもくよくよしたって仕方ないし!もしかしたらもうみんな外で待ってるかもしれない。弱気になっちゃダメだ!自分に言い聞かせて、もうぶつかっても構うもんか!って勢いで走りだした。見事ぶつかって、痛い思いをするんだけども。

走って、何度もぶつかって、もう最悪!とか思いながら走ってたら、しばらくしてなんかさっきまでの道とは違うっぽい感じの道にたどりついた。もしかしたら出口かも!気持ちが高ぶって、意気揚々と突き進む。ガクンッ「え?」急に足元の安定が悪くなって―――

「きゃあああああ!!」

思わず声をあげてしまった。な、なに?なんなの!?さっきとは別に全然真っ暗なそこを目をこらしてみる。そしたら、ふかふかな床。落とし穴っていうオチじゃない。冷静になって考えればすっごい子どもだましだ。び、びっくりさせないでよね。誰に言うわけでもなくて(むしろお化け屋敷に?)独り言を吐きだして、あたしは今もすっごい早さでドキドキしてる胸を押さえてひとつ、深呼吸。足場の悪いそこをえっちらおっちら動いて、出口に向かう。あと、ちょっと。そう信じて。ぶよぶよの足場を通り過ぎると、また扉があった。ちょっと重い扉を両手であける。

「ひっっ…!」

そこで、あたしは思わず尻もちをついた。その扉を開ければ出口だったらと信じていたのに。扉を開けたらまたお化け屋敷の再開、だ。リアルなお化けがこっちを見てる。ずっとみんなと一緒だったから怖かったけど頑張れたしが作り物だからとか茶化してごまかしてくれてたからそれでも、大丈夫だったけど。今はそんな風に思えない!も、最悪。驚きすぎて腰が抜けて、立てそうにない。動かないお化けはずっとこっちを見てる。も、ほんとヤダ。なんでこうなるの。じわり、って涙が目に浮かんできて、視界がぼやける。それでもお化けは怖い。

「もぉ、やだぁ」





「…本当遅いね」
「つか鏡んとこから出たらもうまっすぐ突き進めば出口じゃん」
「よっぽど鏡んとこで苦戦してんのか?」

柏木さんの言葉に加護嶋君と箕谷木君が続く。佐藤君のほうを見れば、難しい顔をしていて、多分の事をすごく心配してるんだってことがわかる。かくいう私だってそうだ。だってあれからもう結構な時間が経ってる。全員そろってから考えると十分は経過していて、たいぶ箕谷木君なんか退屈になってきたみたいだ(自分だって随分鏡のことで苦戦してたくせに)

「なーちょこっとだけ別んとこ行ってきていい?」
「ちょ、それはヤバイだろ」
「だって、まだまだ出てくる気配なさげだし。待ってたら他の乗り物乗れないって。さんなら出てきてみんながいないってなったら待っててくれそうだし」

つか、俺らも十分待ってるじゃん?ちょっとくらい待たせたってさ。なんて言うからカチンときて、「はあ?」って箕谷木(こんなやつに君付けするか!)を睨みつけると、ちょっとひるんで「だ、だって委員長」ってしどもどして言い訳を始める。そんな言い訳聞きたくないわ!だっても何もない!班行動でしょうが!

「ジェットコースターのときみたいに何人かで別れるなら良いと思うよ!だけど一人だけ置いてくっていうのが許せないの!だってお化け屋敷苦手なのに無理やりついてきてくれたでしょうが!それをアンタは」

委員長。強すぎずでも弱くない声と同時に肩を掴まれて私は言葉を途中に振り返る。佐藤君が苦笑してて、だって君心配じゃないの?って思った。そしたら、「行ってくれば良いよ。僕、探してくるから」って。言った瞬間に肩の手が離れて、じゃ、なんて笑顔で出口から入ろうとする。

「ちょ、さ、佐藤君!?出口から入ったら怒られるよ!」
「そのときはそのときだよ。それに、道は一本なんだから出会える確立のほうが高いし。待ってるの、僕も退屈だから」

本当なら、委員長としてそんな身勝手な行動とめたほうが良いのはわかってる。でも、多分佐藤君と私の考えは一緒。そうだと思ったら、とめることなんか出来ないし(ひいきになるかもしれないけど)それに、「退屈」なんて嘘までついて迎えに行くってことは本当に心配なんだと思う。

「……ほら、箕谷木達行きたいなら行ってきなよ」
「え…」
「今佐藤君が探しに行ったから、もう一人じゃないし、行ってきなよ」





  





2009/01/20

結局こうなっちゃうわけです。
※お化け屋敷の逆走は、やっちゃダメなことですよ。