MOI et TOI

愛と恋の副作用




それからあたしは寿ちゃんにおぶられてお化け屋敷を出た。出口にはみんなが待っていてくれて、もしかして小学六年にもなっておんぶなんて!みたいな事言われるかも!って思ったけど、特別それについてツッコミはなかった。反対に、寿ちゃんの背中から降りた時「よかった!」ってがあたしを抱きしめる。それくらい、心配させちゃったんだ。ごめん、ね。謝ったらぶるぶると抱きしめられながら頭を振られて、ちょっとだけほっぺに当たる髪の毛がくすぐったかったけど、嬉しかったから気にならない。

「あれ?加護嶋達、別の乗り物行くんじゃなかったの?」
「寿也までそんなこと言うのかよー!」

男子チームの会話を耳にしながら、あたしははっと気付いて早紀ちゃんを見た。そしたら、ちょうど早紀ちゃんと目が合って。…その顔は笑ってたけど、どこかぎこちなくって、ズキズキとまた胸が痛くなった。





宿泊先に着いて、ご飯を食べてちょっとした先生たちの話を聞いて、じゃあ一組から順番にお風呂入ってー!って号令がかかって、今、あたしたちの組の番だ。早く行こう。っての指示に従って、みんなぞろぞろお風呂場に向かう。ここ綺麗だねーとか、色んな話が耳に届く。その中で、「え、佐藤君と?」って声が聞こえて、あたしはバっと振り返った。“佐藤君”違うかもしれないけど、寿ちゃんのことかもって思ったから。でもよくよく考えれば佐藤君って、寿ちゃんのほかにもいる。「どうしたの?」隣を歩いてたの声に「ううん」って頭を横に振ってこたえた。

「やーん!めっちゃきれーーー!」

お風呂場に一番初めに入ったクラスメイトの声に、ひょこっと覗くと、あ、確かに綺麗。すごく広いし。「泳げるかな」ぽつりとつぶやいたら、が「ダメ」って。厳しいところは厳しい。相変わらずだなーって思って、苦笑して「はーい」って返事を返してから、あたしも浴場に入った。そしたら、「すげーーー!」って声が聞こえて、明らかに女の子じゃない声にえ?ってみんな固まる。そしたらやっぱり男の子の声が聞こえてくる。もしかして、すぐ隣は男子なのかな?思ったら、「えーその声箕谷木ーー?」ってクラスの子が叫んだ。あっちもあっちで驚いたらしい。「声、聞こえんのかよ!」反響する声。よくよく見ると、壁の方、上の方隙間が出来てる。なるほど、だから余計に声が聞こえたんだ。とりあえず体洗おうと思って、椅子に座る。それからお湯を出したりなんかしてたらあっちの誰かが「良い湯だな」を歌ってて、その声がなんていうか…ちょっとハズれてたものだから、女子からのブーイングが飛んだ。そしたら、あっちから「うっせー!」って声が返ってきて同時に、洗面器が飛んできた。

「あっぶないじゃん!」
「おーおー!もしかして当たった?」
「当たってねーし!」

やられたことが気に入らなかったみたいで、女の子の方も洗面器を投げた。いて!見事当たったみたいな声が聞こえて、「今の誰だよ!」って。でもさっき投げた男の子とは違う声。どうやら全然無関係な人に当たったらしい。また洗面器が飛んでくる。それを軽やかによけるクラスメート。「そんなへっぽこ当たらないわよ!」ってまた洗面器を投げつける。

「だーーー!むかつく!おい!佐藤!お前野球部だろ!ちょっとあっちにこれ投げろ!」
「え、ヤダよ。ていうかやめなよ。お風呂場でそんな事」

寿ちゃんの声だ。そしたら「きゃー!佐藤君やさしー!もっと言ってやってよ!」って女の子が騒ぎ出す。そういえば、寿ちゃん人気者だったんだ。って思い出した瞬間だ。そしたら隣で頭を洗っていたが髪の毛の水を絞って、「あんたたちもやめなさいよ」ととがめた。「でも委員長ー!あっちから投げてこられたし」彼女は反省する気はないみたい。うーん、でも…そろそろほんとけがする人出ちゃうかもしれないし、ね。当たった男の子ももしかしたらけがしてるかも。そう思ってたら

「きゃー!ちゃんあぶない!!」
「え?」

声のする方を振り向いたら、次の瞬間、頭をがうんって叩かれた。「いっ…っ!」それからあたしの頭に当たったナニかが音を立ててタイルに落ちる。あたしはと言えば衝撃の走った頭を両手で押さえこんだ。何気に、痛い。横目で落ちたそれを確認すると、シャンプーボトル。絶対アレ、中身入ってた。「ちゃん大丈夫!?」口々に心配してくれてる声がかかる。

「こらーーーーーー!!!今シャンプー投げたのどこのどいつ!に当たったでしょうが!!!」

があっちに向かって叫んだ。そしたら、え、マジごめん!って声が返ってきて、それと一緒に「え!怪我ない?」って、寿ちゃんの声。わ、心配、かけさせちゃった…!「だ、大丈夫!」ほんとはまだちょっと痛かったけどそう大声で返した。
幸か不幸か、あたしの頭に当たったことによってそれから上がるまで何かが向こうから飛んでくることはなくなった。また、こっちから何か投げることもなかった(も本気で怒りそうだったし)



★★★



先あがってて」

私まだ最後の点検しなくちゃならないから。そう言われてでもなんかちょっと一人で帰るのもって思ったけど、大混雑するのはわかってたから「じゃあ外で待ってる!」ってに言って外に出た。お風呂場でぶつけた頭をさすると、ちょっとボコってなってて、たんこぶが出来てるみたいだった。押さえると痛い。ふう、息を吐いて、出口のすぐ隣の壁にもたれかかってたら、寿ちゃんがちょうど男湯から出てきた。「!」寿ちゃんもあたしを発見してくれて、あたしのそばに駆け寄った寿ちゃんが「怪我大丈夫?」ってまた聞いてくる。大丈夫、にこって笑ったけど「どこぶつけたの?」って更につっこまれて、ちょっと頭をね…って言ったら、そっと寿ちゃんの手があたしの頭に触れた。お風呂に入ったばっかりだからほかほかしてる掌があたしの頭をなでる。

「あ、ここだ。たんこぶになってる」
「う、ん。でも大丈夫だよ?」

なでなでと擦られて、「うん、でも後で先生に診てもらってね」って心配だからって言われてあたしはプって笑ってしまった。どれだけ寿ちゃん心配症なのって。そしたら寿ちゃんがははって笑って。それから男湯の方から「寿ーー!」って寿ちゃんを呼ぶ声。そういえば副委員長だから、点検しなくっちゃらしい。ごめん、行くね。って寿ちゃんが最後にもっかいあたしの頭を優しく撫でて、そっと手が離れた。

「うん、バイバイ」

手を振り合って、寿ちゃんが男湯のほうに消えていった。撫でられた頭を無意識にさする。ちょっとだけ痛いのが飛んでったみたい。なんて言ったらまた単純だって笑われちゃうかな。そう思ったらなんだかおかしくなって、笑ってしまった。そのとき、「ねえ」声をかけられた。

「えっ?」

吃驚して顔をあげると、そこには早紀ちゃんの友達が、いて。「ちょっと良い?」って聞かれた。

「あ、でも…あたし、を待ってて」

ちらりと女湯の出入り口の方に視線を移したけど、まだまだ出てくる気配はない。途切れた言葉を遮ったのは、そのうちの一人だった。「大事な話なんだけど」その声と顔は真剣で、声が詰まる。…黙ってしまったら、ぐいって手首を掴まれた。「ちょっと、来て」ぐいぐいと引っ張られる。「でも、」慌てて声を出したけど「委員長にはちゃんと言っとくから、とりあえず来て!」強い言い方に、あたしは口を閉じた。





  





2009/01/29

お風呂パニック。もちろん、物なんて投げちゃいけません、本気で怪我します(笑)