愛と恋の副作用
「きょーーーーーーーと!!!」
嬉しそうにはしゃぎ始める前の二人に苦笑して(昨日のあれがなかったらあたしも同じことしてたと思う)、自由行動の始まり。あれから結局眠れるはずなんてなくて、ずっと頭を伏せてた。ちょっと気持ちが悪くなって(でも我慢できない程の気持ち悪さじゃない)だから元気がないっていうのもある。こんなとき、いつもなら寿ちゃんがいち早く気付いてくれて「、大丈夫?」って声をかけてくれるのに。今日それを言ってくれたのはだった。の声に大丈夫って笑って返したけど、また、変な顔されて。でも何か言われる前に箕谷木君が仕切りだしたから、なんか、ちょうど良かった。
あたし達は今、清水寺に来てます!修学旅行での話し合いのときは「えー」とか色々ブーイングしてた加護嶋君や箕谷木君もなんだかんだで楽しんでる、模様。奥の方の滝(音羽の滝)が目的らしいんだけど、でも清水寺自体も恋愛のうんちゃらで良いらしいから、同じ学校の子たちも結構来てるみたいだった。わー、清水寺ってやっぱり有名なんだぁ。
お参りしてから、じゃあ音羽の滝ってが指揮を取る。「うん!」そう言ったのは早紀ちゃんだ。なんだか今日は人一倍気合が入ってるみたい。まあ楽しみにしてたもんね…あたしも早紀ちゃんほどじゃないけどそれなりに楽しみで、の後ろに着いてった。ちらり、って寿ちゃんの姿が視界の端に映ったけど、でもやっぱり会話は出来そうになくって…悲しくなる。てゆうか寿ちゃんの姿を見るだけでつらくなるから見ないようにすればいいのに、なんか今日に限って気になっちゃって、もうなんでこんなに寿ちゃんをジロジロ見ちゃうんだろうって呆れる、自分に!ブンブンと邪念を振り払うように頭を強く振ったら「髪の毛乱れてんぞ」って加護嶋君に指摘された。手で髪を触ってみると確かに酷い…!マジだ!って箕谷木君があたしの髪を触った。それからぐしぐしって、ちょっと乱暴に髪の毛を撫で?る。
「ちょ!いた、いよ!」
寿ちゃんならこんなことしないのに!むうって怒った顔を箕谷木君に向けると「メデューサだ!」って言うから、何それ!って言い返したらゲームのキャラクターらしい。「石になるぞー!」って箕谷木君が言うから、え、これっていじめ!?って思う。てゆうか、こんな性格なの!?あんまり箕谷木君としゃべったことなかったけど、もっとおっとりっていうか、マイペースっていうかどっちかと言ったら寿ちゃんタイプの男の子だと思ってたよ!なのに、なにこのジャイアンみたいな性格!
「石にならないもん!」
箕谷木君に怒って言ったら、ボスって、寿ちゃんが箕谷木君の頭を軽く小突く。「え、さとう?」驚いた箕谷木君に寿ちゃんは「うるさい」って一言。
「ばっか!怒られてやんのー」
加護嶋君が茶化すように言うと箕谷木君がうるせー!って言い返してた。「寿の可愛い可愛い幼馴染いじめるからだよ」なんてケラケラ笑う。かわ、いい?え…って寿ちゃんを見たら、目が合って、わ…なんか久しぶり(そんなこと、ないのに)でもすぐにそれはフイって逸らされて、「ほら、馬鹿言ってないで行くよ」って歩き出す。いつの間にか隣にいた加護嶋君をじっと見てたら、ぽん、って頭を叩かれて、「ほんと、保護者みたいだよな」って。
ズクン
……あ、まただ。去年の肝試しの加護嶋君のセリフがフラッシュバックする。急な息苦しさを感じてあたしは何にも言えなくなってしまった。そうしてるうちに加護嶋君が箕谷木君の方に走って行ってしまって、あたしは一人、滝に向かうんだ。…なんか、すごく、つまんない。一人って、楽しくない。
★★★
向かった先にはもうみんな着いてて「遅い!」ってに怒られてしまった。集団行動乱さないでよね。って言われてしまって、ごめんって謝る。それから、じゃあみんないったん別行動ー!みたいな流れになった。?どういうこと?ここじゃないのかな?思ってる間にみんな違う方に向かってく。ぽかん、って見てたら、ぽん、って背中を押されてみればが「これ」って札を指さした。そこには文字が書いてあって
「滝に向かって左が学問成就、真ん中が恋愛成就、右が延命長寿。どれか一つだけ選んで一口だけ飲んでください」
復唱してからを見ると、「というわけでみんなそれぞれに行っちゃったわけですよ」って説明をくれた。ああ、なるほど。真ん中のほうには早紀ちゃんがいる。…真ん中、は…恋愛成就。誰となんて聞くまでもない。寿ちゃんだろう。はどうするんだろう?って彼女の方を見たら、「私はもちろん学問成就。恋愛なんて柄じゃないし、延命も、ねえ」って聞く前に教えてくれた。うん、そっか。
「じゃああたしも学問成就にしよ」
「…真ん中じゃなくっていいの?」
「え、なんで?」
今、それこそ小学生だからそこまで成績は悪くはないけど、どちらかと言えば理科とか算数とかが苦手部類だし。算数なんてとくに、円周率とか、ちょっと苦手と言えば苦手だし、てゆうかなんで3,14になるのかがよくわからないけどとりあえず計算してるみたいな感じだし、こんなんじゃあ来年中学生になったとき困っちゃうよね!って思うわけで。そう思ったから学問成就にしようかなって。だってあたしも別に延命を願う程のお年じゃないし、
「恋愛、も…特別好きな人いないし」
てゆうかそもそも恋ってなんなんだろ?って思ってる状態なので、それで相手もいないのに恋愛成就の水飲むのって変じゃない?とか思っちゃうわけですよ。それを言ったら、なんか変な顔されてなんでそんな顔するんだろうって不思議に思ったけど、聞けなかった。後がつっかえてる!とにかく、いこ!の手を握って左側に走って行った。そこで水を飲んで…。飲み終わったときに周りを確認したけれど、寿ちゃんの姿は確認できなかった。…もう、先に行っちゃったのかな。…ほんと、なんか寿ちゃんとこんなギスギスしたままやだなぁ…はあ。無意識にため息をついたら、「学問の神様に怒られるよ」ってが笑ったから、吐いた分思いっきり吸い込んでおきました!
「…佐藤、くん?」
「あ、柏木さん」
「……学問の方じゃなくていいの?」
「うん」
そう言って、佐藤君は私の好きな笑顔を向けて、そこの水をひとくちのんだ。ズキズキと胸の奥が痛くなる。「意外、だな」ぽつりとつぶやいたら、佐藤君が顔をあげて「勉強は頑張れば出来るけど、こればっかりは、」そう切なそうに笑うから、私は胸が締め付けられる思いだ。笑ってるはずなのに、つらそう。そしてその瞳は私を見てるはずなのに、別の“誰か”を想ってる。そんな風に想われてる女の子、一人しか、いない。ここにはいない女の子の姿を思い出して、私の心がちょっと沈む。…告白した時点で、好きな子がいるのは、知ってた。てゆうか知ってしまった。その時名前は明かしてないけど、佐藤君を見れば、わかる。私と同じ目で“その子”を見てるから。それでもがんばろうって思ってる、けど…。でもこうやって神頼みしてる佐藤君を見ると、それだけ真剣なのかなって、私が佐藤君に寄せる想いよりももっとたくさん強い気がして…。こんなに佐藤君に想われてるなんて、すごく幸せなことなのに、“その子”は気付かない。
「…今日、ちゃんとしゃべってないよね」
ぽつり、と佐藤君に聞こえるくらいの音量で話しかけたら、佐藤君が苦笑をした。その顔はやっぱり、笑ってるはずなのに、どこか淋しげで…胸がきゅってなった。…きっと佐藤君をこんな風にさせてしまうのは、“あの子”だけ。…どんなにここのお水を飲んだって、きっと私の想いは佐藤君には届かないのかもしれない。…私が佐藤君の、幼馴染になりたかった。そしたら絶対佐藤君にこんな顔させないのに。…願っても、絶対叶わない夢だけど。
2009/02/02
かきたかった清水寺のシーン。でもあたし、清水寺行ったことないです。だから抽象的です。まちがっててもスルーしてください(笑)あと最後の視点は早紀ちゃん視点です。